28 / 29
閑話 僕のヒーロー
しおりを挟む
昔から、優秀な兄上と比べられて育ってきた。兄上はなんでも出来た。勉学も剣術も話術も巧みで誰もが兄上のことを次の王だと思っていた。
しかし、兄上は側室の子供。そして、父上が王太子に選んだのは正妃の子供の僕だった。
いや、多分僕は兄上のお零れで王太子になったのだろう。兄上が王位を継ぐことを拒んだことも僕は知っていた。
だから必死になって兄上の後を追いかける。毎日毎日何時間も勉強して学んで全てを王になることに捧げる毎日。苦しくても誰も助けてくれない。投げ出したくても許しては貰えない。例えいい結果を出せても『では、お兄様のように頑張りましょう』と言われる日々。
僕は兄上の代替品でしかないと悔しくても否定できない事実を諦めていた時にそれは起こった。
自室で寝ていたはずの僕は起きると何故か寝巻きのまま地面に転がされていた。手足も口も縛られているのを確認して僕は拐われたのだと分かった。ジタバタ藻掻く僕に侍女だった人はナイフを突きつけて言った。
「大人しくしててください、殿下。あなたは餌なんですから。でないと・・・死ぬことになりますよ」
信頼していた侍女だった。いつも僕を心配してくれてたのに裏切られたのだと分かった。そっか、やっぱり僕はどこまでいっても本当に心から信頼出来る人はいないのだと思って諦めてしまった時にその人は現れた。
「誰だ!」
「ただのジジイだよ。そっちの子を返して貰いにきた」
「・・・そうか、貴様が賢者だな」
賢者、確か僕に魔法を教えに来てくれていた人だ。何度か弟と妹に教えてるのを見かけた。僕は魔法なんて不要だと思って勉学にだけ集中していたけど・・・。その言葉にお爺さんは肩を竦めて言った。
「さてね」
「返して欲しければ力づくできな。もっとも」
パチンと指を鳴らすと奥から巨人が現れた。怖くても逃げれなくてもがいていると、侍女だった人は僕を抑えて言った。
「こいつに勝てたらの話だけどね」
「なら、折角だし魔法の実験をさせて貰うとしよう」
そう言い切る前にその巨人はお爺さんに拳を叩きつけていた。派手な音と土煙がして僕はお爺さんが死んだと思ってしまったけど・・・煙が止んでから現れた人に驚いてしまった。
「ふむ・・・やっぱり若いと体も軽くていい」
片手で巨人の拳を受け止めているのは先程いたお爺さんが若返ったような人だった。別人かと思ったけど・・・でも、直前にお爺さんが言ってたセリフを思い出す。
(魔法・・・なの?)
「な、なんで・・・」
「そい」
ブン!っとそのまま受け止めてる拳を掴んでお爺さんは巨人を壁に叩きつけて動きを封じた。でも、今の動き・・・僕のことを傷つけないようにしてたような・・・
「お、お前!お前は誰だ!」
「誰って・・・ただのジジイだよ」
「だったらその姿はなんだ!どうして賢者のくせに魔法なしでドルクを倒せた!?」
僕と同じ疑問をぶつける盗賊にお爺さんは気にした様子もなく言った。
「これも魔法だよ。若返りのね」
「ならどうやってドルクをーーー」
「私はね、なるべく体の負担を減らすためによく身体強化の魔法を使ってるんだ」
身体強化?
「体が若くなれば、その分のリソースが攻撃に回せる。だからーーー」
それは一瞬だった。一瞬で室内にいた他の盗賊は意識を狩り取れて倒れてしまった。それがお爺さんの仕業だとすぐに分かった。
「ーーーこんな風に身体能力も上がるんだよ」
「ば、化け物・・・」
「さてと・・・じゃあ、お休みの時間だよ」
そうして最後に侍女だった人を倒して暫くすると、シュゥゥという、煙がお爺さんの体から出て徐々に体が元のお爺さんに戻っていったのを見て僕は本当にその人がお爺さんだと知った。
「まだ、5分が限界か。改良の余地ありだな」
そうして元に戻ってから、お爺さんは僕の拘束を解くと聞いてきた。
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫」
嘘だった。本当は凄く怖かったのだ。でも、そんなこと言う訳にはいかない。こんなことで泣いたらダメと自分に言い聞かせていると、ポンとシワシワな温かい手が僕の頭を撫でて言った。
「我慢することないと思いますよ」
その言葉に僕は驚いてしまった。内心を読まれたようだったからだ。
「・・・ダメだよ。だって僕は父上みたいな王様にならなきゃいけないんだ。泣くなんて許されない・・・」
何度も使用人や教師に言われてきた。泣くなと。兄上は泣かない、父上も泣かないと。だから代替品でも僕は泣くわけにはいかなかった。
「確かにそうかもしれませんね。でも、王様だって人です。泣く時はあります。そして、泣いていい相手の前では我慢しなくていいんですよ」
それは初めて言われた言葉だった。皆が僕のことを兄上の代替品だと思って粗雑に扱う中で初めて掛けられた恐らく本音から心配するような言葉に僕はたまらなくなって思わず涙を流してしまった。
「・・・怖かった・・・僕、殺されると思った・・・」
「大丈夫です。だから帰りましょう」
「・・・うん」
泣いてる僕を優しく抱き上げてくれるお爺さん。生まれて初めて誰かに抱きついて大泣きしてしまった。そんな子供のように泣く僕のことをお爺さんは優しく抱きしめていてくれて・・・僕はこの人の前なら泣いていいと分かった。
そして、こんなカッコよくて優しい人になりたいと生まれて初めて憧れを抱くのだった。
