魔王さんちのお話【短編集】

みこと。

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魔王息子の大好き告白

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 読書をすること自体は、いいことだと思うんだ。
 読み聞かせも、大ありだろう。

 本の内容と、場所さえ選べば。



「"シェフターリ嬢、貴女との婚約は今日を持って解消する。私は真実の愛を見つけたんだ"」
「"なんですって!!"」
「"でもエイリク王子が新しく選んだ相手は、実はダメダメな娘だったのです"」




(邪魔だなぁ)

 傍らに座す、3人の妹たちをチラリと見遣る。

 今年11歳になったすぐ下の妹が、4歳と5歳の小さな妹たちに本を読み聞かせてる。
 それは別に構わない。ただ、なんで俺の側近くに集まってやってるんだ?

 しかも。

「……なんてものを読み聞かせてる……」

 つい呟いた俺に、長妹が本読みを中断して返して来た。

「あら、兄様。いま巷ではこの物語が流行ってますの。トレンドを知るのも、王女として大切な務めかと」

「だからって、こいつらに"婚約破棄"がどーのとかいう話は早すぎだろう」

「お兄さま、"コンヤクハキ"ってなぁに?」

「それ見ろ。4歳児なんて、意味わかってないじゃないか」

「こうやって言葉を覚えていくことも勉強なのですわ」

 そう返事した長妹が「結婚するお約束をしてたけど、やめるって意味よ」と末っ子に説明しているが。

 覚える必要あるのか、その単語。
 むしろやっちゃダメなことだろう。


「このあと、王子様たちはどうなるの?」

 下ふたりは何故か興味津々、目をキラキラさせながら続きを求めている。
 でも続きって確か。

「ポンコツで節穴な王子様が見つけた"真実の愛"は偽物で、新しい恋人は役立たずのズル女。王子様は周りを騒がせた罰として、"王籍剥奪"で"平民落ち"しちゃうの」

 一気にネタバレしやがった!!

「???」
「お姉様、"へーミンオチ"ってなんですか?」

「お城で一緒に暮らせなくなるってこと」

「「えええええ」」


 下ふたりが一斉に叫んで、こっちを向いた。
 待て、なぜそこで俺を見る?


「ダメぇぇぇ。お兄さま、"コンヤクハキ"しないでぇぇ」
「"ヘーミンオチ"しちゃ、いやぁぁぁ」

「はああ?! ちょっと待て! なんで俺にそれを言うんだ」

「だってお兄さま、"王子さま"でしょう??」

「だとしても! 本の中の話と、俺とは関係ない!!」

 ポンコツで節穴な王子と一緒にされること事態、激しく不愉快だ!

「大体、"婚約破棄"も何も、俺はまだ誰とも"婚約"してない」
「それはそれで不甲斐ないと言いましょうか」
「おい?」

「"コンヤク"って?」

 そこからか! "ハキ"より何より、そこからなのか。
 ほら見ろ、本の内容が先走り過ぎてるんだ。

「さっき教えたでしょう? 結婚するお約束のことよ。お約束してたら、大きくなって兄様のお嫁さんになるの」

「!!!」
「!!!」

 顔を見合わせた妹たちが、次の瞬間に弾けた。

「私が結婚のお約束する。お兄様のお嫁さんになる!!」
「ちがうのー! お兄さまとのお約束は、わたしがするの――!!」


 そもそも兄妹での結婚なんてない。
 なのに、ありえない想定で、とんでもない紛争が始まった。
 年が近い下ふたりは、喧嘩となると本気を出し合う。
 
 王女の姿とは思えないほど、取っ組み合って暴れ出した妹たちを、姉は止めようとは思わないのか?
 長妹を促すと「兄様が原因なのですから」と、にべもない。

「両方、娶ってやれば済むことでは?」

「ああああ、わかった!! 百人でも二百人でも嫁にしてやるから、ケンカはやめろ!!」

◇◇◇

 そう叫んだのが、午前のことだった。
 そして午後。

 俺が"大勢『嫁』を求めてる"とかいう、ワケわからん噂が城中に流れて、現在父上に呼び出されている。
 浮名を流す前に、やるべきことにまず励めとかいう、お説教のために。

 父上、"魔王業"って暇なの? 俺を呼びつける趣味でもあるの?

 執務机の前に立たされながら、事のあらましを説明したら、今度は「だから常から発言には気をつけろと言っている」という新しいお小言が始まった。

 え~~。
 勇者が来なさ過ぎて、本当に暇なのかもしれん。ストレス溜まってらっしゃるんだろう。
 話半分に聞き流してたら、ふいに

「娘たちは少し前まで余の"嫁になる"と言っていたが……」
 
「!!」

 そっちか!! 父上の不機嫌の原因。

 いやいやいや、俺、妹たちなんて要らないし!!

 などと否定しようものなら、それはそれでヘソを曲げられるに違いない。父上は娘が可愛いからな!!

 どうしよう、どうすれば。
 どう言ったら父上のご機嫌が直る?!


「大丈夫です、父上っ。父上のことは俺が大好きですから、俺がずっとお傍にいます!!」


 咄嗟に出てきた一言に、自らドン引く。
 ッあ――!! 何を言ってんだ、俺は! それでどう誤魔化すつもりだったんだ! 誰か教えてください。

 案の定、父上も次の言葉を継げずに、目を丸くして固まっていらっしゃる。

 やがて、溜息と共に出てきたのは呆れ声だった。

「お前は哀しいほどに世辞のセンスを持ち合わせてないな」

「……心外です、父上。本心です」

 たとえ自分でもそう思ったとしても。押し切らなければ敗ける。これはそういう戦いだ。
 どうせ俺は嫁にも行かないし、この先も一緒にいるのは事実だ。


「とにかく、言動には気をつけろ。わかったな?」

 その言葉で、今回は無罪放免になった。

 ……疲れる。

 母上の元で、妹たちと部屋続きというのが、まず良くない。
 早急に離れた場所に個室をいただこう。

 次に父上になんと言って部屋をねだるか作戦を立てつつ、執務室を辞した。

 父上が退屈しないよう、勇者とか来ないかなぁ――。




<終わり>
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