悪役令嬢は溺愛される

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深夜の密会・・・エミリーへの夜這いじゃないよ?

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「今夜は月がよく見える・・・」

時刻は間もなく午前0時になろうとしている頃合いだろうか。家族と食事をしてから仕事を片付けて俺は一人見晴らしのよいテラスへと足を向けていた。

近くには遮蔽物はなく、平らな庭園が見えるこの場所にエミリーと二人でいられたらどれだけ幸せだっただろうか・・・うん、今度は二人で来ようと思いつつ俺は後ろに声をかけた。

「そう思わないか?なあ、騎士団長様・・・・・?」
「・・・そのような話をするために私を呼び出したのですか殿下」

筋骨隆々、いかにも武芸者と言われそうなまさに王国最強と言われそうな風貌のこの男こそ、我が国の騎士団長であり・・・今回の俺の協力者にするために俺がロイン伝に呼び出した人物、ガイヤ・ケミストである。

この国の騎士団のトップの彼は、貴族ではないが、国力として重要な立場におり、その発言力は下手な位の低い貴族よりもずっと強い。

まあ、一応国内外あわせても数えるほどしかいない二つ名持ちの凄腕らしいが・・・戦力的にはきっとあの人外執事よりは多少劣るだろう。うん、だって間近でみたジークフリードの無双っぷりと言ったら、転生主人公がモブを一掃するようなレベルだったからね。

まあ、あんな論外を含めなければ間違いなく最強な戦士である彼から協力を得るために俺は彼を呼び出したのだ。

「ここに来てくれたってことはメッセージはちゃんと届いていたんだな」
「・・・本当なのですか?一部の貴族と、我が騎士団のメンバーが山賊に手を貸したというのは。いくら殿下でも、証拠もなしにこれ以上俺を動かすことはできませんぞ」

そう、俺がロイン経由で伝えたのは今回の騒動に騎士団のメンバーの一部と貴族の一部が関わっているということだ。まあ、出した情報はあまり多くない。詳しいことは今夜会って話すと伝えていたら半信半疑なのは間違いないだろうが、俺は良くも悪くも有名人だ。

王子だからというのもそうだが、俺がここ最近になってエミリーを溺愛していることと、そのエミリーのために執事と二人で山賊を蹴散らしたことは城でもかなり噂になっていたので、騎士団長も今回来てくれたのだろう。

さて・・・

「ジークフリード・・・うちの執事から回ってきた報告書は確認したか?」
「ええ。ですがあれだけで俺の仲間を疑うなら不敬だろうと、たとえ殿下でも許しませんよ」

こちらを威圧するような鋭い視線。うん、なかなか悪くない。正義感と仲間意識が強い奴は嫌いじゃない。まあ、一番は俺と同じように好きな人のためになんでもする奴だが、これなら大丈夫かな?

そんなことを思いつつ俺は騎士団長の視線を受け止めて答えた。

「町の南側に表れた賊、そして城に侵入した賊、さらに、エミリー・・・私の婚約者のキャロライン公爵令嬢の馬車を狙った賊。これが偶然だと思うか?」
「殿下の婚約者が狙われたからそれに対して殿下がそう思い込んでいるだけではないのですか?」
「随分辛辣だな。まあ、それだけなら俺も結論はまだ出さなかったさ。しかしだ、町の南側と城の警備、そしてエミリーがあの馬車に乗っている情報は果たしてどこから賊に流れたのかな?」
「それは・・・」
「それと・・・うちの執事に調べさせてわかったのがこれだ」

手元の資料を騎士団長に放り投げる。
それを騎士団長は読んで・・・視線を鋭くした。

「まさか・・・」
「そう、その資料にあるように、いくつかの貴族が不透明な資金を入手しているんだよ。それと、騎士団のメンバーの勤務時間の入れ替えの法則・・・まあ、もろもろ資料は用意した」

わざわざ騎士団長の協力を得るために確実なものを用意したのだ。正義感が強いならこれでいけるだろうと思っていると、騎士団長は一度目を瞑ってから何かを探るようにこちらを見て聞いてきた。 

「貴方は・・・これから何をなさるつもりですか?」

何をか、ふむ・・・そうだな。

「表向きは国のために王子としての責務を果たす・・・かな」
「本心をお聞きしたいのです」
「エミリーのためのゴミ掃除」

そう答えると騎士団長はぽかんとしてから何故か愉快そうに笑った。

「ははは!・・・いやいや殿下。貴方を誤解してました」
「誤解?」
「無礼を承知で言えば、てっきりプライドが高いだけの子供だと思ってましたが・・・愛する人がいる一人前のだったんですね」
「本当に無礼だな」

不敬罪で引っ捕らえようかと一瞬思ったが、貴重な戦力を削るのは得策ではないのでその思考はスルーした。
しばらく笑っていた騎士団長だったが、やがてその場に片膝をついて、忠誠を誓う騎士のような姿勢で言った。

「殿下・・・数々の無礼をお許しください。そして、願わくばどうか私の忠義をお受け取りください」
「・・・良いのか?私は今からお前に仲間を斬れと言うようなものなんだぞ?」

一転した態度に驚きつつそう言うと騎士団長はそれに対して頭を上げずに言った。

「覚悟の上です。それに、我が国に害をなすなら仲間であろうと容赦はしません。なにより・・・」

そこで一瞬だけ騎士団長は顔を上げて苦笑気味に言った。

「私にも愛する妻がいるので殿下の気持ちは痛いほどわかるのです。大切な人のために国を変えようとする殿下になら私の忠義をお預けできます」
「・・・そうか。なら頼んだ。まずは明日の夜会だが・・・」
「何かをなさるので?」

その問いに俺はニヤリと笑って答えた。

「掃除の下準備だ」



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