34 / 34
最終話
しおりを挟むあれから数年が経った。
ここで登場人物たちの話をしよう。
この物語の最初に事件を起こしたフーゴ・バーデンの生家バーデン家は、ヴィム・バーデンが継いでいた。
ヴィムは、妊娠が発覚することを恐れ、母を領地にいる父の元に送った。やってきた妻の酷い状態を見て、元侯爵は大層後悔した。フーゴをあのよう育ててしまったことが全ての元凶だったのだ、と。
元侯爵は、おかしくなってしまった妻を労り、身体を気遣い、出産後は2人で子どもを慈しんだという。この子に罪はないのだから、と。
両親が領地で穏やかに暮らせるよう、騎士団にいるもう1人の優秀な弟が恙無く過ごせるよう、ヴィムはバルシュミーデとアイブリンガーには逆らわないようにしながらも、立派にその役を務めた。生涯結婚はしなかった。
フーゴはというと……動けない状態ではあるが、生きている。生かされてはいるが、ただそれだけだった。食べ物も飲み物も与えられるし、日中は陽の当たるような小屋にいる。
しかし繋がれているし動ける体ではない。ただただ思考するしかない地獄だった。死んでしまえば楽かもしれない。しかし、唯一出来そうな、舌をかんで死ぬ、ということすら、する勇気がなかった。
「こんなのの面倒見なきゃいけないなんてツイてねえな。」
「ころ……せ。……ころして、くれ。」
「やだよ。あんたが生きてる限りは金が貰えるんだ。頑張って生きてくれよ?」
「た、の……む。」
その後フーゴは、数年間生きながらえたという。
フーゴの浮気相手だった子爵家のウーラは、醜聞が広がり嫁入り先も見つからないため修道院へ送られることとなった。
娘がかわいい子爵家当主は、たくさんの準備品を馬車に載せて送り出した。しかしそれが仇になったのか、盗賊に襲われ、金品は略奪されてしまった。そして数人の侍女と娘のウーラは連れ去られたのか、消息不明の状態である。
「ウーラ……どこかで生きていてくれ……っ!」
娘を愛していた父は、今も涙にくれる日々を送っているという。
バルシュミーデ家の次男マルクとフェーベ家の令嬢は結婚した。次期公爵の結婚とあって、国中に祝福された。令嬢の希望通り、絢爛豪華な式だった。
マルクは父について仕事を学び、あと数年したら爵位を継承する予定だ。妻とは上手くやっているらしい。
「あまり早く帰れなくてすまない。」
「別にいいんですのよ。お忙しいんでしょ。」
「王宮に、商会が持ち込んだ珍しいイヤリングがあるんだ。真珠というらしい。」
「ま、まあ! なんて美しい虹色なのでしょう! すてきですわぁ~……。ありがとうございます、マルク様っ」
三男オーラフも、婚約者のマリサちゃんとは仲良くやっていて、マルクが爵位を継いだら結婚する予定だ。
フェーベ家の当主はさらに丸々と太ってきたらしい。
「いい加減なんとかしたほうがいいのではないか?」
「そうか? では、久々に付き合ってくれ。」
「ああ。やるか。」
間もなく我が子に爵位を譲ろうかというこのとき、二人は昔を思い出しながら剣を振るうのだった。
そして、アイブリンガー家は――
「ままー」
「はいはい、どうしたのかしら? ルートヴィヒ。」
「ぼくね、大きくなったらままと結婚するんだ!」
「あら、そうなの?」
「いちばんすきな人と、結婚するんでしょ?」
「そうね。そうなれれば幸せね。」
「ままはしあわせ?」
「ローザにはどう見えるかしら?」
「ふふふ。とってもしあわせそうよ?」
「そうね、ふふっ。ままは幸せよ。」
「ローザはね、ザビと結婚するの!」
「なっ……!」
「あら、ルトガー様。いらしたのですね。」
「ローザ……パパは? パパのことは、好きじゃないのか?」
「すきだよーパパ。」
「そ、そうか。」
「でも結婚するならザビなの!」
「な、何でだ?」
「ザビはヒーローだから!」
「ふふっ。そうね。」
「なっ……! そ……、ヒーロー…………」
娘のヒーローの座も奪われたルトガーだった。
「シュテファニ、私は今以上に努力する。必ず、誰が見てもヒーローだという空気をまとってみせる。見ててくれ。」
「ルトガー様は、私の……私だけのヒーローではお嫌ですか?」
「そっ、シュテファニ……?」
「私のヒーローはルトガー様です。ローザには、あなた以外のヒーローを見つけてもらわないと困ります。」
「そう、か……。」
「ええ。」
「あなたのヒーローになれているのなら、それでいい。」
「ふふっ。ヒーローというより、ダークヒーローかしら?」
「ダークヒーロー……。」
「ええ。闇に紛れて活躍する……って、このような話、前もしたかしら。」
「そう、だな。」
いつの間にか、シュテファニのいちばん身近にいて、いちばん大事な人はルトガーになっていた。
~完~
おしあわせに。
127
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる