貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第一章

新たな脅威

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 いつものように仕事をしている時のことだった。

 猟にでたアイナがすぐに戻ってきたのでゲッターは何かあったのだと思った。
 ガプロを呼んで一緒に報告を聞く。
 以前もガプロを長として立てていたゲッターだが、先日の話の後は何か決める時は必ずガプロと相談するようになった。ガプロもそうするようになっていた。
 アイナもそれを承知していたのでゲッターだけでなく2人に報告するようにしていた。

「朝の罠の点検に行ったら見知らぬゴブリンが罠にかかっていました。もう1人ゴブリンがいて、そのゴブリンを助けようとしていました。それで私が罠から解除してやると何も言わずに立ち去りました」
 ゲッターはゴブリンの様子が気になったので「罠にかかって怪我はなかったのかい?」とアイナに聞いた。
「かかったのが動物用の罠だったのでそれほどではなさそうでした。痛みはあっても歩けるくらいだと思います」とアイナは答えた。
「彼らはここを見つけているかな?」とゲッターは聞いた。
 アイナはその質問を想定していたようですぐに答えた。
「かかっていた罠の場所からたぶんまだ見つけていないと思います。ただ罠があり私に出会っているので、こっちに何かあるのは気付いていると思います」
 その答えを聞いてゲッターはガプロに「前の村の者かな?」と聞いた。

「この辺りにゴブリンの村は一つしかありません。他にあるのはオークの村だけです。前の村の者で間違いないでしょう」とガプロは答えた。
「こっちに来るかな」とゲッターは2人に向かって聞いた。
まずガプロが「人間がいるということはそこに食料があるということです。まず間違いなく来るでしょう」と答えた。
アイナは頷いて同意の意を示したあとに聞いてきた。
「今のままだと罠を辿ってきたらここに辿りついてしまいますね。迷わせるように罠を設置し直すこともできますが?」
 ゲッターはアイナの答えに直接答えずに言った。
「まずは方針を決めようか。と言っても最終的にここが見つかるのは決まりかな。そうなると食料を求めて争いになると言うことだね」そう言ってゲッターがガプロを見るとガプロは自信を持って頷いた。
「なら時間稼ぎのためにも罠を設置し直してもらうのは必要だな」とアイナに向かって言った。
 アイナは少し考えながら「彼らがここに来るのを諦めるくらい多く罠を設置することもできますけどね。ただ私以外の人が1人で森を歩くことはできなくなりますが」と言った。
 ゲッターは苦笑しながら「森を歩けなくなるのは困るな。だから時間稼ぎの方向でいこう」と言った。

「村にはどれくらいの人数がいるの?」とゲッターはガプロに聞いた。
「村を追い出された時に男が150人くらい、女が150人くらい、子どもが150人くらいで全員で500人に届かないくらいでした。何もなければ大きく変わっていないと思います」とガプロは答えた。
「男の人数が増えている可能性は?」とゲッターは重ねて尋ねた。
「先ほども言いましたがこの辺りには他にゴブリンの村はありません。だから外敵に襲われて数を減らしていることはあっても数が多く増えていることは考えられません」とガプロは自信を持って答えた。
「何人くらいで来ると思う」とのゲッターの問いに「最初は場所の確認に来るでしょう。それは最大で10人くらいだと思います。実際に攻めて来るとなると最大で120人くらい来る可能性があります」とガプロは答えた。

 ガプロの的確な返答にアイナはびっくりしていた。
 ここまでの付き合いでガプロが人間と変わらぬ知識を持っているのはわかっていたが、ここまで聡明とは思っていなかった。改めてゲッターが信頼するはずだと思った。

 ゲッターはガプロの答えに満足そうに頷いた。
「それで最大120人を迎え討つとしてどうしようか?逃げるか籠城するかってところだと思うけど?」
「こちらにはゲッター殿とアイナ殿がいます。準備をすれば籠城して追い返せると思います。問題はこの争いをどう終わらせるかにあります」
 ガプロの言葉にゲッターは「どういうこと?」と聞いた。

 ゲッターとアイナの顔を交互に見てからガプロは生徒に言って聞かせる教師のように言った。
「もう一度言いますがゲッター殿とアイナ殿がいるので籠城して追い返すことはできます。準備さえしっかりすればそう難しくないはでしょう。ですが相手方には甚大な被害が出ると思います。そうなるとあの村は多数の働き手を失うことになります。そうなった後あの村の女と子どもはどうやって生きていけばいいのでしょうか?」
 アイナは難しい問題を出された生徒のような顔をしてゲッターを見た。
 ゲッターはガプロの問いを予想していたようで表情を変えず「向こうの村を取り込めってことかい?」と聞き返した。
 ガプロは少しびっくりした顔をした後に表情を真剣なものに整えてから「そうする必要もあるということです」と答えた。

 ゲッター「う~ん」と言ってから「まあ見捨てるのは心苦しいからね」と言った。

 ゲッターは「この村の行く末を決める大きな決断になりそうだな」と言ってからアイナを見て「とりあえず時間稼ぎは必要だ。取り急ぎ罠の設置し直しを頼むよ」と指示を出した。
「みんなで籠城の準備を始めよう。まだ時間はあるから準備しながらどうするかみんなで考えよう」
 ゲッターは笑顔で2人にそういった。

 ゲッターは罠を設置し直しに行ったアイナを除いた8人のゴブリンを前に先ほどの話を説明した。 
 女たちは皆争いになるのを怖がっている様子を見せた。
 カプルは追い出されたのを思い出して「おいかえしてやる」と意気込みそれを見たアッグも「おいかえす」と後に続いた。
 ジュアは「かてるかな?」と少し不安そうに聞いていた。
 小柄で元気なエラが「わたしもたたかう」と手を挙げたのでアルが「あなたはにんぷでしょ」と止めていた。

「勝てるよ。正直に思っていることを言うとやり方次第ではアイナ1人でゴブリン120人追い返せると思ってる」とゲッターは真剣な顔で言った後「私がこう言っていたことはアイナには内緒にしてくれよ」と言って情けない表情をしてみんなに口止めをした。それを見てみんなの表情が緩んだ。

「まあアイナ1人にそんなことをさせる気はないけどね。難しいのはこちらに犠牲を出さないようにすることだよ。そのためにはしっかりと準備をしなければならない。みんな協力してくれるね?」とゲッターが聞くとみんなは真剣な顔をして頷いた。

「最後に聞いておきたいのだけど争いが終わった後あの村をどうするか意見がある人はいるかい?」そう聞かれガプロ以外のみんなはアイナのように難しい顔をした。
 するといつものように少し俯くようにして控えめにして座っていたウタが、小さな声で言った。
「わたしはむらのみんなをたすけたいです。はなれたけどまだなかまだから」
 いつものように小さな声だったが彼女の持つ強い意志は伝わってきた。
「わたしもたすけられるならたすけたい。うえてしぬのはつらいから」とイレが言った。
「ゲッターならたすけられる。だってつよいから」とカプルが叫んだ。それに続いてアッグも「ゲッターつよい」と大声で言った。
 ゲッターは最初困ったような顔をした。それからうれしそうな表情になって「すごい期待だな」と呟いた。
「わかったよ。でも攻めてくる男たちには手加減できないよ。そんなことしてたらみんなを守れないからね。でも争いが終わったらできる限り向こうの村の者を助けられるようにするよ」と言った。
 するとみんな拍手で賛同してくれ、ガプロは満足そうに頷いていた。
 こうしてガプロたちが追い出された村との争いの方針が決まった。

 それから戦の準備が始まったのだが基本的にそれまでの生活と変わったことはなかった。
 すぐにしたことは櫓を増やしたぐらいで、その後は今までと同じペースで1日おきに塀の強化と槍、弓の訓練と勉強の生活を続けた。ただ訓練の際に実際の籠城戦を想定した行動や打ち合せはしていった。

