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王都編下

第89話 おちていく

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 目立てるように金の髪を2つにまとめ青いリボンをぴょこんと結ぶ。つまり、いつもの髪型。
 軽くリップだけを塗って頑張って大人びた少女のように演出する。
 Aラインの黒いドレス。大人びたように見られたいのでドレス自体にフリルなどは無いが下半身のスカートに布を多めに使いふんわり広がる。下にカラーチュニエがチラ見えする。色はリボンに合わせて青で、黒いドレスに合うようリボンよりワントーン暗めの夜空みたいな青。


 カツ、とヒールを鳴らした。

「参るぞり!」
「おい誰か騎士団に捜索届けだせ。色気が迷子だ」
「ライアー!!!」

 大変に失礼なことをいいやがったライアーにキッと睨みつける。

「困っちまうな、俺実はなんでも似合うんだな……」

 そんな視線を気にせずふぅと哀愁漂う雰囲気を見せるライアー。

 白いシャツに黒の光沢のあるスーツ。胸に見えるスリーピークスのポケットチーフは国花に合わせて白いが、紺色で縁取られている。
 息苦しいからとコイツネクタイ外しやがったけど。

「騎士団に捜索届けぞ出すして。視力ぞ迷子」
「誰の視力が悪いって?」
「あいたたたたたたたたなんでも無きですーーーっっ!」

 頭をグリグリされて思わず唸る。
 ライアーの手、大きいから私の頭すっぽり入っちゃうんだよね!!! 素直にやめて欲しい!

「ライアー、傷付けない程度にしてくれよ」
「そうですわ、弟子そのこに何かあればとても困るのよ!」

 困った様な笑みを浮かべたクロロスと、ぷんぷん頬を膨らませたエリィが現れる。
 2人共暗めの色で作られている衣装。別にカラードレスやスーツが悪いわけじゃないけど、向かうは貴族と庶民が混ざるカジノ。庶民は大人しく貴族の華やかさを目立たせるために地味めな色を選ぶのがマナーみたい。

「はー。所持金が減った……。賭けで元取るしかねぇな」

 でもこいつは論外。
 髪の毛もまとめてあげたらたらいいのにぼさっと下ろしたままだし。

「私賭け事初めてなの。上手く出来るかしら」
「エリィ嬢。精霊は使えるか?」
「いいえ。リィンさん、貴女はどう?」
「こちらも全く。まぁイカサマ対策でしょうね」

 カジノに入場し、4人でひとまず固まる。
 絶対的に、では無いがエスコートが必要なので、先程までコンビで別れてチップと交換しに向い、そして今合流したわけだ。

 よく考えたら私(14)とクロロス(14)で組んで、エリィ(30)とライアー(34)が組むのが自然だと思うんだけどな。おかしいな。

「……へぇ、あいつが監視役か」

 私に顔を近付け視線を人混みに向けるライアー。その視線を辿れば鼠ちゃんが居た。
 うん、そりゃ魔法の使えない空間で透明化魔法は使えないよね。姿見えなくても視線でバレるんだからバレるよね。

 鼠ちゃんも監視、クロロスも多分監視。
 ほんっっっとうに思うけどバレる様な手を使って何を企んでるんだろう。わざとなのか無能なのかすら分からない。特に鼠ちゃんがバレた時の反応なんか本当に死を理解したガチの怯え方だったからより一層分かんない。

「黄金の「リィン」……リィン嬢、とりあえずどうする?」
「とりあえず何も情報ぞ無きことには動けませぬ故に。情報源手に入れるします、従業員のなるべく上の方。目、付けるです」

 ここにもし第2王子がいるなら間違いなく経営側の人間が犯人になる。
 ま、犯人じゃなくても情報集うカジノで協力者が得られれば御の字。

「あぁ、まぁ、確かに」

 私が最初に立てた必要な人材。4つ。

 ・犯人が私ではないと証明してくれる者(中立)
 ・情報提供者
 ・アリバイ証明者(第三者)
 ・クアドラードの者だという証明者

 まず分かりやすい情報提供者、というのがエリィだ。ペイン達に頼もうにも、彼らは王都に居ないしそもそも平民だから難しい。
 そして犯人じゃないという証明。これは現在進行形でクロロスと鼠ちゃんに証明してもらうつもりだ。
 犯行当時の証明が難しくとも、今後の展開次第では充分可能だろう。

 また同時に当時のアリバイの証明も難しい。
 ただ、細かく犯行時間を詰めることが出来ればその時々によって可能なんだよね。

 だって、冒険者大会に出場した私は第2戦目の後であろうと目立ったから。


 厄介事しゅうきょうに巻き込まれかけてるのも冒険者大会が原因で、厄介事えんざいから助かる手段を見つけるのも冒険者大会のおかげ、っていうのが……とても腹立つな……。


「リィン嬢、一応言っておくが、貴族の養子に行くなら伯爵からにしておいて欲しい」
「……何ぞ言うすてる?」
「え、そりゃ。キミを守るためだけど。俺はキミのナイトだからね」

 ナイト確定してないです。

「……クロロス、私と結婚したきなのです?」

 結構謎だったことを思いっきり聞いてみた。
 初対面は結構ハニートラップ色が強めだったし、貴族なのはほぼ確定している。そして罪人候補である私といるのは監視。
 結婚すれば貴族という檻の中に囲めるから合理的だろう。

 黄金の君、と言われている理由は髪色だと。何かしら得があるのは確か。

「まさか!」

 だと言うのに、クロロスは全力で否定した。

「俺が婿に行くならまだしも俺の家に貰うのは解釈違いですやめてください」
「……私、お前、分からぬ」

 なんかフラれたみたいになってるの納得いかない。
 というか『俺の家』って言ってる時点で貴族なんだよね。

「とりあえず行こうか」

 話を誤魔化すようにクロロスが慌てて背中を向けてそさくさと進もうとした時。

「えっ」
「おっ」
「げっ」

「…………お、お前──!」


 そこに居たのは黒髪碧眼。
 ペイン達だった。
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