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婚約破棄された令嬢が、「仕返しに元婚約者の彼女を寝取る」と言っておりますが、いやどうやって?
2.出遅れたくない!
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「彼女を私に夢中にさせて、"お粗末な愛でしたね?"って、嘲笑《あざわら》ってやるから!」
「ま、待つんだ、カロリーナ、寝取るって、どうやって? 意味わかって言ってる?」
「意味はわかるわ。方法はわからないけど。とにかく、男性にはすごく不名誉で屈辱的なことなのでしょう?」
「う? うーん? ちなみにどこ情報?」
「幼い頃、兄様から教えていただいたの。兄様のご友人が、恋人を寝取られたのですって」
「へえ……」
何番目の兄上かな。カロリーナはきょうだいが多いから、うっかり妹に聞かれたんだろうな……。
「──とりあえず、淑女はそんな言葉使うのやめとこうか」
「淑女、淑女って、淑女してたらこのザマよ?! なんで私が、あいつに捨てられるみたいな構図で馬鹿にされなきゃなんないの?! 家同士で決めた契約関係で、ミジンコほどの愛もなかったのに!!」
「微塵の愛もないから、こんなことになった気もするけど、まあ、確かにあれはなかった。礼を失してるにも、ほどがある」
「でしょう? だから彼女を私に靡かせてやるのよ! こう見えて私、女の子にモテるんだから!」
スレンダーなカロリーナの背は高め。面倒見が良く快活な性格で、そういえばよく同性から告白されていた、ように思う。
赤みがかった金の髪も、気の強そうな目元も、眩しいくらい生気に満ちている。
「すぐ計画を立てなきゃ。まずは身元調査から……。でも彼女、どこかで見た気がするわね」と呟きが漏れている。
それはジュリオ殿の周辺で見たのでは。
「一旦落ち着こう、カロリーナ。そもそもなんで相手の女性をターゲットにするんだよ。そこはジュリオ殿よりいい男を捕まえて、見返してやれば良いじゃないか」
「いやよ! ヤツに大ダメージを与えてやりたいもの! それにロクでもない男に振り回されるのは、もううんざり!」
荒れ狂ってらっしゃる。
「顔しか取り柄のないあんな男、こっちから願い下げだわ。それに顔ならウチの幼馴染の方がずっと──」
(ずっと、何?)
目が合うと、ふいにカロリーナが顔をそらした。
さっきの興奮が残っているのか、彼女の首筋が少し赤い。
「ッ、なんでもない。アルドはいま、王室直属の騎士なんだっけ?」
「うん、王太子殿下の近衛だよ」
「王太子殿下は文武に優れた素晴らしい方と評判よね。難しい関門を突破したなんて、さすがだわ」
今日はじめて、カロリーナが穏やかな笑顔を見せた。
(可愛い……!)
そんな彼女に誇らしく胸を張りたくなったのも束の間。
「蜂にすら泣いて逃げてた子が、立派になって……、ううっ」
黒歴史を引っぱり出された。
「何歳の時の話をしてるのさ」
「あら、私が守ってあげたの、忘れたの?」
「覚えてるよ」
だって、だから僕は騎士になろうと決意したから。
不甲斐ない自分が恥ずかしくて、今度はきみを守れる立場になりたいと決意して。
七歳の春に、未来を描いた。
子だくさんのファサンテ伯爵が、さっさとカロリーナの嫁ぎ先を予約してしまうなんて、あの頃は予想出来なかった。
(彼女がガルディ家と婚約したことを知った時の衝撃ったら、なかったな)
なぜもっと早く申し込まなかったのかと後悔しまくった。たとえ僕が次男で、家を継げないからといって。身を立てるまで黙っているのではなく、意思表示をしておくべきだった。
過去を辿っていると、カロリーナからの視線を感じた。
雨に煌めく花みたいに、澄んだ青紫の瞳が僕を見ている。やっぱり好きだ。
(はっ! もしや今、絶好の機会なのでは?)
カロリーナの先約は無くなった。
つけ込むようなこのタイミングで言ってしまうのは、卑怯かも知れない。それに積年の思いを告げるには、あまりにも場所が悪い。
けど。
チャンスを逃すのはもう嫌だ。
胸の鼓動が速くなる。
僕が告白したら、カロリーナはなんて言うだろう。
「あ、あのさ。聞いて貰いたいことがあるんだけど……」
「なぁに? 改まって」
ふわりとカロリーナが先を促した。まさにその時。
"きゃああああ"
つんざくような悲鳴が聞こえた。
「パーティー会場のほうから?!」
"魔物が出たぞ──!!"
