「愛さない」と告げるあなたへ。ほか【異世界恋愛短編集】

みこと。

文字の大きさ
51 / 77
王子殿下のこと、私が先に誘惑しちゃいます

2.誘惑作戦スタート

しおりを挟む
 かくして私の、殿下誘惑作戦は開始された。

 手作りお菓子を用いた餌付け作戦。
 なでなでスキンシップ作戦。
 悩殺ドレス作戦。──これは、「他の男性も見てしまうからダメだ」と厳重注意されたので、もしかしたら効果ありだったかもしれない。

 だけど、様々な作戦をニコニコと微笑み受け流され、手応えらしい手応えが感じられない。

(ちゃんと誘惑出来てるのかしら)

 定時の門限にはいつも公爵邸に送り届けてくれちゃうし、成果出ないなぁと思いながらも、しばらく経った頃。

 殿下が私に持ちかけた。


「え、聖女様が、私に?」
「そう。話をしたいと言っててね。場を設けても良いかな。僕も付き添うから」

 当の聖女様、《菊池あさみ》さんに名指しで呼び出されてるらしい。

「何の話でしょうか?」
「わからないけど、今後のことを打ち合わせたいと言っていたよ」

「今後? 打ち合せ? でも私たち初対面ですよ」

 とはいえ、殿下を"魅了"する(予定の)聖女様とは会っておきたい。

「殿下は何度もお話しされてるんですよね。どんなお方ですか?」
「うん? 常識的な女性ひとかな。愚かなことはしないタイプにみえたよ。マーヤから"先入観なく彼女に接して欲しい"と言われてたし、公平に見て、問題ないと思う」

 私も物語のマーヤとは違うのだ。
 聖女様も違うのだろう。

 平然と答える殿下にも特に"魅了"の気配はない。
 しかし悲しいかな、私の誘惑作戦も効果がないので何とも言えない。
(やっぱりワンコだから……)
 情緒がまだ、色恋に向いてないのかもしれない。

 それならそれで安心なんだけど、と思いながらも、長身の殿下を見上げる。

 鍛えてある肉体は厚みもあり、逞しい。
 長い手足に、整い過ぎてる横顔は精悍で、たまに見せる笑顔に、かつて少年だった面影が残る。

(それ以外はすっかり、青年って感じだわ)

 しかもとびきり上等な、最高位の貴公子。
 いつの間に声変わりしたのだったか、耳に心地よく馴染む、落ち着きのある低い声……。

(あれ? ワンコ成分と弟成分、なくなってきてない?)

 そうなのだ。
 そのせいで意識してしまったのか、悩殺ドレス作戦の時、デコルテを大きく見せる、足元スリットなデザインが、すごく気恥ずかしかった。

 少し前まで"相手はお子様だから"、と安心していたのに、この頃は会うとドキドキすることが増えてしまって、私のほうが誘惑されちゃいそうだと不安になる。

 こんなに素敵なイケメンなのだ。
 聖女様だって、絶対好きになってるに違いない。

(しっかりしろ、私。今後を話し合うんでしょう。先方の意向を確認しておかないと、方針も方向も決まらないわ)


 そう決意して開いた扉の向こうには。
 当然なんだけど、日本人がいた。

 想像してたよりお姉さんで、二十代くらい。
 黒い髪に黒い瞳はとても懐かしくて、私の感傷を激しく揺り動かす。

(日本人だ! 日本人!)
 
 込み上げてくる郷愁の思いが、じわりと目元を熱くさせた。

 互いに自己紹介で名乗った後、聖女《菊池あさみ》こと、菊池さんは私に言った。

「ねぇ。ちっとも私の出番が来ないんだけど、どういうこと? 察するに、あなた転生者でしょう? どれだけ物語変えたの? 本当だったら今頃、吸血虫による感染症が国内に広まって、私の神聖力で治癒するって展開だったのに、誰も倒れてないみたいなんだけど、私の役目は?」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...