しかし、兄上は側室の子供。そして、父上が王太子に選んだのは正妃の子供の僕だった。
いや、多分僕は兄上のお零れで王太子になったのだろう。兄上が王位を継ぐことを拒んだことも僕は知っていた。
だから必死になって兄上の後を追いかける。毎日毎日何時間も勉強して学んで全てを王になることに捧げる毎日。苦しくても誰も助けてくれない。投げ出したくても許しては貰えない。例えいい結果を出せても『では、お兄様のように頑張りましょう』と言われる日々。
僕は兄上の代替品でしかないと悔しくても否定できない事実を諦めていた時にそれは起こった。
自室で寝ていたはずの僕は起きると何故か寝巻きのまま地面に転がされていた。手足も口も縛られているのを確認して僕は拐われたのだと分かった。ジタバタ藻掻く僕に侍女だった人はナイフを突きつけて言った。
「大人しくしててください、殿下。あなたは餌なんですから。でないと・・・死ぬことになりますよ」
信頼していた侍女だった。いつも僕を心配してくれてたのに裏切られたのだと分かった。そっか、やっぱり僕はどこまでいっても本当に心から信頼出来る人はいないのだと思って諦めてしまった時にその人は現れた。
「誰だ!」
「ただのジジイだよ。そっちの子を返して貰いにきた」
「・・・そうか、貴様が賢者だな」
賢者、確か僕に魔法を教えに来てくれていた人だ。何度か弟と妹に教えてるのを見かけた。僕は魔法なんて不要だと思って勉学にだけ集中していたけど・・・。その言葉にお爺さんは肩を竦めて言った。
「さてね」
「返して欲しければ力づくできな。もっとも」
パチンと指を鳴らすと奥から巨人が現れた。怖くても逃げれなくてもがいていると、侍女だった人は僕を抑えて言った。
「こいつに勝てたらの話だけどね」
「なら、折角だし魔法の実験をさせて貰うとしよう」
そう言い切る前にその巨人はお爺さんに拳を叩きつけていた。派手な音と土煙がして僕はお爺さんが死んだと思ってしまったけど・・・煙が止んでから現れた人に驚いてしまった。
「ふむ・・・やっぱり若いと体も軽くていい」
片手で巨人の拳を受け止めているのは先程いたお爺さんが若返ったような人だった。別人かと思ったけど・・・でも、直前にお爺さんが言ってたセリフを思い出す。
(魔法・・・なの?)
「な、なんで・・・」
「そい」
ブン!っとそのまま受け止めてる拳を掴んでお爺さんは巨人を壁に叩きつけて動きを封じた。でも、今の動き・・・僕のことを傷つけないようにしてたような・・・
「お、お前!お前は誰だ!」
「誰って・・・ただのジジイだよ」
「だったらその姿はなんだ!どうして賢者のくせに魔法なしでドルクを倒せた!?」
僕と同じ疑問をぶつける盗賊にお爺さんは気にした様子もなく言った。
「これも魔法だよ。若返りのね」
「ならどうやってドルクをーーー」
「私はね、なるべく体の負担を減らすためによく身体強化の魔法を使ってるんだ」
身体強化?
「体が若くなれば、その分のリソースが攻撃に回せる。だからーーー」
それは一瞬だった。一瞬で室内にいた他の盗賊は意識を狩り取れて倒れてしまった。それがお爺さんの仕業だとすぐに分かった。
「ーーーこんな風に身体能力も上がるんだよ」
「ば、化け物・・・」
「さてと・・・じゃあ、お休みの時間だよ」
そうして最後に侍女だった人を倒して暫くすると、シュゥゥという、煙がお爺さんの体から出て徐々に体が元のお爺さんに戻っていったのを見て僕は本当にその人がお爺さんだと知った。
「まだ、5分が限界か。改良の余地ありだな」
そうして元に戻ってから、お爺さんは僕の拘束を解くと聞いてきた。
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫」
嘘だった。本当は凄く怖かったのだ。でも、そんなこと言う訳にはいかない。こんなことで泣いたらダメと自分に言い聞かせていると、ポンとシワシワな温かい手が僕の頭を撫でて言った。
「我慢することないと思いますよ」
その言葉に僕は驚いてしまった。内心を読まれたようだったからだ。
「・・・ダメだよ。だって僕は父上みたいな王様にならなきゃいけないんだ。泣くなんて許されない・・・」
何度も使用人や教師に言われてきた。泣くなと。兄上は泣かない、父上も泣かないと。だから代替品でも僕は泣くわけにはいかなかった。
「確かにそうかもしれませんね。でも、王様だって人です。泣く時はあります。そして、泣いていい相手の前では我慢しなくていいんですよ」
それは初めて言われた言葉だった。皆が僕のことを兄上の代替品だと思って粗雑に扱う中で初めて掛けられた恐らく本音から心配するような言葉に僕はたまらなくなって思わず涙を流してしまった。
「・・・怖かった・・・僕、殺されると思った・・・」
「大丈夫です。だから帰りましょう」
「・・・うん」
泣いてる僕を優しく抱き上げてくれるお爺さん。生まれて初めて誰かに抱きついて大泣きしてしまった。そんな子供のように泣く僕のことをお爺さんは優しく抱きしめていてくれて・・・僕はこの人の前なら泣いていいと分かった。
そして、こんなカッコよくて優しい人になりたいと生まれて初めて憧れを抱くのだった。
2
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる