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1章 いわれもない罪
3話 初恋の相手?
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私はネムに自分の近くに来るよう手で合図をした。
「ねぇ、ネム」
「はい、何用でございましょう」
「ええと、マキアスさん呼んできてくれない?」
マキアスさんはこの国の騎士団長を務めてくれているお方。
私の憧れであり、初恋の相手? でもある。
それはまだ私が幼い頃、外の世界に興味があった私は勝手に城を抜け出し、深い森の奥へと辿り着いた。普段は冒険者達が魔物を討伐してくれているため、シーンとした静寂の中、風のささやかな音が耳に入ってくる森――なのだが、この日は違った。
魔物達の鳴き声、最初は冒険者達が追い詰めて討伐している最中だと思った。でも決してそんなことはなく、実際は私の匂いを嗅ぎつけた魔物達が発見時の合図を出し合っていたようにも思える。
その遠吠えを耳にした魔物達は、すぐさま私を取り囲んだからだ。
恐怖で震えて身体が動かない。
助けを呼ぼうとしても、声が出ない。
そんな時、駆けつけてくれたのが、まだ騎士としては未熟なマキアスさんだった。
彼は両手で持つ大剣を必死に振り回し、魔物を次々となぎ倒していく。
そして魔物を討伐したマキアスさんが言った言葉を私はまだ覚えている。
『あなた様はわたくしめの宝です。初めてこの身を捧げてでもお守りしたいと思ったお方です。どうぞこのマキアスをあなた様のために存分にお使いください』
と、言ってくれたのだ。
幼かった私はこの時のマキアスさんを見て、どこにいても、どんなピンチが訪れても、すぐに助けに来てくれる王子様だと感じたのだ。
まるでそれは暖かい太陽のような人。
心優しく、いつも私を見守ってくれている、視線が合うたびにそう感じさせてくれる。
そんな彼に私は初めて恋? をしたのだ。
まあ私にはそんな過去があるのだけど、それからというものマキアスさんには本当にお世話になりっぱなしな訳で……って、確かに少しでも一緒にいたいって気持ちもあるから、あえて頼み事をする時もあるし、私の部屋で二人きりでお茶をゆっくりと飲みたいわけで…………。
「姫様、顔が緩んでおられますよ」
「あ、ああ、いやまだいたのネム!?」
「でも姫様は可愛らしいですね。そのうぶな感じといい、初恋をした乙女みたいな素振りがまた……ふふっ」
「そんなのどうだっていいから!! 早く呼んできて!!」
「はっ!」
ネムは私に一礼した後、部屋を退出した。
今のうちにマキアスさんが来る準備をしないと!
お気に入りのマグカップに珍しいサクサクとした食感の甘いお菓子を木製のテーブルに置いて。
それと耳の後ろと首、手首に少量の香水を振りかけてっと。
最後にアロマを炊いたら完成!!
「ふふっ! マキアスさん喜んでくれるかな!?」
そしてマキアスさんを迎える準備も終わり、待ちきれずうろうろしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
来てくれた! 早く開けないと!
「マキアスさん!!」
「痛っ!!」
「え、誰?」
私は勢いよく開けた扉の先を見ると、ユーシスが鼻を摘んで尻もちを着いて倒れていた。
「ユーシス! なんでここにいるのよ?」
「え、いや、ちょっとな……」
「もう鼻血も出てるじゃない。ちょっと待ってて」
「大丈夫だって、こんくらい」
「ダメよ、ちゃんと抑えてて。今布持ってくるから」
「やっぱ、変わらないな」
「変わらないって何が?」
「何でもない……」
私は部屋の机の上に置いてあった一枚の布をユーシスの鼻元に近づけた。
その布で鼻血を拭き取り、そのまま布越しにユーシスの鼻を摘んだ。
「しばらくこのままね、分かった?」
「ああ」
しばらくユーシスの鼻を摘んでいるが、血が止まる気配はない。
結構強く扉にぶつけたみたいね。
一度、王室専属医師に見せて方が良いのかな?
「ねぇユーシス。医者に見てもらうのはどう?」
「そんな大げさな。こんなんすぐ治るから大丈夫だって」
「けど……全然血が止まらないじゃない」
こういう時に回復魔法とか使えたら、状況は変わっていただろうに。
でもこれは明らかに私の責任。
私が勢いよく扉を開けたせいで、こうなったんだから。
するとユーシスは立ち上がり、
「そろそろ騎士団長が来るんだろ? 俺は騎士団本部に戻るよ」
「本当に大丈夫? 血が止まったらその布また返しに来て」
「ああ……」
「突然痛みがしてきた、とか身体に何か問題が起きた時はすぐに私の部屋に連絡して。すぐに駆けつけるから」
「ああ……」
ユーシスは血が滲んだ布で鼻を抑えながら、ゆっくりと騎士団本部の方向に足を進ませた。
布で口が隠れていたため、ちゃんと確認はできなかったが別れる際、一瞬笑みを浮かべたように見えた。
多分、私の勘違いだろうけど。
特に特別なことをした覚えもないし、単に鼻血を抑えるための布を渡して、一緒に鼻を抑えてあげただけだし。
え、もしかしてその行動自体が結構恥ずかしい行為だったりするのかな?
