初めてはアイツと!?〜大嫌いなアイツの彼女は、私!?

萩野詩音

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第1話

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 その後、ミーティングルームで糸川からA社に関する説明を受けた。
 悔しいけれど、現状の説明も問題点の挙げ方も改善点の模索の仕方も、理路整然としていて話には何の無駄もなかった。
 女性関係はともかく、営業部員としては優秀だと言わざるを得ない。

「急に振られて大丈夫だった? 今持ってる仕事、誰かに頼めそう?」

 ミーティングルームを出て部署に戻る途中、糸川にそう聞かれた。

「まあ。並行して大丈夫だと思います」

 新しい案件は免除してくれるというから、何とかなるだろう。
 そのためにもまず、あの吉野に無理やり押し付けられた資料まとめをさっさと片付けよう。

「さっすが。クールビューティは優秀だなあ」

 揶揄うような声音に、見直したことを一瞬で後悔させられる。こちらが気を遣って公私混同しないように努めているのに。

「ていうか何、クールビューティって」
「え、知らないの? 相川、みんなにそう呼ばれてるの」
「何それ。ブリザードじゃなくて?」

 そう訊ねると、ぱちぱちと目を瞬かせたあと、糸川は思いっきり吹き出した。

「なんだよブリザードって。聞いたことねえんだけど」
「うそ」
「え、何本気で言ってる? まあ……他には雪の女王ならぬ氷の女王なら聞いたことあるけど。あーでも、俺的にはどっちかって言うと女王よりプリンセスって感じだけどな~」

 にやにやと笑みを浮かべてこちらを見下ろしてくる様子に、再び頭の血管がぴしりと音を立てる。
 やっぱりからかっているだけなのだろう、と判断した。

「別に何でもいいけど」
「そういえば相川、今日飲み会くんの?」

 糸川主催でもないのに『来る』という言い方がまずイラッとさせるのだけれど、吉野が大声で喋っていたから聞こえたのだろう。
 仕方なく頷けば、糸川が眉を顰める。

「マジか。気をつけろよ。企画部の男性陣、結構押しが強いから。飲まされそうになったら呼んで」
「……なんで」
「なんでって。まあ相川ならすぱっと断れるのかもしれないけど。さすがに鉄仮面のお前でも、初めて会う人間には少しくらい気を遣うだろ」

 心配されているのか、人付き合いの悪さを貶されているのかわからない。

「飲み会でまで愛想悪くするつもりないけど」

 そう言うと、糸川は目を見開いた。

「いや、飲み会でこそ愛想悪くしとけ。無闇に優しくする必要ねーから」
「私だって場所くらいわきまえますけど」
「そうじゃなくて!あー、まあいいや。」

 糸川はガシガシと頭を掻く。営業職としてはギリギリラインだと思われる明るめに染められた髪は綺麗にセットされていたのに、乱暴に掻き回すから毛先が乱れてしまった。そのまま客先にでも行って、笑われればいいのに。でも糸川のことだから、それすら笑いに変えてしまうんだろう。

 そんな想像をして、またため息が溢れた。

 そうこうしているうちに、営業部に戻ってくる。

「じゃあ、今日の進捗はメールします」

 そう言ってデスクに戻る私に、「そういえば」と糸川が付け加えた。
 何、と訊ねる前に、糸川がぐっと腰を折って、耳元に唇が近づく。

「吉野には気をつけろよ、仕事だけじゃなくて飲み会も」
「え?」
「あいつ、いろんな手使ってくるから」

 元々、気に入った男性社員を全力で狙いにいくらしい、という噂はあった。しかし糸川も同じくらい――それ以上に異性関係にはだらしないイメージがあるんだけれど。

 しかし顔を顰めた糸川はそれ以上何も言わなかったので、ああ似たもの同しでトラブったのかな、と考えて「はいはい」と適当に返して席へと戻ったのだった。


 吉野に無理やり押しつけられた資料のまとめをさっさと片し――申し訳ないけれど提出前のチェックは他の先輩に頼んだ。そう言う意味で部長が全体にA社に専念させると周知してくれたことは有り難い。糸川と二人はいやだけれど――、A社の資料作成に取り掛かる。

 ある程度まとまったアウトラインを定時前にメールで糸川へ飛ばすと、すぐに「サンキュ!』とメールが返ってきて、追加事項も簡単に記載されていた。

 その間、わずか数分。仕事の速さに舌を巻く。

 なんだかんだアシスタントとしての業務はやりがいがあり、今日のうちにもっと進めたかったけれど、飲み会に出席すると言ってしまった以上、ここまでで切り上げるしかない。明日のために簡単にメモを残し、パソコンをシャットダウンした。

「先輩、一緒に行きましょう~」
 いつの間にお手洗いに行ってきたのか、ばっちりとメイクを直した吉野に声をかけられる。
「うん」

 場所と会費はざっくり聞いたけれど、一人で向かうのは心許なかったから、まあ一緒に行くくらい良いか、と頷いた。

「先輩、お化粧直しいいですよね? だってそのままで十分綺麗ですもん」

 もはや嫌味かというくらいにこっと笑った吉野に、「ちょっと待って」と言って口紅だけ塗り直す。気のせいかもしれないけれど、鏡に映った真っ白い顔の血色が、少しだけマシになった。
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