極上御曹司の裏の顔

槇原まき

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1巻

1-2

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「へぇ、いいね。俺も体験型のイベントは好きだな。前にもここに来たことがあるんだけど、そのときに陶芸とうげいや、トンボ玉なんかもやったんだ」
「素敵! わたしもやってみたいな。どこでできるんですか?」
陶芸とうげいは民間の教室で、トンボ玉は美術館のイベントだったかな。俺は現地の人に教えてもらって飛び入り参加したんだけど、たぶんそういった情報はガイドブックに載ってるんじゃないか? どっちも見てるぶんには簡単そうなんだがなぁ。なかなか難しい」

 彼は手で轆轤ろくろを回す仕草をしながら、平らな皿を作るのが精一杯だったと笑った。

「教えてくれる方は楽そうにやってるのに、いざ自分がとなると、全然できないですよね。でも、やってみないことにはわからないじゃないですか。意外と才能があるかもしれないし」
「あはは、そうだな。あんたは器用そうだ。なんでもそれなりにやれるんじゃないか?」
「そんなことないですよ。ほんとぶきっちょで、恥ずかしいくらい」

 手先はそれなりかもしれないが、恋はどうしようもないくらい不器用だ。一生懸命になったら、いのししみたいにまっすぐで、周りが見えていないから空回りばかり。
 真白は笑いながら、痛む胸からそっと目をらした。

「機会があったら、今度は山手やまてのほうに行ってみるといい。ガイドブックには載ってない温泉があるんだよ」
「知らなかった! 秘境の温泉ですか?」
「そう。なかなかの絶景でね。俺は今日行ってきたんだ。もうちらほら紅葉がはじまっていたよ。まぁ、だいぶ歩くけどね。近くに釣り堀もある。マス釣りもしてきたよ」
「わ、すごい。釣れました?」
「マスは結構簡単に釣れるんだ。えさも虫とかじゃないから大丈夫。釣ったマスをその場で調理してくれるんだけど、マスの唐揚げって食べたことある? おいしいよ。塩焼きよりいけるかもしれない」
「唐揚げ? 珍しいですね。じゃあ、わたしもマス釣りしたら唐揚げにしなきゃ!」
「塩焼きは結構どこでも食べられるからさ、試してみてよ。最高だから」

 この人の話は楽しい。
 彼はガイドブックに頼るよりも、現地の人におすすめされた場所を回るのが好きなんだそうで、今回ローズガーデンに行ったのも、今が見頃だと教えてもらったかららしい。

「あとは空港から一番近いホテルに泊まろうと思ったら、ここになったわけ」
「なるほど。ここ、空港がすぐそこですもんね」

 真白は新幹線で来たが、このホテルは空港にも新幹線にもアクセスがいい。電車一本でどちらにも行けるいい立地だ。彼は日本国内のみならず、世界各国にも足を延ばしているらしく、真白が旅行好きだと知ると、色々なおすすめの場所を教えてくれた。

「いろんなところに行かれてるんですね。いいなぁ、わたしも行きたい」
「現実逃避を兼ねて、ね。あんたもだろう?」

 そう言った彼の視線に射貫いぬかれて、真白は一瞬、ドキッとした。まるで失恋旅行をしていることを見透みすかされているみたいだ。

「…………」

 真白がまごついているうちに、デザートのアニバーサリーケーキが運ばれてきた。
 小振りのホールケーキは白い生クリームでデコレーションされ、てっぺんにイチゴが花のように載せてある。両サイドには生花が飾られて、お皿にはチョコレートで「Happy Anniversary」と書いてあった。なにもかも注文通りの仕上がりだ。
 なのにそのケーキが目の前に置かれたとき、真白の頬をぽろりと涙が伝った。

