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第六層 馬鹿っプル無双 編

怪物的パワーレベリング。

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 ──少し時を遡る。

 『さあ高位ゴブリン達と戦闘開始だ!』となったあの瞬間──俺の方が足が速いが、あえて大家さんに先行してもらった。

 予告もなしだったからな。動揺もあっただろうに、大家さんは俺を信じてそのまま先行。

 何故こんな事をしたかと言えば、キングを護衛するジェネラル達が…

「ぎゃが!」
「ぎいっっ!」

 と、このように。
 簡単に釣れるからだ。

 こうして簡単に釣れたのは、大家さんのレベルがまだ低かったから…っていうのもある。

 奴らにしたら俺より与し易いと思ったろうし、連携を取られる前に確実に弱い方を倒しておきたい、そう思っただろうからな。

 
 …でも。


「それ、悪手だからな」


 先ずはと、ゴブリンハードコアジェネラルが分厚く硬化した肉体を武器に大家さんへ突進、行く手を阻もうとした。

 そのすぐ後ろを走るゴブリンソードマスタージェネラルは突きを放つ構えでいる。

 その二体の後方にいるゴブリンソーサラージェネラルは足を止めて詠唱中。ゴブリンとは思えない速さで魔法を構築している。

 ゴブリンキングはそのさらに後ろに立ってジェネラルどもを見守っている。

 レベルが低い大家さんにとっては手に余る布陣だろう。どの攻撃が当たっても即死となる。…んだろうが、


「俺がやらせる訳ないだろっ!」


 大家さんにジェネラルどもの攻撃が届く寸前、一気に加速した俺は彼女を追い抜き、まずはとハードコアジェネラルの突進を受け止めた、瞬間っ!


 ──ブシュうぅッ!


 ハードコアジェネラルの脇から、ソードマスタージェネラルが剣を伸ばしてきた。それは俺の胸に刺さり背中へ抜け貫通。そうなれば当然、


「ごふぅっ!痛てぇなやっぱっ!」
「均次く──えええ?」

『【刺突耐性LV1】を取得しました。』


 こうなる。大家さんを見れば目が飛び出そうなほどビックリしていた。それでも俺は、

【精神超耐性】で気を確かに保ち、
【痛覚大耐性】で痛みをこらえ、
【負荷大耐性】で踏ん張り、
【疲労大耐性】を意識して、

 消耗を極力、防ぎつつっ!ハードコアジェネラルの顔面に肘鉄っ!食らわせたそれに込めたは【重撃魔攻】! だがしかし!


 ──ゾブぅっ!


「うぎ痛…ッてええええっ!」

『刺突耐性LV2に上昇しました。』

 まただ。ソードマスタージェネラルの剣にまた貫かれた。痛い!腹立つ!その鬱憤は肘に乗せる!振りっ、抜くッ!

 
 ──ドがぁッ!


 のけ反るハードコアジェネラル!密着していた俺との間に隙間が空く。それを即座に利用してっ、


「ぃってぇつってんだろこの野郎おおお!」


 ──ドコオォッ!


 【重撃魔攻】と【双滅魔攻】を重複させたケンカキックをお見舞いした!


「ぎっ!「ごがっ!」」


 
 直撃したのはハードコアジェネラルだが、背後にいたソードマスタージェネラルにも威力が通ったはずだ。その証拠に諸とも吹っ飛んだ。

 でも与えたダメージはそれ程でもなさそう。つまり割に合わない重傷を負ってしまった。

 …そう見えるだろう。でもな。大家さんの安全は確保──したと思ったところへっ!


 ──ゴオオオオッ!!


 ソーサラージェネラルの火魔ほ「って、ああっぢいいいいっ!」ヤバい直撃したアッつぅッ!

「つか流石に魔法はダメだろ俺!」
 
 それも上位魔法とかそりゃ熱いわっ!てな感じで全身焼かれた俺を見た大家さんは、

「きゃぁああああ!均次くんんんんっ!!?」

『【火炎耐性LV1】を取得しました。』

 遂に絶叫…いやその反応は当然だけど。


「いいから早くソーサラーを殺ってきて下さい大家さん!」

「え、ええぇ…っ、うっ、う、ん…はい!」


 俺の理不尽な剣幕で再起動、ソーサラージェネラルに向けて突進してゆく大家さん。

 彼女の【MPシールド】は魔法攻撃に滅法強い。レベル差のある相手だが、彼女ならこのまま任せて大丈夫だろう。
 

 そして俺はと言えばジェネラル共を無視!


 火だるまのまま突っ走る!向かう先はゴブリンキング!


 残されたジェネラル二体は、二手に別れた俺達を見てどちらに向かうか迷ったようだが……それは一瞬。ソードマスターは俺を優先した。

 大家さんを倒して戦局を有利に進めるよりも、キングを守る事を優先したのだ。ハードコアジェネラルもそれに追随して──


(よし…狙い通りだ)


 二度も胸を貫かれた上に魔法が直撃。全身を焼かれて重傷を負った訳だけど。これはあくまで織り込み済みの重傷なのであって。

 うん、狙い通りは狙い通りなんだからな?

