推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

文字の大きさ
47 / 101
2章

毒の血液

しおりを挟む


体が鉛のように重く、意識は起きたいと思っているが手も足もなにもかもが言うことを聞かない。心地いいわけでもないひたすら死に誘うような深いだけの眠気が目覚めを阻害する。
ただ冷たくて、痛くて、苦しい。
意識をどこか遥か奥底へと委ねると何もかもから解放されそうだった。
痛みや寒さから逃れるように深く深く泥沼に沈んでいく。
このまま起きることはないかもしれないとどこか冷静な第三者の自分がぼんやりと考えていた。
この深く、ただ逃れるためだけの眠りが死というものか。
死ぬというのはもしかしたら二回目かもしれないが、次はどこへ行くのだろうか。
思考というにはあまりにもお粗末な回路でいると不意に温かい光に包まれた。
光は体にふんわりと巻きついてきた。動く気のなかった手足に、動いているかもわからなかった心臓に、冷えきった頬に、光が肌に触れたところから人肌の温もりがじわじわと満ちていく。
よく見知った光と香りだ。
人のために輝く光と、消毒に混ざった柔らかで甘い香り。

「…るい…………?」

冷たく不快だった泥沼からルイに抱かれて眠るような心地良さに引っ張り上げられる。
少しずつ体や意識が言うことを聞いて浮上し、光に導かれてどこかを目指していく。
不必要にムーディな音楽がぼんやりと耳朶に触れた。

「……っ、は……?」

突然目が開いた。
今まで忘れていた呼吸が急に再開したような衝撃に片喰はむせて体を起こす。
真っ先に目に飛び込んできたのは派手すぎる天井と壁紙、次いで低すぎるテーブルと悪趣味な装飾のソファ。明らかに知らない場所だ。
最後の記憶を手繰るが、城を出た辺りから霞かかったように曖昧で痛みが和らいでからは完全に思い出せない。
吐き気を催す痛みだけが強烈に頭にこびりついて気分が悪いが、そういったものも今の体には感じられない。少しだけ眩む視界と鉛のように重たい頭以外に支障はない。
急いで自分の手足を見て、それが不思議な紫の揺らめく糸でくっついていることに驚愕した。

「ルイが治してくれたのか……?」

片喰が寝ていたとんでもない大きさのベッドのシーツは血に濡れてぐちゃぐちゃになっている。部分的に焦げた跡もあり、ルイの何かしらの毒が触れたのだろうと考えられた。
片喰は手足の使い心地をゆっくり確かめて痛みがないことと正常に動くことを把握すると周囲を見回した。
ルイの診察所ではない。窓もなく悪趣味なほど派手な部屋だ。部屋の奥には隠す気のない中身が透けた浴室がある。
以前ルイと誤って入ってしまったところにそっくりのいやらしい宿屋だ。
何故診療所ではなくこんなところにいるのかは不明だが、それ以上にルイの姿が見えないことに不安を感じて片喰はベッドから足を下ろす。

「ルイー……ん?」

部屋の奥に向かって声をかけていたが、足先に何か触れたことで片喰は視線を下に落とした。
蹴り飛ばしてしまった布団かクッションのようなものだろうというのんびりとした考えはその場で消え失せる。
片喰が足蹴にしたのは、血に塗れてベッドの下に力なく倒れているルイだった。

「ル……ルイ!?ルイ!」

瞬間的に血の気が引いた片喰は転がるようにベッドから降りてルイの体を持ち上げる。
軽く華奢な肢体はいつも以上に血の気がなく、美しい人形だと言われても信じてしまうほどルイの体はなんの抵抗もなく片喰に抱き上げられた。

「おい!ルイ!返事しろ、ルイ!」

前回の手術時も疲労で倒れて寝込んだと聞いていた片喰はただ眠っているだけかと一瞬楽観的な希望を抱くが、ルイは指先ひとつ動かず、もちろん返事もしない。
胸や口に耳を当てると、まだ微かに動きがあり辛うじて生きてはいることがわかった。
ただ、冷たい肌に無抵抗の体、微弱な呼吸はほぼ死体だった。
腹にあいていた腹の傷からはぐじゅぐじゅとした血が泡状に出てきている。手首にも何かが齧りとったような傷があり、血が溢れて出ていた。
全く医療の知識など持ち合わせていない片喰でもわかるほどルイは失血していた。

「ル……だ、誰か呼ばねえと…!フロントに電話…いや、ないのか…!救急車…!?救急車ってこの世界にあるのか!?そもそも、運ばれる先の医者はルイか…!?」

青ざめて混乱する片喰は咄嗟にスマートフォンを出して救急車を呼ぼうとし、そのようなものは持っていないことに絶望した。
ゲーム上のプレイヤー同士の連絡手段はチャットだ。ただ、NPCと連絡を取ることなど想定がないため実際のこの世界には連絡手段はない。手紙や掲示板などそういった原始的な手段だけが頼りだ。
そして、怪我をした場合は緊急転移の十字架でルイの診療所に飛ぶか、アイテムを持っていない場合はルイがカプセルで迎えに行くことになっている。
ゲームプログラムは街から出るはずのないNPCのルイが怪我や病気をした場合など考えられてはいないのだ。
片喰はルイを担ぎ上げると扉を開けるためのイムを払い、そのまま財布の中身を全て部屋に置いて外へと飛び出した。どこへ迎えばいいのか、何をすればいいのかはわからないがこのままでは死んでしまうことだけははっきりとわかる。
靴も履かずにもつれる足で外に出ると、一体何時間経っているのか何日経っているのかはわからないが夕暮れだった。
見たことはないが、そこそこ人通りのある町だ。足早に通り過ぎる人間を目で追いながらどっちへ行けば家に帰ることができるかさえわからない片喰は口から心臓を吐きそうなほど気が動転していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

処理中です...