僕とカロリーナは顔を見合わせると、声に向かって駆け出した。
「ま、待つんだ、カロリーナ、寝取るって、どうやって? 意味わかって言ってる?」
「意味はわかるわ。方法はわからないけど。とにかく、男性にはすごく不名誉で屈辱的なことなのでしょう?」
「う? うーん? ちなみにどこ情報?」
「幼い頃、兄様から教えていただいたの。兄様のご友人が、恋人を寝取られたのですって」
「へえ……」
何番目の兄上かな。カロリーナはきょうだいが多いから、うっかり妹に聞かれたんだろうな……。
「──とりあえず、淑女はそんな言葉使うのやめとこうか」
「淑女、淑女って、淑女してたらこのザマよ?! なんで私が、あいつに捨てられるみたいな構図で馬鹿にされなきゃなんないの?! 家同士で決めた契約関係で、ミジンコほどの愛もなかったのに!!」
「微塵の愛もないから、こんなことになった気もするけど、まあ、確かにあれはなかった。礼を失してるにも、ほどがある」
「でしょう? だから彼女を私に靡かせてやるのよ! こう見えて私、女の子にモテるんだから!」
スレンダーなカロリーナの背は高め。面倒見が良く快活な性格で、そういえばよく同性から告白されていた、ように思う。
赤みがかった金の髪も、気の強そうな目元も、眩しいくらい生気に満ちている。
「すぐ計画を立てなきゃ。まずは身元調査から……。でも彼女、どこかで見た気がするわね」と呟きが漏れている。
それはジュリオ殿の周辺で見たのでは。
「一旦落ち着こう、カロリーナ。そもそもなんで相手の女性をターゲットにするんだよ。そこはジュリオ殿よりいい男を捕まえて、見返してやれば良いじゃないか」
「いやよ! ヤツに大ダメージを与えてやりたいもの! それにロクでもない男に振り回されるのは、もううんざり!」
荒れ狂ってらっしゃる。
「顔しか取り柄のないあんな男、こっちから願い下げだわ。それに顔ならウチの幼馴染の方がずっと──」
(ずっと、何?)
目が合うと、ふいにカロリーナが顔をそらした。
さっきの興奮が残っているのか、彼女の首筋が少し赤い。
「ッ、なんでもない。アルドはいま、王室直属の騎士なんだっけ?」
「うん、王太子殿下の近衛だよ」
「王太子殿下は文武に優れた素晴らしい方と評判よね。難しい関門を突破したなんて、さすがだわ」
今日はじめて、カロリーナが穏やかな笑顔を見せた。
(可愛い……!)
そんな彼女に誇らしく胸を張りたくなったのも束の間。
「蜂にすら泣いて逃げてた子が、立派になって……、ううっ」
黒歴史を引っぱり出された。
「何歳の時の話をしてるのさ」
「あら、私が守ってあげたの、忘れたの?」
「覚えてるよ」
だって、だから僕は騎士になろうと決意したから。
不甲斐ない自分が恥ずかしくて、今度はきみを守れる立場になりたいと決意して。
七歳の春に、未来を描いた。
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(彼女がガルディ家と婚約したことを知った時の衝撃ったら、なかったな)
なぜもっと早く申し込まなかったのかと後悔しまくった。たとえ僕が次男で、家を継げないからといって。身を立てるまで黙っているのではなく、意思表示をしておくべきだった。
過去を辿っていると、カロリーナからの視線を感じた。
雨に煌めく花みたいに、澄んだ青紫の瞳が僕を見ている。やっぱり好きだ。
(はっ! もしや今、絶好の機会なのでは?)
カロリーナの先約は無くなった。
つけ込むようなこのタイミングで言ってしまうのは、卑怯かも知れない。それに積年の思いを告げるには、あまりにも場所が悪い。
けど。
チャンスを逃すのはもう嫌だ。
胸の鼓動が速くなる。
僕が告白したら、カロリーナはなんて言うだろう。
「あ、あのさ。聞いて貰いたいことがあるんだけど……」
「なぁに? 改まって」
ふわりとカロリーナが先を促した。まさにその時。
"きゃああああ"
つんざくような悲鳴が聞こえた。
「パーティー会場のほうから?!」
"魔物が出たぞ──!!"
僕とカロリーナは顔を見合わせると、声に向かって駆け出した。
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