 そんな無茶を想定してまで大家さんに先行させたのは、ジェネラル共に彼女を襲わせるためだ。

 というより、彼女が装備する『魔王装身』に『攻撃された』と判定させるためだった。

 つまりは、例のスキル【異風堂々】を発動させるためだったのである。

 そう、これでソードマスタージェネラルとハードコアジェネラルに『器礎魔力減衰5%』のデバフが掛かったはずだ。

 『え…たった5%のために?』そう思うかもしれない。というか実際にショボい効果……それでもだ。


 その副次効果が、侮れない。


 バフにしろデバフにしろ、動いてる最中…それも不意のタイミングでかけられてしまうと心身にどうしようもない齟齬が生じる。

 そうなると一瞬だけ、動きがぎこちなくなってしまうのだが…。

 これは前世で常識とされていて、バフをかけるなら戦闘の直前、戦闘中ならわざわざ戦線から離脱させてからかける者までいたくらいだ。

 まあ分からなくもない。誰だって良かれと思って掛けたバフで仲間を窮地に陥れたくないからな。

 この【異風堂々】というデバフスキルの凄いところは、その副次効果を最大限利用出来る所にある。

 攻撃されることを発動条件としていて、発動すれば

 攻撃している最中に必ずかかってしまうデバフ──こんなものを掛けられてしまえば、必ず不意を突かれる事になる。

 つまり発動すれば必ず、敵の動きをギクシャクさせる。

 しかも『速さ』や『技』が売りの連中…敵に回すと一番面倒臭い連中にこそ効果覿面な所など、特に素晴らしい。

 何故なら、緻密な身体操作を得意とする者ほど感じる違和感が酷くなり、よりギクシャクしてしまう事になるからだ。

 例えばこの、ゴブリンソードマスタージェネラル…


「お前なんかは、特になっ!」


 俺と大家さんの間に速度差があるように、ソードマスタージェネラルとハードコアジェネラルの間にも速度差がある。それも相当な差だ。

 実際、キングを護るために先行したソードマスタージェネラルに、ハードコアジェネラルは全く追い付けていない。

 奴なりに頑張って急行してるのだろうが、完全に取り残された状態だ。

 つまり、さっきのようにハードコアジェネラルの影に隠れる事が出来なくなったソードマスタージェネラルがしかも、【異風堂々】の副次効果で動きをぎこちなくされ、これ以上ない無防備状態をさらしてしまって──こんなの、


「見逃す訳っ、ないだろッ!」


 そう、キングに向かったのはフェイント。俺の狙いは最初からソードマスターにあったのだ。

 そんな俺の騙し討ちにソードマスターも慌てて迎撃しようとしたが、ギクシャクの延長で放たれた斬撃など躱して当然。

 だから紙一重、しかも余裕をもって躱す!と同時!

「おら!」


 ──ゾバンッ!


「ぎぃいぃ!?ぎゃぎゃあああッッ!!」

 切り落としてやった!
 ソードマスターの両手首を!
 これでもう剣を握れない。
 役立たずの一丁上がりだ。

 当然、それを見たハードコアジェネラルは激昂、俺に乗しかかろうとしてきた──のだが、それを阻む者がいた。


 それはまさかの──キング──いや、全然まさかじゃないな。だって、


「そうくると思ったぜ!」


 ここで急に話を変えてしまうが。

 最上位進化種の双璧とされる『キング』と『ネームド』を比較すると、個体としての強さならネームドの方が断然強い。

 それでも前世、人間側はネームドよりキングの方が厄介としていた。

 それは何故であったか。

 孤高であるネームドは群れず、キングは多くの配下を統べる上にその配下を強化してしまうから?

 確かにそれは脅威だが、それだけでネームドを凌ぐ事にはならない。

 何故なら異世界人から聞いた話では、ネームドにはさらなる進化先があるらしいからだ。

 まあ、それほどの上位種となればレベルが上がりにくくなる。だからその進化先は結局の幻であるらしいのだが…ともかく。

 それでも人間側がキングの方をより脅威としていたのは、キングは『統べる配下の数だけ自身を強化する』という、えげつないにも程がある特性を持っていたからだ。

 実際に、前世でキングが姿を表した際は必ず大軍勢を率いていた。

 このゴブリンエリートダンジョンが用意した大軍勢などは、進化種のみで構成されていたので数としては2000体とあまり振るわなかったが、それでもキングの能力は4倍にまて強化されていたからな。ホント理不尽なやつだった。
 
(あの軍勢にもし、通常種ゴブリンまで含まれていたら?どうなってた…?)

 その数は10000を余裕で越えていただろうし、そうなるとキングの能力は──

(ぇっと…20倍ぃい?んなアホな。それだと間違いなく人類側は負けて…つか、バランスが悪過ぎるわ)

 今の世界のシステムは何故か、ゲーム的バランスを下手に保とうとしているからな。通常種まで含むと調整が入っててもおかしくはない。

 まぁ、推測に過ぎないんだけどな。回帰者である俺でも知りようもない事だし、知る機会だって与えたくない。

(…あんな凶悪な軍勢を相手にすんのは、二度と御免だ)

 だから、大家さんの試練の場として、ここを選んだ。

 大家さんを強化すると同時にあの悪夢の軍団を作らせないために。

 ほら、弱い内に叩くのは戦争の基本だし、たまには回帰者の本領を、発揮しなきゃ。だろ?

 
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