「あ、あれ? なんで……だろ……? ごめんなさい……わたし……」

 慌てて指先で涙をぬぐうが、涙腺るいせんが馬鹿になったみたいに、次から次へと涙があふれてとまらない。いったいどうしたというんだろう? 突然泣き出した真白に、周りのお客からチラチラと視線が向けられる。
 これではさらし者だ。恥ずかしいし、なにより一緒に食事をしてくれている彼に申し訳ない。早く泣きやまなくては……そう思うのに、できない。
 このケーキを一緒に食べるはずだった人は、今頃他の女のところにいるんだろう。
 本当はだいぶ前から、飽きられていたのかもしれない。
 もしかして、真白のことなんか初めから好きでもなんでもなかったのかもしれない。
 なのに自分は言われるまで気が付かなくて、張り切ってこんなケーキまで用意して……

(わたし、馬鹿だ……)

 そのとき、ボロボロと涙をこぼす真白の目の前で、ケーキのど真ん中にフォークがぶすりと突き立てられた。

「っ!?」

 驚いて、目を見開く。
 固まっている真白をそっちのけで、ケーキからフォークが引き抜かれた。フォークを突き刺したのは、今、目の前にいる彼。
 ぶっきらぼうなりにも、彼は今まで礼儀正しかった。そんな人の突然の奇行に、なにも言えない。
 彼はフォークでつらぬいたイチゴにチョコレートを付けながら、にっこりと綺麗な笑みを見せてきた。

「泣くほど喜んでるんだ? こんなケーキなんかで」

 唇の前に、フォークに刺さったチョコ付きのイチゴが差し出される。
 彼のひと言を聞いた周囲の空気が、明らかに柔らかくなった。

(あ……)

 かばってくれたのか。
 真白と彼の関係をなにも知らない他の客からしてみれば、サプライズのアニバーサリーケーキに感激して泣いた彼女に、彼がケーキを食べさせようとしているふうに映っているのだろう。いや、そう見えるように、彼がしてくれたのだ。
 真白がおずおずと口を開けると、イチゴが口の中に入ってきた。甘酸っぱいイチゴの味が口内に広がる。

「あーあ、チョコ付いてる」

 彼は真白の唇を人差し指ででて、チョコレートをぬぐう。そして、チョコレートの付いたその人差し指を、自分の口に含んだ。
 目の前で当たり前のように繰り広げられた彼の行動に、カアァッと顔に熱が上がる。涙なんか知らないうちにとまっていた。

「俺もっていいか? ケーキ」

 ニッと上目遣いで見つめられて、視線が泳ぐ。

「ど、どうぞ」

 なんとかそれだけを言った真白は、動揺しながらワインに手を伸ばした。そのままキューッと一気飲みしてグラスを空にする。

(い、今の、かかか間接かんせつキス!?)

 唇を直接められたような気分だ。ドクドクと心臓がけたたましく鳴っている。これはワインのせいではないだろう。
 空になったグラスをテーブルに置きながらチラチラと彼を盗み見ると、彼は真白にイチゴを食べさせたフォークで、平然とケーキを口に運んでいる。唇に付いた生クリームを彼が舌でめ取るのを見て、そのなまめかしさに背筋がゾクッとした。

(~~~~っ!)

 真白は自分を落ち着けようと、ウエイターから注がれたワインを再び一気に飲み干した。

「ワインばかり飲むと酔いが回るぞ? ほら」

 再びフォークに載ったケーキが差し出されて、ドキドキしながら口を開ける。

「残りはあんたの分だ」

 半分になったケーキを皿ごと目の前に置かれる。見ると、皿に書かれていたはずのチョコレート文字が、いつの間にか跡形もなく綺麗に消えていた。彼がケーキを食べている間に消してくれたのか。

(なにも話していないはずなのに……)

 彼の気遣いに、胸がぎゅっと締めつけられる。嬉しいのか、悲しいのか、自分でもわからない。真白はぎこちない笑みを浮かべて、ケーキを頬張った。
 甘酸っぱいイチゴのケーキは失恋の味だ。終わった恋を忘れたくて、ワインを喉に流し込む。

「おいしいですね、このケーキ!」
「そうだな」

 彼が頬杖を突いて、こちらを眺めながら目を細める。
 冷めているようで、程よく熱いその瞳がなにを考えているかなんて、初対面の真白にわかるはずもない。
 ただ真白は、今ひとりでなくてよかったと、無性に思ったのだった。



