悪役令嬢は溺愛される

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《マルス&エスト》子供の成長に・・・

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「まさか・・・アルトがあんな顔をするようになるとはな・・・」

アルトとエミリーが部屋を出てから・・・国王であり、アルトの父のマルス・フォン・クロードは妻であるエスト・フォン・クロードにそう呟いた。

脳裏にあるのは先程の・・・婚約者であるエミリーに向けるアルトの優しげな視線・・・今までならあり得なかった光景にマルスは思わず笑みを浮かべていた。

「ふふ・・・まあ、私の血を受け継いでるんだもの。あれくらいはね」

「お前にそっくりだったよ・・・本当に。何がアルトをそうさせたのかわからないが・・・」

まるで別人のようなレベルのアルトの変化・・・しかし、マルスもエストもその変化を多いに喜んでいた。

今までどこか他人を避けていた息子が、婚約者をいきなり溺愛しはじめて、親友であるロインやマリーナを頼りだしたと報告を受けた時には我が耳を疑ったが・・・どことなく、守るものを定めた男の風格を出した息子に思わず笑みをこぼす。

そんな夫にエストも満面の笑みを浮かべていた。

「恋は人を変えるものなのよ・・・私もあなたに出会ったからこそ、本気で王妃になろうと決めたもの」

「そうだな・・・私も王になんぞなるとは思ってなかったからな」

懐かしむように視線を細めるマルス・・・思い出すのは最愛の妻に初めて会ったときのこと。

ただの貴族で、特に目標も何もなくただ日々を過ごしてあの頃・・・そんなマルスにとって、退屈な日常を壊してくれたのがエストとの出会いだった。

エストは王女にしてはどこか気さくで・・・常に笑顔で誰からも好かれる必要とされる存在。変わりのきく、自分とは違う世界の人間だと、当時のマルスは思っていたが・・・そんなマルスを見てエストは言った。

『だったら・・・あなたが私の特別になりなさい!』

強引にそう言われてあれやこれやという間に婚約者にさせられて・・・それまで自分が見ていた景色とは違う世界をマルスはエストに見せて貰えた。

そう考えると・・・

「アルトは・・・特別を見つけたんだな」

「ふふ・・・そうね」

何がアルトを変えたのかはわからないし、知る必要もないと思う。
大事なのは、大切な息子が『特別』を見つけられたという結論・・・どれだけ、回り道をしようとも、転んだり、傷つこうとも、その先にあるたった一つの・・・確かな『特別』にたどり着けたなら何も言うことはない。

「ただ・・・子供の成長を目の当たりにすると寂しさと・・・自分が老いぼれだと感じるがな」

「あら?寂しいならもう一人・・・作りましょうか?」

「冗談に聞こえないのが君の凄いところだよ」

抱きついてくるエストと笑みを交わしてそっと唇を重ねる・・・夫婦の熱もまだ冷めることはないようだった。
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