商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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124 出歯亀

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 side.嵯峨憲真


「これぞ王道、炬燵にみかん。天国は此処にあり」


 とか何とか言って寒い寒いと連呼し、荷物を置いて早速居間に入った五ツ木君は炬燵に速攻で入ってくつろぎ始めた。当人である五ツ木君は「勝手知ったる何とやら~♪」等と速攻で妙な歌を歌い、


「眞宮~なんか悪いな」


 と軽く謝っていた。
 どうやら俺達が来るまでは雪が積もって来た頃には玄関周辺を簡単に雪掻きし、合間に此処で炬燵に入っていたらしい。
 そんな五ツ木君を見て眞宮は呆れたように一つ吐息を吐き、


「こらこら、留守番係。俺達が使っていい部屋は何処だ」

「俺そこまでは聞いていないんだよー。おじさんとおばさんが掃除をしたと聞いたし、以前眞宮が使っていた部屋で良いんじゃね?」

「と言うことは二階か」


 おお、眞宮の部屋か。
 中学を卒業してから眞宮は滅多に帰って来ていないから使っていないらしいが、部屋の様子は気になる。もしかしたら以前使っていた物ぐらいはあるかも知れない。


「憲真の部屋は別に用意しているかも知れないが、一応見てみる?」


「ああ」と返事をしてこっくりと頷くと、「お邪魔虫な留守番係は此処に残ってお茶でも入れておくよ」と五ツ木君はテレビのスイッチを入れ、炬燵の横に置いてある電気ポットからお湯を急須に入れ始めた。
「あ、茶葉入れ忘れた。まあ、これでいっか~」と言いながら湯呑にインスタントコーヒーを入れ、その後急須に入れたお湯を湯呑に入れ始めた。

 …それで良いのか。



 *



「いらっしゃーい」


 二階の階段を上がると眞宮がドアを開けてくれた。
 その際、「うーん中学の時と変わらず、机しかない殺風景な部屋だなぁ」と呟いた眞宮はスタスタと部屋の中に進み、隅にあったファンヒーターの灯油タンクの蓋を開け、中身が入っているかどうかチェックをしてから電源を入れた。

 少しするとひんやりとした冷気から暖かい空気が部屋の中を循環する。


「何もない部屋だけどどうぞ~」


 押し入れの中から座布団を取り出し、一つ差し出してくる。
 そう言う眞宮は学習机と共に置いてある椅子に腰掛け、「あ~…低い」と呟いている。


「中学を卒業してからこの椅子座ってなかったんだよな」


 と言うことは、当時は今の身長よりも小さかったと言うことか。


「あ、小さいって思ったな?」

「中学って言えば身長低いだろ?」

「そう言う憲真は?」

「うーん…」


 身長か。
 どうだったろうか。194センチの今よりは低いとは思うが、


「確か、160から170センチはあったとは思うが…」


 高校三年生辺りから急激に身長が伸びたから、今よりは低かった筈。


「ちっ!流石憲真」


 身長の事を気にしているのか、悪態をつかれてしまった。


「それは褒めているのか?」

「拗ねているだけです~」

「と言うことは、当時の眞宮は身長が160センチ無かったのか」


 うぐぅ!と呻くと、


「で、でもギリギリ158はあったもん!Ωだから仕方ないじゃないか!」


 とそっぽを向いてしまう。

 …ナンデスカ、眞宮サン。愛しの眞宮サン。
 ソッポを向いて此方をチラリと見るのってとっても可愛いのだけど。愛くるしいのだけど。
 俺を萌え殺す気ですか?


「え?そんな気は無いけど?」


 どうやら口から本音がポロリと漏れていた様だ。
 もしくは普段眞宮が良く喋っている癖が…うん、成程。こうやって俺が本音を漏らすと恥ずかしくて余計に真っ赤になる、と。これは…理性飛びそう。


「あの、憲真」

「はい、何でしょう眞宮」

「何で俺、ファンヒーター入れたばかりで実家の元俺の冷たーい部屋の床に押し倒されているのでしょうか?」

「…すいません、理性が飛びました」

「滅茶苦茶腰が冷えるしケツも冷えるんだけど」

「俺の理性を飛ばさせた眞宮が悪いのですよ、タブン」

「それは俺、悪くねーよなぁ」

「いえ、理性を飛ばす程愛している眞宮が悪いのです」

「え~…んっ」


 文句を言おうとした眞宮の口を俺の唇で閉ざすと、ちょいちょいと肩を突かれた。
 何?と唇を塞いだまま眞宮が指をさす方向に視線を向けると、


「げへへへへへ出歯亀ですぅ~」


 ゲスイ笑顔と笑い声を出した五ツ木君が、ドアの隙間から此方を覗いていた。


 ***

 ・実家編は基本的に嵯峨憲真主体でお話が進みます。今更説明すいません(;´Д`)

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