「…………はぁ」
私は大きくため息をついた。
「どうされたのですか? そんな大きなため息をつかれて」
「マ、マキアスさん!?」
「こんにちは、姫殿下」
「ごきげんよう、マキアスさん……」
思わず恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
マキアスさんの顔をちゃんと見ることができない。
私より十歳くらい年上で、筋肉質な身体、大人の風格を漂わせ、まるで絵本に出てくるような白馬に乗った王子様みたい。
女性なら一度は夢に見るだろう。
王子様に抱きかかえられて、毛並みが綺麗な白馬に乗って、身体を密着させ熱いキスを交わす。
そんな妄想をした時もありました。
でも、現実は…………。
「姫殿下、わたくしめにご用があるとのことですが」
「あ、その前にどうぞお部屋の方に」
「いえ、わたくしめはまだ業務が終わっておりませんので、このままお伺いしても?」
マキアスさんを絶対このまま帰らせてはいけない。
いえ、ダメよリーゼ。
ここは素直にマキアスさんの言葉を受け入れて、用件だけを伝えなければ。あまりわがままを言うと、嫌われるかもしれない。
ここは徐々に距離を詰めていくのが恋愛の基本。
「ええ、用件というのは今晩行われる催しについてなのですが」
「どうもシスティア様がえらく張り切っていらっしゃるようで、騎士団一同準備に追われてまして」
「そこまで大規模なのですか、今晩の催しは」
「そのようですね、名門貴族の方々はもちろん他国の――いえ、名門家の方々がお越しになられるとのことで」
今『他国の』って言った気が……。
私の聞き間違い?
それとも名門家以外にも他国から使者がくるのかな?
「そうですか…………」
「不安でいらっしゃいますか? でしたらこれを」
マキアスさんに差し出されたのは、緑色の宝石が装飾されたペンダント。
まさか、好きな男性からこんなプレゼントを貰えるなんて本当に夢みたい。
するとマシアスさんは私の背後に回り、首元にネックレスをかけてくれたのだ。
「これは……?」
「姫殿下へのプレゼントです」
「頂戴いたします。ありがとう! マキアスさん」
「これでもまだ不安ですか?」
「ええ、少しですが……」
「リーゼ姫にはわたくしめがついております。ですのでご安心を」
「ありがとう、マキアスさん。あなたには感謝しかありません。まだ私が幼い頃も森で――」
「申し訳ありません。そろそろ時間ですので、わたくしめは」
「はい……」
「では後ほど」
マキアスさんはそう言葉を残して去って行った。
「ねぇ、ネム」
「はい、何用でございましょう」
「ええと、マキアスさん呼んできてくれない?」
マキアスさんはこの国の騎士団長を務めてくれているお方。
私の憧れであり、初恋の相手? でもある。
それはまだ私が幼い頃、外の世界に興味があった私は勝手に城を抜け出し、深い森の奥へと辿り着いた。普段は冒険者達が魔物を討伐してくれているため、シーンとした静寂の中、風のささやかな音が耳に入ってくる森――なのだが、この日は違った。
魔物達の鳴き声、最初は冒険者達が追い詰めて討伐している最中だと思った。でも決してそんなことはなく、実際は私の匂いを嗅ぎつけた魔物達が発見時の合図を出し合っていたようにも思える。
その遠吠えを耳にした魔物達は、すぐさま私を取り囲んだからだ。
恐怖で震えて身体が動かない。
助けを呼ぼうとしても、声が出ない。
そんな時、駆けつけてくれたのが、まだ騎士としては未熟なマキアスさんだった。
彼は両手で持つ大剣を必死に振り回し、魔物を次々となぎ倒していく。
そして魔物を討伐したマキアスさんが言った言葉を私はまだ覚えている。
『あなた様はわたくしめの宝です。初めてこの身を捧げてでもお守りしたいと思ったお方です。どうぞこのマキアスをあなた様のために存分にお使いください』
と、言ってくれたのだ。
幼かった私はこの時のマキアスさんを見て、どこにいても、どんなピンチが訪れても、すぐに助けに来てくれる王子様だと感じたのだ。
まるでそれは暖かい太陽のような人。
心優しく、いつも私を見守ってくれている、視線が合うたびにそう感じさせてくれる。
そんな彼に私は初めて恋? をしたのだ。
まあ私にはそんな過去があるのだけど、それからというものマキアスさんには本当にお世話になりっぱなしな訳で……って、確かに少しでも一緒にいたいって気持ちもあるから、あえて頼み事をする時もあるし、私の部屋で二人きりでお茶をゆっくりと飲みたいわけで…………。
「姫様、顔が緩んでおられますよ」
「あ、ああ、いやまだいたのネム!?」
「でも姫様は可愛らしいですね。そのうぶな感じといい、初恋をした乙女みたいな素振りがまた……ふふっ」
「そんなのどうだっていいから!! 早く呼んできて!!」
「はっ!」
ネムは私に一礼した後、部屋を退出した。
今のうちにマキアスさんが来る準備をしないと!