 攻め込まれたら基本的には3つ建てた櫓の上から弓で攻撃することになっていた。櫓にはそれぞれゲッター、ガプロ、カプルとアッグが上がりアイナは適宜助けが必要なところに入る遊撃隊、ジュアは伝令と矢やその他の物資の補給隊となった。これはアイナが1番強いから自由に動けるようにするためと、アッグは槍の訓練はしていたが弓の訓練はしていなかったので、今から訓練するよりは補給隊に回ってもらうことになったのだった。

 女たちは戦闘が始まったら洞窟に隠れていればよいとガプロが言った。
 女はゴブリンにとっては宝だから抵抗さえしなければ何もされないとのことだ。「言うことをちゃんと聞くんだよ」とガプロがエラに釘を刺していた。

 それからガプロから「剣か斧の訓練しましょう」と提案があった。
「大勢を相手にするなら囲まれることもあるでしょう。それなら槍よりも小回りが利く剣か斧を持っていた方がいい」とのことだった。

 戦闘に関してはガプロは普通に強かった。コンタージュ領の兵士隊の隊員と戦ってもそうそう負けないだろうというくらい強かった。人間より小柄なためリーチが短いのが不利になるだろうが、技術的には問題なかった。

 この頃にはゲッターとアイナはゴブリンが人間より劣っているのは体格くらいだと認識していた。訓練と勉強次第でゴブリンもどんどん成長できると思っていた。

 手持ちの武器にガプロは斧を、カプルとアッグは剣を選んで訓練していった。ガプロは以前から斧で戦っていたらしくガプロの希望を聞いて石と木材を使って少し長めの手斧を作った。もらったガプロはとても喜び「これがあればあいつにも勝てるな」と呟いていた。

 カプルとアッグにはそれぞれの体格に合わせた石のロングソードを作ってあげた。皮でベルトも作り腰に刺してあげると2人とも飛び上がって喜んでいた。

 ゲッターが「出会った時は石の斧を使っていたよね?」とカプルに聞くと「ゲッターがロングソードだからこっちにした」とのことだった。アッグにも聞いたら「アニキといっしょ」と答えた。

 剣の訓練を始めてすぐに気づいたことだが、カプルには剣の才能があった。目が良くて素早く、また手首が強くて剣の受け流しが上手だった。ゲッターとアイナはカプルの目が良いことには弓の訓練で気づいていたが、素早さと手首の強さは予想以上だった。
 カプルはわずか数日でメキメキと強くなっていった。

 ジュアにはダガーを作ってあげた。
 彼は燻製作り担当の補給隊だ。囲まれたら抵抗せずに投降するように言ったら最初は嫌がったが「これからも燻製を作ってほしい」と言うと最後は渋々納得してくれた。

 ちなみにゲッターとアイナの剣の腕前だが2人ともかなり強い。幼い頃からコンタージュ領内で最強の騎士に鍛えてもらっていたのだから当然だ。間違いなくゲッターの兄たちでは全く相手にならかっただろう。

 実は弓の技術も訓練で止まっている的を射るだけなら2人の腕前は互角である。
 だが実際に森の中の猟の場ではアイナは特別な才能を見せる。
 状況の理解と判断、相手の動きや心情の読み、その環境への適応などが異常なほど優れていた。
 アイナの父であるノリスによるとアイナは猟師が一生を懸けて経験して手にする能力をすでに持っているとのことだった。ゲッターからすると悔しかったが落胆したりはしていなかった。いつも一緒に育てられた2人からすると片方だけができて、もう片方ができないということはないと思っていたからだった。だからゲッターはたくさん努力すれば猟の技術でもアイナに追いつけると信じていた。ノリスも言っていた。ゲッターに足りないのはもう猟の経験だけだと。


             ⭐️⭐️⭐️

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