「あ~~もぉ、お腹いっぱぁい……」

 顔を真っ赤にした真白は、一緒に食卓を囲んでくれた彼に支えられながらレストランを出た。

「ったく。言わんこっちゃない。バカスカ飲みやがって。おい、部屋はどこだ?」
「えへへ。七○六ですぅ」

 完全に呆れ口調で言われているのに、真白は機嫌よくへらっと笑った。足元がふわふわして気分がいい。こんなに気分よく酔ったのは初めてだ。
 酔っぱらいの見知らぬ女なんか、ホテルの人間に任せて放っておくこともできたろうに、そうしないこの人はたいがい面倒見がいい。それに自分を支えてくれるこの人は、とてもいい匂いがする。真白は彼の肩にすりっと頬を寄せた。
 旅の恥はかき捨て……とはよく言ったもので、見知らぬ男の人の肩にもたれるなんて地元では絶対にできないのに、今はできてしまう。
 真白とこの人が、実は名前も知らない者同士だなんて、周りにはわからない。それでなくても、真白に興味のある人間なんかいやしない。
 仮にこの場に良平がいても、きっと知らんぷりをする。
 自分は大切に想っていた人からの関心も失った女なのだ。なにをしても、ここには真白をとがめる存在なんかいない。そのことがむなしいのに、どこか清々すがすがしくて笑いが込み上げてくる。

「ふふ……ふふふ……あははは」

 やって来たエレベーターに笑いながら乗り込むと、彼は苦々しく舌打ちした。

「『あはは』じゃないだろ。『あはは』じゃ。――あんた、付き合ってた男に捨てられたんだろう? 無理して笑ってなくていいよ。見てるこっちがしんどくなる」
「っ!」

 一気に酔いがめる。
 この人には詳しい事情はなにも話していない。ただ、「一緒に食事をする相手が来られなくなった」と言っただけだ。確かにアニバーサリーケーキを見て泣いてしまったが、すぐに泣きやんだし、相手に急用が入ったとか、祝い事自体がキャンセルになったとか、他にもいろいろ考えられるはずだ。それだけで「男に捨てられた女」になるはずがない。

「……な、んで……」

 驚きを隠せない真白を一瞥いちべつした彼は、小さく嘆息たんそくして七階のボタンを押した。

「カップルだらけの観光地をひとりで回って、レ・ザムルーズのワインにアニバーサリーケーキなんて、わかりやすすぎだろ。ローズガーデンで自分がどんな顔してたかわかってる?」

 笑っていたはずだ。少なくともローズガーデンで彼に写真を撮ってもらったときには、ちゃんと笑えていたはずだ。

「わ、わたしは――」

 否定しようとした真白の声を、カラッとした彼の声が掻き消した。

「旅行のキャンセルきかなかったところを見るに、いきなりフラれたとか、当日すっぽかされたとか、その辺りだろう? 写真撮るときも無理して笑ってさ」

 図星ずぼしだ。
 図星ずぼしだが無性に悔しさがき出てきて、「今日じゃないです。昨日フラれたんです」と小声で呟く。彼は「どっちでもいいよ、そんなこと」と吐き捨てて、ぐしゃぐしゃっと真白の頭をでてきた。彼のその手つきが乱暴なようでいて優しくて、急に鼻の奥がツンとする。もう泣きそうだった。

「……電話で、『別れよう』って言われました」
「ふぅん」

 髪で隠れた顔をうつむけてボソボソと話す真白に対して、彼の返事は素っ気ない。知らない女から愚痴ぐちられても困るだろう。そんなことはわかっているのに、真白はとめることができなかった。

「三年付き合ってたんです。今日が記念日で。なのに別れ話が電話ですよ。わざわざ時間作って会う価値もないってことなんでしょうね。……電話の向こうで女の人の声が聞こえました」
「なんだよ、浮気されて捨てられたのか」

