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5話 泥棒
しおりを挟む「人生が終わった」
そう思った。
「早く行きなさい。」
母がそう言って停車したのは、
地元にある大きな警察署だった。
運転席から聞こえる母の言葉に、
ただただ
「ごめんなさいぃ。」
そう叫んでいた。
彼女と彼女の妹は
「嫌だ」
そう首を横に振りながら、
乾いた涙が顔にへばりつき、
涙が枯れるのではないかと思うほどまた泣いては謝った。
「もうしませんんゔぅぅッ。」
そう繰り返す彼女たちに母は
「あんた達は泥棒したんだからね?
人のお金取った人は皆刑務所に行くんだから。」
「ほら!降りんさいよ。」
しかし
母は彼女達を
無理やり連れ出そうとはしなかった。
実際、どれくらいの時間そうしていたのだろうか。
それはとてつもなく長い時間に感じた。
しばらくして母は、
「こうなることよく覚えときーよ。」
そう言って家に引き返したのだった。
事の発端は1か月前。
母と妹と彼女で父方の実家へ
遊びに行った時のことだった。
祖父は既に他界したため、
家には腰の曲がった祖母しかいなかった。
そして、
彼女の目に入ったのは
郵便箱の形のした、
母の手のひら程度の貯金箱だった。
ずっしりと入って見えるその中身は、
百円玉の宝庫だった。
だから彼女は、
祖母がトイレに行き、
母も妹も見ていない隙に
鞄の中に貯金箱を入れた。
悪いことだってわかってた。
罪悪感もあった。
でも、、、
ずっしり入ったこの感触を
彼女は独り占めしたかったのだ。
それから彼女は、
コンビニでお菓子や玩具を買うようになった。
そうした事を繰り返していくうちに
たちまちお金は減っていき、
玩具なんて買った時には
一気に1500円程度のお金が消えていった。
なぜそんなことができたのか。
それは、
家から10メートルも満たないほどの近場に
個人経営のコンビニがあったからだ。
そこにはお菓子以外に玩具までもが置いてあり、買おうと思えば買える環境だった。
もうそろそろお金が尽きる。
その頃だった。
たまたま父に頼まれハンコを探していた彼女は、
母の部屋でお金や通帳の入った箱を見つけた。
「ちょっとだけ。」
そうして、
彼女は2度目の犯行に及んだ。
好奇心で妹を巻き込み、
彼女は盗みを繰り返した。
お小遣いが少ない。
そんな中だったから、
バレるのには時間はかからなかった。
「なにこれ?」
母が見つけたのは、
買った覚えのない、千円以上する玩具だ。
彼女は何も言えなかった。
「なー。なにこれ?
こんなのあんた買えないわよね?」
当然の反応だった。
黙りこくった彼女に母は追求した。
そうして、
その威圧に彼女は逆らえなかった彼女は
全て自分がしたことを赤裸々に話した。
「はぁ。」
とてつもなく大きなため息だった。
きっと母は、
自分の懐から取ったお金のことより
祖母から盗んできた貯金箱の方が
ショックだったに違いない。
「謝りに行くよ。」
母はひどく呆れた声でそう言って
彼女たちを車に乗せた。
祖母の家に着くと、
まずは母が状況を説明して謝った。
次いで、彼女も謝った。
「すいません。
きっと三千円くらいなはずなんですけど。」
そう言って、
お金の入った封筒を母が渡すと祖母は
「そうだったんだねぇ。
気にせんでいいよ。」
そう言って微笑んだ。
目尻が下がりいつも微笑んでいるように見える祖母は、
少し驚いた顔をした後、
怒った顔ひとつ見せず許してくれた。
「もう帰るの?」
お金を渡してすぐ帰ろうとした母に
祖母はそう問いかけた。
「はい。やることがありますんで。」
祖母に返したその言葉は、
誰よりも彼女に突き刺さった。
これから一体、
何が待ち受けているのだろうか。
そう考えざるを得なかった。
考えるうちにいつの間にか家に着いていて、
母は、
「パパが帰ってきたら自分たちがやったこと全部話なさいね。」
そう言って部屋に戻って行った。
しかし、
母の威圧からの解放感と同時に
これから怒り得ることへの怖さで
足が震えていた。
ガチャッ
父が帰ってきた。
すると母が父を呼び出して、
机を挟んで正面に父は座った。
彼女達が父親に
面と向かって叱られることは初めてだった。
「早く言いなさい。」
何も切り出せない彼女に、
母はさらに威圧をかけた。
「ごめんなさい。
おばあちゃんの貯金箱をとって、
ママのお金をとりました。」
すると父は
「明日返しに行こう。」
そう言って怒った後、
彼女も妹も全く泣いてはいなかった。
いつも母と怒鳴りあって喧嘩している父だったが、
その時は、記憶にも残っていないくらい
怒らなかったのかもしれない。
父がお風呂に行き、
部屋にいない間
彼女たちは母が運転する車に乗っていた。
何も言わず、
ただ威圧されるだけのこの空間。
彼女たちは母の、少しだけ見える横顔に
さらに恐怖を感じていた。
車が止まると、
そこは警察署だった。
「ママだって、あんたらに行って欲しいとは思ってないけど。
あんたらがそうゆうことをしたんだからしょうがないじゃなでしょ。」
母は泣きじゃくる彼女たちに
警察に行くようにひたすら促した。
でも彼女たちはいかなかった。
彼女はひたすら、
自分がしてしまった過ちへの後悔と
妹を巻き込んでしまったことへの罪悪感
母に嫌われてしまった自身のの悲哀な姿に
死んでしまいたい。
そう思った。
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