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王子殿下のこと、私が先に誘惑しちゃいます
2.誘惑作戦スタート
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かくして私の、殿下誘惑作戦は開始された。
手作りお菓子を用いた餌付け作戦。
なでなでスキンシップ作戦。
悩殺ドレス作戦。──これは、「他の男性も見てしまうからダメだ」と厳重注意されたので、もしかしたら効果ありだったかもしれない。
だけど、様々な作戦をニコニコと微笑み受け流され、手応えらしい手応えが感じられない。
(ちゃんと誘惑出来てるのかしら)
定時の門限にはいつも公爵邸に送り届けてくれちゃうし、成果出ないなぁと思いながらも、しばらく経った頃。
殿下が私に持ちかけた。
「え、聖女様が、私に?」
「そう。話をしたいと言っててね。場を設けても良いかな。僕も付き添うから」
当の聖女様、《菊池あさみ》さんに名指しで呼び出されてるらしい。
「何の話でしょうか?」
「わからないけど、今後のことを打ち合わせたいと言っていたよ」
「今後? 打ち合せ? でも私たち初対面ですよ」
とはいえ、殿下を"魅了"する(予定の)聖女様とは会っておきたい。
「殿下は何度もお話しされてるんですよね。どんなお方ですか?」
「うん? 常識的な女性かな。愚かなことはしないタイプにみえたよ。マーヤから"先入観なく彼女に接して欲しい"と言われてたし、公平に見て、問題ないと思う」
私も物語のマーヤとは違うのだ。
聖女様も違うのだろう。
平然と答える殿下にも特に"魅了"の気配はない。
しかし悲しいかな、私の誘惑作戦も効果がないので何とも言えない。
(やっぱりワンコだから……)
情緒がまだ、色恋に向いてないのかもしれない。
それならそれで安心なんだけど、と思いながらも、長身の殿下を見上げる。
鍛えてある肉体は厚みもあり、逞しい。
長い手足に、整い過ぎてる横顔は精悍で、たまに見せる笑顔に、かつて少年だった面影が残る。
(それ以外はすっかり、青年って感じだわ)
しかもとびきり上等な、最高位の貴公子。
いつの間に声変わりしたのだったか、耳に心地よく馴染む、落ち着きのある低い声……。
(あれ? ワンコ成分と弟成分、なくなってきてない?)
そうなのだ。
そのせいで意識してしまったのか、悩殺ドレス作戦の時、デコルテを大きく見せる、足元スリットなデザインが、すごく気恥ずかしかった。
少し前まで"相手はお子様だから"、と安心していたのに、この頃は会うとドキドキすることが増えてしまって、私のほうが誘惑されちゃいそうだと不安になる。
こんなに素敵なイケメンなのだ。
聖女様だって、絶対好きになってるに違いない。
(しっかりしろ、私。今後を話し合うんでしょう。先方の意向を確認しておかないと、方針も方向も決まらないわ)
そう決意して開いた扉の向こうには。
当然なんだけど、日本人がいた。
想像してたよりお姉さんで、二十代くらい。
黒い髪に黒い瞳はとても懐かしくて、私の感傷を激しく揺り動かす。
(日本人だ! 日本人!)
込み上げてくる郷愁の思いが、じわりと目元を熱くさせた。
互いに自己紹介で名乗った後、聖女《菊池あさみ》こと、菊池さんは私に言った。
「ねぇ。ちっとも私の出番が来ないんだけど、どういうこと? 察するに、あなた転生者でしょう? どれだけ物語変えたの? 本当だったら今頃、吸血虫による感染症が国内に広まって、私の神聖力で治癒するって展開だったのに、誰も倒れてないみたいなんだけど、私の役目は?」
手作りお菓子を用いた餌付け作戦。
なでなでスキンシップ作戦。
悩殺ドレス作戦。──これは、「他の男性も見てしまうからダメだ」と厳重注意されたので、もしかしたら効果ありだったかもしれない。
だけど、様々な作戦をニコニコと微笑み受け流され、手応えらしい手応えが感じられない。
(ちゃんと誘惑出来てるのかしら)
定時の門限にはいつも公爵邸に送り届けてくれちゃうし、成果出ないなぁと思いながらも、しばらく経った頃。
殿下が私に持ちかけた。
「え、聖女様が、私に?」
「そう。話をしたいと言っててね。場を設けても良いかな。僕も付き添うから」
当の聖女様、《菊池あさみ》さんに名指しで呼び出されてるらしい。
「何の話でしょうか?」
「わからないけど、今後のことを打ち合わせたいと言っていたよ」
「今後? 打ち合せ? でも私たち初対面ですよ」
とはいえ、殿下を"魅了"する(予定の)聖女様とは会っておきたい。
「殿下は何度もお話しされてるんですよね。どんなお方ですか?」
「うん? 常識的な女性かな。愚かなことはしないタイプにみえたよ。マーヤから"先入観なく彼女に接して欲しい"と言われてたし、公平に見て、問題ないと思う」
私も物語のマーヤとは違うのだ。
聖女様も違うのだろう。
平然と答える殿下にも特に"魅了"の気配はない。
しかし悲しいかな、私の誘惑作戦も効果がないので何とも言えない。
(やっぱりワンコだから……)
情緒がまだ、色恋に向いてないのかもしれない。
それならそれで安心なんだけど、と思いながらも、長身の殿下を見上げる。
鍛えてある肉体は厚みもあり、逞しい。
長い手足に、整い過ぎてる横顔は精悍で、たまに見せる笑顔に、かつて少年だった面影が残る。
(それ以外はすっかり、青年って感じだわ)
しかもとびきり上等な、最高位の貴公子。
いつの間に声変わりしたのだったか、耳に心地よく馴染む、落ち着きのある低い声……。
(あれ? ワンコ成分と弟成分、なくなってきてない?)
そうなのだ。
そのせいで意識してしまったのか、悩殺ドレス作戦の時、デコルテを大きく見せる、足元スリットなデザインが、すごく気恥ずかしかった。
少し前まで"相手はお子様だから"、と安心していたのに、この頃は会うとドキドキすることが増えてしまって、私のほうが誘惑されちゃいそうだと不安になる。
こんなに素敵なイケメンなのだ。
聖女様だって、絶対好きになってるに違いない。
(しっかりしろ、私。今後を話し合うんでしょう。先方の意向を確認しておかないと、方針も方向も決まらないわ)
そう決意して開いた扉の向こうには。
当然なんだけど、日本人がいた。
想像してたよりお姉さんで、二十代くらい。
黒い髪に黒い瞳はとても懐かしくて、私の感傷を激しく揺り動かす。
(日本人だ! 日本人!)
込み上げてくる郷愁の思いが、じわりと目元を熱くさせた。
互いに自己紹介で名乗った後、聖女《菊池あさみ》こと、菊池さんは私に言った。
「ねぇ。ちっとも私の出番が来ないんだけど、どういうこと? 察するに、あなた転生者でしょう? どれだけ物語変えたの? 本当だったら今頃、吸血虫による感染症が国内に広まって、私の神聖力で治癒するって展開だったのに、誰も倒れてないみたいなんだけど、私の役目は?」
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