 呆れた声に、現実を突きつけられる。
 そうだ。三年も付き合った男に浮気されて、電話一本で捨てられたのだ。
 真白は自嘲じちょう気味ぎみわらうと、コツンとエレベーターの壁に頭をもたれさせた。

「『セックスが下手』って、『まぐろ』って言われました。まったく……誰と比較してるんだって話ですよ。わたしは良平しか知らないのに……。わたしにセックスを教えたのは……良平なのに……。わたしみたいなつまらない女は、一緒にいる意味がないって彼は言ったんです」
「…………」

 エレベーターが七階にとまり、無言の彼にうながされて降りる。お互いに口を開くことなく廊下を進み、薄暗い部屋に入った。
 無駄に豪華な部屋はシンとしていて、今までいたところより温度が下がったように感じる。
 開けっ放しにしていたカーテンから夜景がうっすらと射し込んでいて、真白を余計にみじめにさせた。
 本当なら今頃、ここで良平と無邪気に笑っていたはずなのに――

(あぁ、なんでこんな部屋とっちゃったんだろ……わたし、ひとりなのに……)
「ぅう……う……」

 涙が出てくる。
 床に崩れ落ち、三人掛けのソファに突っ伏して嗚咽おえつこらえながらボロボロと涙をこぼす。そんな真白の頭を、彼がポンポンと優しくでてくれた。

「まぁ、なんだ。男は他にもいるんだ。浮気するような男と別れられてよかったじゃないか」

 言葉を選んで慰めてくれているのがひしひしと伝わってくる。でも涙はとまらない。
 真白が好きになった良平は、浮気をするような男ではなかった。そんな男だと知っていたら、三年も付き合わないし、そもそも好きになんかならない。
 ちょっと優柔ゆうじゅう不断ふだんなところもあったが、それは優しいからだ。根は真面目だし、明るくて人当たりもいい。少なくとも真白の知っていた良平はそういう男だったのだ。だから好きになったのに。
 浮気するほうが悪いなんてことはわかっている。でも、裏切られた悲しみがぬぐえない。
 確かに真白はセックスに積極的というわけではなかったが、代わりに拒絶したこともない。
 女性誌に書いてあるような、「イク」感じがいまいちわからなくても、好きな人に触れてもらえるだけで幸せになれたし、気持ちよかった。ドキドキした。
 もしかして、わからないなりにイッたふりや、雰囲気を盛り上げるために感じたふりをしてみればよかったのだろうか? それとも、もっと積極的に良平の上でみだらに腰を振ったり、自分から彼の物をくわえたりすればよかったのだろうか?
 セックスさえつまらなくなかったら、上手に良平を満足させてあげられていたら――浮気されることも、捨てられることもなかったのだろうか?

「わたしは……そんなに、つまらない女なんでしょうか……?」
「え?」

 聞き返してきた彼をガバッと振り返る。
 真白は目にいっぱいの涙を溜めて、彼を見上げた。

「わたしは……、わたしはつまらない女ですか!? ――抱いてください!」

 確かめたい。自分の女としての価値を確かめたい。そんな思いで叫ぶ。冷静さなんかなかった。一緒にいることの意味すらないと言った良平の言葉が頭から離れない。
 誰でもいい。誰かに「そうじゃない」と言ってほしい――
 彼は一瞬驚いたようだったが、苦笑いしながら真白を見つめてきた。

「抱いてくれって……俺的にはあんたは好みだからいいけどさ、あんたはそれで後悔しないのか?」
「好み……なんですか? わたしみたいなのが……?」

 にわかには信じがたい。
 地味な顔立ちというか、言葉を選ばずに言うならば、真白は完全にモブ顔だ。メイクをしてもノーメイクのときと違いがない。色白なのはいいが、肌の色が薄いついでに存在感も薄い。
 しかもこの人の前での真白は、精神的に不安定になっているせいか、いきなり泣き出すわ、酔っぱらうわ、ベッドに誘うわで、相当面倒くさい女のはずだ。なのに、好みだなんて。

(……この人は、ものすごく女慣れしているんだな……)

