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1.「これは、どういうこと?」※
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その日、シュテファニ・アイブリンガーはたまたま用事が早く終わり、たまたま流行りの店が空いていたので、お土産にクリームたっぷりで色とりどりのフルーツが乗ったケーキをふたつ買って帰宅した。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。フーゴ様は執務室かしら?」
「いえ、その……」
アイブリンガー家の執事イーヴォが出迎える。先代が五年前に逝去して当主が変わってからも真摯に務めてきた彼が、言い淀むなんて珍しいことだ。
「そうよね。あの人が執務なんてするわけないわ。嫌味を言ってしまったわね。」
執事は曖昧に笑って見せた。
いつもと様子が違うことに気づいたシュテファニは、再度執事に婚約者の居場所を聞くと、寝室に居るという。時間で言うとティータイムの頃だ。朝出かける時には確かに寝ていた夫だが、まさかまだ寝ているのだろうかと訝しむ。
「いつもそんなに寝ていらっしゃるの?」
「いえ、いつもはさすがに……ではなくてですね! その、フーゴ様は一度お出かけになって、……どちらかの女性を、お連れになりました。」
「女性?」
「は、はい……初めて見る方で、どなたかお聞きしたのですが、仰ることが、その、的を得ないといいますか……」
「まあ、いいわ。寝室ね。」
フーゴの言うことが理解できない、というのはこの屋敷では多々あることだった。どうも思考回路が独特なようで、普通に思っていた常識やルールが通じない時があるのだ。
ともかく話を聞こうと、シュテファニはお土産のケーキを持ったまま、共に出かけていた侍女と護衛と執事とを連れてフーゴの寝室へ向かった。
「主、女と寝室にいるというなら、行かないほうがいいんじゃないですか?」
「なぜ?」
「なぜ……って、そりゃあ男と女が寝室ですることなんて、ひとつしかないでしょう?」
「そうかしら??」
「ザビ、お嬢様に余計なことを言わないで。
お嬢様。とりあえず私どもが向かいますのでお嬢様はティールームでおくつろぎください。」
「おい余計なことって――」
「黙っていてってば。」
「はあ?」
侍女のユジルと護衛のザビが言い合っているうちに、寝室についてしまった。
侍女は慌ててシュテファニを止めるが、時すでに遅し、寝室の扉は開かれてしまった。
「ああ、フーゴさまっ」
「んんん、すごい蜜だ…ああ、とても美味しいよウーラ。」
「あんっ、や、はや、く……」
「ああ……よーくほぐしてあげようね。」
案の定、嫌な予感は当たったとばかりに護衛は自身の額に手をやった。侍女は顎が外れるんじゃないかというくらい開いた口が塞がらない。
室内には、卑猥な水音と息遣いが充満していた。
「はっあぁぁんっ」
「ああ……ぐちゃぐちゃだ……すごくぬるぬるして……」
「も、もっと、もっとしてくださいっああっっ」
「ここ? ここがいいのか?」
「あ、あぁぁっああああああ!」
目の前の光景に、一同は唖然としていた。
寝室のベッドの上でシュテファニの婚約者であるフーゴと、一人の女性が裸でいるのだ。フーゴは女性の下半身に顔を埋め、女性は嬌声を上げていた。
「これは、どういうこと?」
いち早く正気を取り戻し発せられたシュテファニの声に、ベッドの上の二人は、部屋の扉が開いていることにやっと気づいた。
「きゃあぁっ」
「なっ、シュテファニ?!」
驚いて目を向けると、開け放たれた扉の前には自身の婚約者であるシュテファニ・アイブリンガーと使用人たちがいる。
女は慌ててシーツを体に纏うが、フーゴは裸で自身のそそり立つものを隠そうともせず喚き出した。
「貴様ら! 今すぐ扉を閉めろ! 無礼だろう!!」
「フーゴ、あなたいったい何をしているの?」
「うるさい! いいから出ていけ!! このような無礼が許されるか!! 早く閉めろ!」
パニック状態のフーゴは「うるさい」「出ていけ」「閉めろ」「見るな」くらいしか言えないようだ。とても見るに耐えない。
シュテファニは、これ以上ここにいても仕方ないと、何より見苦しいものをこれ以上見たくはないとフーゴを一喝した。
「黙りなさい!!」
「っ?!」
「……はぁ。とりあえず、しっかりと服を着て用意ができたらティールームにいらしてくださいませ。」
そう言うと、シュテファニはさっさと扉を閉めた。
シュテファニが後ろを振り向くと、皆が皆違う顔をしているから面白かった。
イーヴォは顔面蒼白で、ユジルは怒りで顔が真っ赤になっている。ザビは、「だから言ったでしょ?」とでも言いたげなドヤ顔だ。
シュテファニは、通りすがりザビの肩を軽く叩いてからティールームに向かった。そして三人もそれにならいついていった。
・
・
・
「フーゴぉ~」
「あ、ああ、すまないウーラ。」
「見られちゃったけど……どうするの?」
「大丈夫だ。予定通り、キミを大事な人として紹介するよ」
「そっかぁ」
「それで、あいつを追い出したらキミが侯爵夫人だ。」
「あら、うふふっ♪」
フーゴは6年前に侯爵位を継ぐためシュテファニと婚約したが、かねてからの恋人であるウーラとはずっと関係が続いていた。そして結婚も間近となったのでこの家で暮らし始めたが、頃合いを見計らってシュテファニを追い出してウーラと正式に結婚するつもりだった。