お気に入りのマグカップに珍しいサクサクとした食感の甘いお菓子を木製のテーブルに置いて。
それと耳の後ろと首、手首に少量の香水を振りかけてっと。
最後にアロマを炊いたら完成!!
「ふふっ! マキアスさん喜んでくれるかな!?」
そしてマキアスさんを迎える準備も終わり、待ちきれずうろうろしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
来てくれた! 早く開けないと!
「マキアスさん!!」
「痛っ!!」
「え、誰?」
私は勢いよく開けた扉の先を見ると、ユーシスが鼻を摘んで尻もちを着いて倒れていた。
「ユーシス! なんでここにいるのよ?」
「え、いや、ちょっとな……」
「もう鼻血も出てるじゃない。ちょっと待ってて」
「大丈夫だって、こんくらい」
「ダメよ、ちゃんと抑えてて。今布持ってくるから」
「やっぱ、変わらないな」
「変わらないって何が?」
「何でもない……」
私は部屋の机の上に置いてあった一枚の布をユーシスの鼻元に近づけた。
その布で鼻血を拭き取り、そのまま布越しにユーシスの鼻を摘んだ。
「しばらくこのままね、分かった?」
「ああ」
しばらくユーシスの鼻を摘んでいるが、血が止まる気配はない。
結構強く扉にぶつけたみたいね。
一度、王室専属医師に見せて方が良いのかな?
「ねぇユーシス。医者に見てもらうのはどう?」
「そんな大げさな。こんなんすぐ治るから大丈夫だって」
「けど……全然血が止まらないじゃない」
こういう時に回復魔法とか使えたら、状況は変わっていただろうに。
でもこれは明らかに私の責任。
私が勢いよく扉を開けたせいで、こうなったんだから。
するとユーシスは立ち上がり、
「そろそろ騎士団長が来るんだろ? 俺は騎士団本部に戻るよ」
「本当に大丈夫? 血が止まったらその布また返しに来て」
「ああ……」
「突然痛みがしてきた、とか身体に何か問題が起きた時はすぐに私の部屋に連絡して。すぐに駆けつけるから」
「ああ……」
ユーシスは血が滲んだ布で鼻を抑えながら、ゆっくりと騎士団本部の方向に足を進ませた。
布で口が隠れていたため、ちゃんと確認はできなかったが別れる際、一瞬笑みを浮かべたように見えた。
多分、私の勘違いだろうけど。
特に特別なことをした覚えもないし、単に鼻血を抑えるための布を渡して、一緒に鼻を抑えてあげただけだし。
え、もしかしてその行動自体が結構恥ずかしい行為だったりするのかな?
「…………はぁ」
私は大きくため息をついた。
「どうされたのですか? そんな大きなため息をつかれて」
「マ、マキアスさん!?」
「こんにちは、姫殿下」
「ごきげんよう、マキアスさん……」
思わず恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
マキアスさんの顔をちゃんと見ることができない。
私より十歳くらい年上で、筋肉質な身体、大人の風格を漂わせ、まるで絵本に出てくるような白馬に乗った王子様みたい。
女性なら一度は夢に見るだろう。
王子様に抱きかかえられて、毛並みが綺麗な白馬に乗って、身体を密着させ熱いキスを交わす。
そんな妄想をした時もありました。
でも、現実は…………。
「姫殿下、わたくしめにご用があるとのことですが」
「あ、その前にどうぞお部屋の方に」
「いえ、わたくしめはまだ業務が終わっておりませんので、このままお伺いしても?」
マキアスさんを絶対このまま帰らせてはいけない。
いえ、ダメよリーゼ。
ここは素直にマキアスさんの言葉を受け入れて、用件だけを伝えなければ。あまりわがままを言うと、嫌われるかもしれない。
ここは徐々に距離を詰めていくのが恋愛の基本。
「ええ、用件というのは今晩行われる催しについてなのですが」
「どうもシスティア様がえらく張り切っていらっしゃるようで、騎士団一同準備に追われてまして」
「そこまで大規模なのですか、今晩の催しは」
「そのようですね、名門貴族の方々はもちろん他国の――いえ、名門家の方々がお越しになられるとのことで」
今『他国の』って言った気が……。
私の聞き間違い?
それとも名門家以外にも他国から使者がくるのかな?
「そうですか…………」
「不安でいらっしゃいますか? でしたらこれを」
マキアスさんに差し出されたのは、緑色の宝石が装飾されたペンダント。
まさか、好きな男性からこんなプレゼントを貰えるなんて本当に夢みたい。
するとマシアスさんは私の背後に回り、首元にネックレスをかけてくれたのだ。
「これは……?」
「姫殿下へのプレゼントです」
「頂戴いたします。ありがとう! マキアスさん」
「これでもまだ不安ですか?」
「ええ、少しですが……」
「リーゼ姫にはわたくしめがついております。ですのでご安心を」
「ありがとう、マキアスさん。あなたには感謝しかありません。まだ私が幼い頃も森で――」
「申し訳ありません。そろそろ時間ですので、わたくしめは」
「はい……」
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