 もしくは、たで食う虫もなんとやらというやつ?
 胡乱うろんな眼差しで見つめると、彼の手が伸びて真白の頬に優しく触れた。

「好みだね。可愛いと思うよ。このホテルを選んだのも、レストランを予約したのもあんたなんだろ。ただ大好きな彼氏を喜ばせたかっただけなんだよな? でもそれが彼氏には伝わらなかった。だから泣いてるんだろ。そういうのって最高に可愛いじゃないか。適当な気持ちで付き合ってた男相手に泣く女はいないよ。あんたの泣き顔は一生懸命だったからこそなんだから」
(あぁ――……)

 また涙が流れた。
 彼の言葉は、女の弱さにつけ込んだ甘言かんげんだ。そんなこと、頭ではちゃんとわかっている。
 彼にとって自分はただのぜん。そこに特別な感情はない。
 なのに嬉しくてたまらない……可愛い女だと、好みだと言われたのが、無性に嬉しい。恋に一生懸命だった気持ちを優しく肯定する言葉が、自棄やけになっていた心にみ込んでくる。
 そう、真白はただ、良平のことが好きで、初めての恋に一生懸命だっただけなのだ。
 そしてそれが、むくわれなかっただけ。
 彼は真白の頬を伝う涙を触りながら顔を近付け、耳元でささやいた。

「ほんと、可愛い――――もっと泣かせてやりたくなる感じで」
「っ!」

 思わず大きく目を見開く。そうして見た彼の視線に射抜かれた途端、背中にゾクッとなにかが走った。
 これは男の目だ。女を性的な獲物として見る、男の目。
 誘ったのは自分のほうなのに、怖くなって視線を外す。しかし次の瞬間、真白はソファに押し倒されていた。

「きゃっ!」

 薄明かりの中で、両手をソファの座面に押し付けられ、のし掛かられる。
 抵抗しようとしても、男の力にはあらがえない。
 息をむ真白を悠然ゆうぜんと見下ろしながら、彼はニヤリと笑った。

おびえてる? やっぱり可愛いな。彼氏は他の女を抱いてるのに、あんたは彼氏以外の男を知らないなんて不公平だろう?」

 台詞せりふあざけり以外のなにものでもないはずなのに、声が優しい。
 彼は押さえつけていた手を離すと、両手で真白の頬を包み込んできた。
 大きくて、あたたかい手。その手の持ち主は、唇が触れてしまいそうなほど顔を寄せて、甘くささやいてきた。

「あんたも他の男に抱かれてみればいいんだよ。浮気する男にみさおを立てる義理なんかない」

 ささやきと共に、唇を親指でなぞられた。一気に脈が上がる。彼の指の感触だけでなく吐息まで感じて、お腹の奥がゾクゾクした。
 彼の瞳の中に泣いている自分を見つけたとき、真白の唇は彼のそれにふさがれていた。

「……っぁ……んぅ!」

 小さく声が漏れるのと同時に唇の合わせ目をこじ開けられ、口内に舌が入ってくる。絡まった舌を吸われて、真白の心臓は大きくねた。
 これは知らないキスだ。
 舌の付け根から先までをつーっとめ上げ、軽く甘噛みされる。とろみを帯びた唾液を掻きまぜるように口内を蹂躙じゅうりんされて、息が上がった。

「ん……は……ぁぅんっ!」

 ようやく唇が離れて息をつこうとすれば、また強引にキスされる。
 苦しさに身をよじっても、彼は離してくれない。それどころか真白の腰を抱き寄せ、噛みつくように唇をむさぼってくる。触れ合っているところを中心に、熱が広がっていく。
 知らない男の人にキスされているのに、絡む舌を気持ちいいと感じてしまう。そんなみだらな自分の一面を恥じ入る気持ちと、どうにでもなってしまえという破れかぶれな気持ちが合わさって、身体から力が抜ける。
 真白はソファに押し倒されたまま、いつしか柔らかく目を閉じていた。

「ん……は……」

 くちゅくちゅと音を立てて真白の唇を味わい尽くした彼は、ようやく唇を離した。そして、コツンとひたいを重ねる。
 自分を映す瞳と目が合った。

「どうする?」

 甘い囁きはずるい誘惑だ。この人に抱かれてみれば、心にあいた穴は埋まるだろうか?
 その確証はないが、少なくとも、今夜はひとりにならなくてすむ。なにより、この人の腕の中はあたたかい。
 今はこのぬくもりが欲しい――
 真白は目を伏せて視線を外すと、ポツリとこぼした。

「……抱いて、ください……」

 彼は真白の頬を手の甲で軽くでると、返事の代わりにまたキスをくれた。
 くちゅり、くちゅり……ちゅぅっと、重ねた唇を吸い上げるキスは、気持ちよくて泣けてくる。
 ここには愛も恋もないのに、こんなに優しいキスがある。
 ソファの下に落とした脚に彼の手がって、ワンピースのスカートの中に入ってきた。太腿ふとももからショーツに包まれた臀部でんぶで回され、ビクッと身体が震える。そんな真白に、彼はキスをしながらささやいてきた。

「怖いか? でも自分で望んだことだろう?」

 ささやきながら彼は、ショーツのクロッチを人差し指と中指でで上げる。それから花弁かべんに埋もれてひっそりと震える真白のつぼみを、ぐりぐりと押し潰してきた。

「っ!」

 キスの次は胸を触る。そうして徐々に服を脱がして――。そんな決まりきった手順の愛撫あいぶしか、真白は知らない。
 確かに彼に抱かれることを望んだのは自分だけれど、いきなり下肢をはずかしめられるなんて思わなかった。しかも、今感じたあのうずきはなんだろう? 自分の身体にこんなに敏感なところがあるなんて知らなかった。
 反射的に脚を寄せ、手で彼の胸を押し返そうとした。が、逆に掴まれ、頭の上で両手を押さえつけられる。彼は余裕で、左手ひとつで真白を動けなくした。そして抵抗は許さないとばかりに、敏感なつぼみをぎゅっとまむ。

「ひぅっ!!」

 思わぬ強い刺激に、ビクッと腰がねる。

「彼氏より気持ちよくしてやるよ。――あぁ、もう元彼か。別れたんだから」

 おびえて震える真白を見下ろして、彼は不敵に笑いながら布越しにつぼみなぶりはじめた。

「あっ! ゃっ!」

 人差し指と中指でつぼみを引っ掻く。硬くしこってきたそれをくりくりと強弱を付けながらまんで、ねちっこくね回す。ここをこんなに触られたことはない。
 両手を押さえつけられた真白は、腰をビクビクさせながら眉を寄せて唇を噛んだ。

「ふぅぁ……んんんぅ……」
(な、に……これ……)

 心臓が暴れて息ができない。つぼみを触られるだけで、お腹の奥がズクズクしてくる。まだ準備のできていない女の身体が、強引な愛撫あいぶによって無理やり熱くさせられていくみたいだ。
 知らない男の人に身体をもてあそばれているのに、怖いはずなのに、吐く息がどんどん熱を帯びていく。

「噛むな。抵抗する必要なんかないだろう?」

 噛みしめた唇を、彼の舌先がチロチロと誘うようにい回る。その瞬間、クロッチの脇からぬるりと彼の指が入ってきた。

「あぁっ!!」

 閉じていた割れ目を指で広げられ、おびえて震えるつぼみを直接なぶられる。彼はってあらわになった真白の喉に熱い舌をわせながら、花弁かべんの奥でヒクつく蜜口にゆっくりと触れてきた。

「濡れてる」
「っ!」

 自分でも気付いていなかった身体の変化を指摘され、カァッと顔に熱が上がる。自分で自分が恥ずかしい。
 自分から男を誘って、触られて簡単に濡れて……どれだけえているんだ。
 顔をそむけて腕で顔を隠そうとするが、そもそも腕が押さえつけられているからできない。
 真白が顔を真っ赤にして震えていると、つぼみがピンと弾かれた。


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