まともな頭があれば、それがどれだけ荒唐無稽なことかわかる。
すでに、侯爵位はシュテファニ・アイブリンガーが継いでいるのだから。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。フーゴ様は執務室かしら?」
「いえ、その……」
アイブリンガー家の執事イーヴォが出迎える。先代が五年前に逝去して当主が変わってからも真摯に務めてきた彼が、言い淀むなんて珍しいことだ。
「そうよね。あの人が執務なんてするわけないわ。嫌味を言ってしまったわね。」
執事は曖昧に笑って見せた。
いつもと様子が違うことに気づいたシュテファニは、再度執事に婚約者の居場所を聞くと、寝室に居るという。時間で言うとティータイムの頃だ。朝出かける時には確かに寝ていた夫だが、まさかまだ寝ているのだろうかと訝しむ。
「いつもそんなに寝ていらっしゃるの?」
「いえ、いつもはさすがに……ではなくてですね! その、フーゴ様は一度お出かけになって、……どちらかの女性を、お連れになりました。」
「女性?」
「は、はい……初めて見る方で、どなたかお聞きしたのですが、仰ることが、その、的を得ないといいますか……」
「まあ、いいわ。寝室ね。」
フーゴの言うことが理解できない、というのはこの屋敷では多々あることだった。どうも思考回路が独特なようで、普通に思っていた常識やルールが通じない時があるのだ。
ともかく話を聞こうと、シュテファニはお土産のケーキを持ったまま、共に出かけていた侍女と護衛と執事とを連れてフーゴの寝室へ向かった。
「主、女と寝室にいるというなら、行かないほうがいいんじゃないですか?」
「なぜ?」
「なぜ……って、そりゃあ男と女が寝室ですることなんて、ひとつしかないでしょう?」
「そうかしら??」
「ザビ、お嬢様に余計なことを言わないで。
お嬢様。とりあえず私どもが向かいますのでお嬢様はティールームでおくつろぎください。」
「おい余計なことって――」
「黙っていてってば。」
「はあ?」
侍女のユジルと護衛のザビが言い合っているうちに、寝室についてしまった。
侍女は慌ててシュテファニを止めるが、時すでに遅し、寝室の扉は開かれてしまった。
「ああ、フーゴさまっ」
「んんん、すごい蜜だ…ああ、とても美味しいよウーラ。」
「あんっ、や、はや、く……」
「ああ……よーくほぐしてあげようね。」
案の定、嫌な予感は当たったとばかりに護衛は自身の額に手をやった。侍女は顎が外れるんじゃないかというくらい開いた口が塞がらない。
室内には、卑猥な水音と息遣いが充満していた。
「はっあぁぁんっ」
「ああ……ぐちゃぐちゃだ……すごくぬるぬるして……」
「も、もっと、もっとしてくださいっああっっ」
「ここ? ここがいいのか?」
「あ、あぁぁっああああああ!」
目の前の光景に、一同は唖然としていた。
寝室のベッドの上でシュテファニの婚約者であるフーゴと、一人の女性が裸でいるのだ。フーゴは女性の下半身に顔を埋め、女性は嬌声を上げていた。
「これは、どういうこと?」
いち早く正気を取り戻し発せられたシュテファニの声に、ベッドの上の二人は、部屋の扉が開いていることにやっと気づいた。
「きゃあぁっ」
「なっ、シュテファニ?!」
驚いて目を向けると、開け放たれた扉の前には自身の婚約者であるシュテファニ・アイブリンガーと使用人たちがいる。
女は慌ててシーツを体に纏うが、フーゴは裸で自身のそそり立つものを隠そうともせず喚き出した。
「貴様ら! 今すぐ扉を閉めろ! 無礼だろう!!」
「フーゴ、あなたいったい何をしているの?」
「うるさい! いいから出ていけ!! このような無礼が許されるか!! 早く閉めろ!」
パニック状態のフーゴは「うるさい」「出ていけ」「閉めろ」「見るな」くらいしか言えないようだ。とても見るに耐えない。
シュテファニは、これ以上ここにいても仕方ないと、何より見苦しいものをこれ以上見たくはないとフーゴを一喝した。
「黙りなさい!!」
「っ?!」
「……はぁ。とりあえず、しっかりと服を着て用意ができたらティールームにいらしてくださいませ。」
そう言うと、シュテファニはさっさと扉を閉めた。
シュテファニが後ろを振り向くと、皆が皆違う顔をしているから面白かった。
イーヴォは顔面蒼白で、ユジルは怒りで顔が真っ赤になっている。ザビは、「だから言ったでしょ?」とでも言いたげなドヤ顔だ。
シュテファニは、通りすがりザビの肩を軽く叩いてからティールームに向かった。そして三人もそれにならいついていった。
・
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「フーゴぉ~」
「あ、ああ、すまないウーラ。」
「見られちゃったけど……どうするの?」
「大丈夫だ。予定通り、キミを大事な人として紹介するよ」
「そっかぁ」
「それで、あいつを追い出したらキミが侯爵夫人だ。」
「あら、うふふっ♪」
フーゴは6年前に侯爵位を継ぐためシュテファニと婚約したが、かねてからの恋人であるウーラとはずっと関係が続いていた。そして結婚も間近となったのでこの家で暮らし始めたが、頃合いを見計らってシュテファニを追い出してウーラと正式に結婚するつもりだった。
まともな頭があれば、それがどれだけ荒唐無稽なことかわかる。
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