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断章 母なる想いは国か、それとも娘か
29話 ラピスの計画と【亡霊】ネム・エドワーズ
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「ここは……うっ、頭が」
目を覚まし真っ先に見えたのは、薄汚い蜘蛛の巣だらけの天井だった。
手を握り開き、そんな動作を繰り返し行うが身体はいつも通り正常に動く。
問題はこの寝かされた状態から起き上がれるかなのだが、身体が妙に重く感じるのは気のせいか?
そんな中、わたくしが無理に身体を起こそうとすると、
「今はまだゆっくりしといた方がいいよ。毒を抜いたばかりだからね」
「うん、そうするべき」
この声に覚えがある。
ゆっくりと顔を横に向けると、そこにはシズクとラピスの姿があった。
「レティーから聞いたはずでは?」
わたくしがそう問うと二人は不思議そうな表情を浮かべている。
「ちゃんと聞いたよ、けど今はこういう状況だし看病する人も必要だしね」
「確かにそう、レティーが上手くやってくれてる。だけど勘づいた人間が追ってを出す可能性もあると踏んだ」
「そうね、感謝するわ。あなた達二人はそれで良いとしてリンスはどこに?」
「リンスは陛下からの伝言通り旅立ったよ。あの子真面目だからね、命を出されたらそれに伴った行動しかできないから」
「それなら良かったわ」
わたくしはひとまず安堵した。
もう一つ心配するすることがあるとすれば可愛いわたくしの娘――リーゼのことだけ。
「今のところすべて手順どおりに運んでいる、という理解で良いかしら?」
「大丈夫、先程王国にて陛下の追悼式が行われたとの情報がレティーから入った。それと心配もしてた。一時的に苦しむ毒だから大丈夫なのかって」
「彼女に大丈夫って伝えてくれるかしら? わたくしのことはそんなに心配せず娘のことお願いするわ、と」
「うん、伝えて置く」
今更だがこの計画の発案者はラピスだ。
彼女はわたくしが王の座を奪われたという理由で、かなり腹を立てていたらしく、この状況を利用し最後にはルーデルとセレスを追い詰め、状況を一気にひっくり返すといった計画だそうだ。
そしてこれはリーゼを守るための計画でもあるという。
今後の計画としては、わたくしはネム・エドワーズという女性を装って騎士団に入隊し、それなりの地位に就く。
そしてリーゼ専属の従者となり、城内の様子を伺いつつ隙きあらば正体を明かしてすべてをひっくり返す。
簡単な計画に見えて、時間も労力もかなり掛かる計画には違いない。
しかし娘を守るため、ルーデルとセレスに報復するためにこのラピスの計画に乗ったということだ。
「陛下、本当に良いんだね? 今まで残してきた陛下の功績、いや存在自体が消えたと言ってもいいかな。お嬢ちゃんにすらずっと正体を開かせないんだよ。彼女がどんなに苦しんだって母親じゃなくて従者として接していかないといけない。その心積もりはできてるの?」
そう言いながらシズクは心配そうな顔で見つめているが、わたくしの心の中ではもうはっきりとした答えは出ていた。
「わたくしはそれで構いません。愛する娘の側にずっといられるのなら」
「だったら早速この鎧と兜を」
「それは……?」
「陛下は今からユリアの名を捨て、ネム・エドワーズになるんだよ。この世界どこを探しても存在しない人物。まあ、言ってしまえば【亡霊】みたいなもんだね。分かってると思うけど決して人前で鎧と兜は外さないこと」
「ええ、これも娘のために」
これで一通りの話は終わったはずだった。
しかし最後にラピスから伝えられたのは、
「陛下は数年表に出ない」
「ええ、元からそのつもりよ。わたくしという一国の女王が死んだ以上、国が落ち着くまでは数年はかかるはずだから」
わたくしの心情は生涯この漆黒の鎧と兜から外へ漏れ出ることはないだろう。
目を覚まし真っ先に見えたのは、薄汚い蜘蛛の巣だらけの天井だった。
手を握り開き、そんな動作を繰り返し行うが身体はいつも通り正常に動く。
問題はこの寝かされた状態から起き上がれるかなのだが、身体が妙に重く感じるのは気のせいか?
そんな中、わたくしが無理に身体を起こそうとすると、
「今はまだゆっくりしといた方がいいよ。毒を抜いたばかりだからね」
「うん、そうするべき」
この声に覚えがある。
ゆっくりと顔を横に向けると、そこにはシズクとラピスの姿があった。
「レティーから聞いたはずでは?」
わたくしがそう問うと二人は不思議そうな表情を浮かべている。
「ちゃんと聞いたよ、けど今はこういう状況だし看病する人も必要だしね」
「確かにそう、レティーが上手くやってくれてる。だけど勘づいた人間が追ってを出す可能性もあると踏んだ」
「そうね、感謝するわ。あなた達二人はそれで良いとしてリンスはどこに?」
「リンスは陛下からの伝言通り旅立ったよ。あの子真面目だからね、命を出されたらそれに伴った行動しかできないから」
「それなら良かったわ」
わたくしはひとまず安堵した。
もう一つ心配するすることがあるとすれば可愛いわたくしの娘――リーゼのことだけ。
「今のところすべて手順どおりに運んでいる、という理解で良いかしら?」
「大丈夫、先程王国にて陛下の追悼式が行われたとの情報がレティーから入った。それと心配もしてた。一時的に苦しむ毒だから大丈夫なのかって」
「彼女に大丈夫って伝えてくれるかしら? わたくしのことはそんなに心配せず娘のことお願いするわ、と」
「うん、伝えて置く」
今更だがこの計画の発案者はラピスだ。
彼女はわたくしが王の座を奪われたという理由で、かなり腹を立てていたらしく、この状況を利用し最後にはルーデルとセレスを追い詰め、状況を一気にひっくり返すといった計画だそうだ。
そしてこれはリーゼを守るための計画でもあるという。
今後の計画としては、わたくしはネム・エドワーズという女性を装って騎士団に入隊し、それなりの地位に就く。
そしてリーゼ専属の従者となり、城内の様子を伺いつつ隙きあらば正体を明かしてすべてをひっくり返す。
簡単な計画に見えて、時間も労力もかなり掛かる計画には違いない。
しかし娘を守るため、ルーデルとセレスに報復するためにこのラピスの計画に乗ったということだ。
「陛下、本当に良いんだね? 今まで残してきた陛下の功績、いや存在自体が消えたと言ってもいいかな。お嬢ちゃんにすらずっと正体を開かせないんだよ。彼女がどんなに苦しんだって母親じゃなくて従者として接していかないといけない。その心積もりはできてるの?」
そう言いながらシズクは心配そうな顔で見つめているが、わたくしの心の中ではもうはっきりとした答えは出ていた。
「わたくしはそれで構いません。愛する娘の側にずっといられるのなら」
「だったら早速この鎧と兜を」
「それは……?」
「陛下は今からユリアの名を捨て、ネム・エドワーズになるんだよ。この世界どこを探しても存在しない人物。まあ、言ってしまえば【亡霊】みたいなもんだね。分かってると思うけど決して人前で鎧と兜は外さないこと」
「ええ、これも娘のために」
これで一通りの話は終わったはずだった。
しかし最後にラピスから伝えられたのは、
「陛下は数年表に出ない」
「ええ、元からそのつもりよ。わたくしという一国の女王が死んだ以上、国が落ち着くまでは数年はかかるはずだから」
わたくしの心情は生涯この漆黒の鎧と兜から外へ漏れ出ることはないだろう。
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