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305話

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さて、赤の間を出たフェルマー様とは入れ違いで、今度は前皇帝がゆっくりと私たちの方に歩いてきましたわ。

貴族達は、当然ですが皆、前皇帝を集中して見ています。

これから前皇帝がお話をしてくれる、とのことですが......一体何を話すのか。

そう思いながら、アルフレッド様と私の間に立った前皇帝をジッと見ていると、前皇帝は

「驚かせてすまない。儂は引退した身だがどうしても、我慢できないことが起こってしまったから今日はこうして時間を取らせてもらった」

と前置きをした後に、すぅっと、深呼吸をしましたわね。

前皇帝も久しぶりに皆の前に立つので、緊張しているんでしょうか?

それに、話がある、とは聞いていますが内容がわからない、というのも少し怖いですわね。

まぁ、変なことは言わないということはわかっていますが......。

なんて思っていると

「まず、フェルマーの件だが、儂と同い年くらいの貴族達は奴がどのような人間なのか、嫌というほどわかっているだろう。それなのに奴を宰相という地位に置き、好き勝手させていたのは儂にも責任がある。本当にすまなかった」

前皇帝はそう言うと、貴族達に向かって、深々と頭を下げましたわ。

これには、流石に皆驚いたようで、動揺しているのが私でもわかりますわ。

まさか前皇帝が頭を下げるとは.....という感じでしょうか?

なんて思いながら、貴族たちを眺めていると、頭を上げた前皇帝が

「ただ、これはハッキリ言っておきたい、と思ったのが反皇妃派閥というものを作った、又は参加しているということは、儂が決めた皇妃が気に入らない、ということだからな」

と言った瞬間、急に会場の空気が変わりましたわね。

なんといいますか.......ピリついている...というのがこの状況に合っているんでしょうか?

きっと、前皇帝の目が鋭くなったのも関係があるとは思いますが、本当に一瞬で空気が変わったので、流石だな、と思いますわ。

まだ、アルフレッド様ではこのようなことは出来ませんものね。

そう思ってチラッとアルフレッド様を見ると、凄く真剣な顔をして正面を見ていましたわ。

そんな中、前皇帝は

「儂としてはユーフェミア嬢が国に来てからというもの、アルフレッドもまだまだな部分はあるが皇帝としてしっかりと仕事をこなせるようになったし、この国の弱い部分がユーフェミア嬢の知識によって補われていることにまだ気付かないのか」

と言葉を続けていますが、これに関しては、当然ですが思い当たるような人が沢山いますわね。

なので、都合の悪そうな顔をして下を向く人が一気に増えましたわ。

中には前皇帝の圧が凄いからでしょうか?顔色を悪くさせているような人もいて、なんだか凄い状況ですわ。

ただ、私としては前皇帝が私の味方をしてくれている、というのはとても嬉しい事ですし、まさかここまで褒められるとも思っていなかったので、少し照れくさく感じますわね。

なんて呑気に思いながら、話を聞いていると

「この皇妃の何が嫌で反対しているのか、正直理解が出来ない。ここにいる半数以上は反皇妃派とやらに参加しているんじゃろう?何が気に食わないのか言ってみよ」

前皇帝はハッキリとした口調で、貴族達にそう言いましたが誰1人手を上げることはありませんでしたわ。

もしかしたら、手を上げにくかったから、という理由かもしれませんが、とはいえ、この言葉を聞いてそれぞれ考えを改めてくれたのなら私も嬉しいですわ。
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