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第六層 馬鹿っプル無双 編
重役就任。
しおりを挟む平均次が大家香澄に一生一度の…正確には三度目になってしまった告白をぶっ込んでいる最中。その告白総決算を応援している者がいた。
『ふぐ…っ、ふぐぅ…っ、均 次の、やつめ…ずずっ、』
いつの時代のものか侍風の着物を着たその姿は半分透けて向こう側が見えている。
つまりは幽霊なのだが、生前の面影を残すその顔は、着物の下もそうなのだろうと思わす程に傷だらけ。
しかしそうであってなお、愛嬌を感じさせる。
均次と戦った時に見た狂相が嘘のようだ。きっとこれが本来の彼なのだろう。逞しくも優しい顔立ちをして、枯れ枝のようだったあの不気味な体つきも今は壮健そのもの。
その姿に似合うか似合わないかは判断のつきにくい所だが。霊体のどこから溢れてくるのか分からないその涙を必死に堪えようとして、その悉くを失敗して…。
彼こそは均次の相棒、無垢朗太。
そして彼がいるのは、壁と床と天井以外幾つかの道具が転がるだけの部屋。
そう、初公開となるここは内界。
彼は邪魔してならぬと必死に涙と声を押し殺し、相棒とその想い人である大家香澄の大切な瞬間を見守っていた。実に感動的であると震えながら。特に、
『変な話、今じゃこいつを……大事だ…って、思ってるんですよ。…相棒だって。』
て部分などは大好物だった。胸中で何度反芻したか分からない。…が、しかし。
『…むぅ…我…どうしよう』
彼は感動しながら、悩んでもいた。
こうして均次にとって見られたくない現場の一部始終を観てしまっている事もそうなんだが、
『頼んだぞ相棒ッ!気合い入れていけえッ!!!』
『応ッ!任されたぁッッ!!』
…なんて。盛大な感じに送り出されたのに。と悩んでいた。
あの後は予想以上に壮絶な大苦悶に襲われた均次を見て、この内界に何が起ころうと我が相棒の魂は死守してみせる!と意気込んでいたのに。と悩んでいた。
もう結論から言ってしまうが無垢朗太には何っ………っの、出番もなかった。
均次が経験した苦悶はそれは凄まじいものだった。全身を白熱させ、肉体の苦痛と魂の苦痛にもがき苦しんでいた。手足を全力でばたつかせ、ひきつらせ、痙攣させて…それでも。
最後は打ち勝ってみせた。さすが我が相棒と頼もしく思ったものだ。
…でも。しかしである。
その彼の魂を門として繋がったこの異次元物置もとい、異次元世界はどうであったかといえば特段、『ゴゴゴ…』とかいう意味深な振動があった訳でなく。『ミシピシ』と亀裂が走った訳でもなく。
そう、『大拡張』どころかその兆しさえなかったのだ。
『この状況…一体どうしたものか…』
無垢朗太風に言わせればこんな感じだ。
『我の相棒すごい苦しんでたよ?なのに何も起こらないとか…我の面目的に色々と…気まずい事になるんだが?』
なので改めて見直した。何か変化はないかと。しかし間取りはそのまま。普段通りの居心地。元々『我が家が一番』とは言い難い環境だったけれど慣れた今は快適一歩手前かもしれない。とは思っていて…しかし。
その状態から全く変わり映えがないとなんというか、困る。
『これをどう伝えれば…』
あんな大苦悶の後の、あんな感動的告白の後の、あんな…初々しくも長い接吻の後で何と言えばいいばいいのか。
『あーこっちはなんも変わりなかったけど。そっちは?』
なんて平常運転は…なんか許されない気がする。かといって、
『おお均次!オヌシも無事であったか!こちらも大変であったが!なぁに相棒のためと思えば!無事やり遂げてやったわーっはっはっヨキカナヨキカナー!』
なんて嘘もどうせバレてしまう。
何せステータスを見れば自身の状態を簡単かつ簡潔なようで結構詳しく把握出来てしまう世界になっている。
しかもこの相棒は『え?そんな気になる?』と、こちらが引いてしまうぐらいそのステータスに神経を尖らせていて、見ては毎回、飽きもせず一喜一憂している。
そうなってしまったのは前世の経験が原因なのだろうが…回帰者とは実に厄介な生き物である。
『マジ、どうしたものかのぅ…』
そして言葉の乱れとキャラのブレが何だかひどい無垢朗太なのである。
…と、ふざけて見えるが割りと本気で悩んでいて。
『…ハァ』
とため息と共に精気まで抜けたかのようにヨロヨロと。壁に手をついてしまう無垢朗太なのであった。
その瞬間、
ゴゴゴ。『おおおお!?』
突然、手で触れた壁の一部がスライドした。扉大の長方形の穴が空く。まるでこの部屋の出入口として元々あったかのように。
『お、おおお…GJ我。この先が拡張されておったのか…っ』
と、喜んだのもつかの間。その穴の向こうは何も見えなかった。ただ長方形型に塗りつぶす黒があるだけ。くぐり抜ける事は出来ないようだった。
『なんとまぁ…思わせ振りな…っ』
と、ガックリきた無垢朗太がその黒にまた、寄りかかるように手をつこうとした。その瞬間、
ズブズブブ…
『お?お?なんと!』
肩から先がズブズブと埋まっていったではないか。慌てて腕を抜き取り見てみるが…
『うむ…異常はない…な』
なのでもう一度ズブブブブ…
『…む?何かある…これは…』
と、突っ込んだ手が早速何かに触れた。
どうやらこの奇怪な黒の空間の中には何かがあるらしい。
こうなったらと大胆に触ってみると『それ』には凹凸がある事が分かった。というか割りと複雑な形をしている。
感触の方は無機物のそれではなく、有機物のような…しかし体温のようなものは感じられない。
でも低体温生物に付き物なヌメッとした感触もないし、柔らかすぎもしない。むしろ所々ゴツゴツしている。
次にどれくらいの大きさかとまさぐってみれば、背伸びしたりかがみ込んだりする必要があって。つまり自分よりも大きいものだと分かった。
そんな感じで色々と探ってみたが結局、『それ』の正体は分からず仕舞い。
では取り出して見てみるかと思い立つ。
掴めそうな所を探してみる。何か先端のような箇所を発見した。それを離すまいとぎゅっと掴んだ。そして試しに、ぐいっと…引っ張ってみれば──グラと傾く気配が返ってきて…。
にほり。
ほほ笑む無垢朗太なのである。そして、
『なんの収穫もなしとは、いかんから…の!』
一気!引っ張り出したっ!ゾボボ…ッ!
遂に全貌を現した『それ』を見た無垢朗太はまずはと仰天。
「これは…あの、モノノフ、か?」
仰天したのは、取り出してみたそれがなんと、『阿修羅丸』の遺体だったからだ。
何故、拡張されたばかりのここに、こんなものが!?と大層困惑してしまったが、
『あー、うん、とりあえず、元に…』
と、気まずそうな顔をして阿修羅丸の遺体を黒の空間へと戻す無垢朗太なのである。
流石にあのロマンチックな場面の後、これを見せるのは忍びない、そう思っての行動だった。
戻した後にもう一度黒の長方形をしげしげ見つめると、その上部に表札のようなものがあると気付いた。読もうとした。その時だ。
「おい、無垢朗太、聞こえるか?」
『ぬっわぇっ!なんだ急に!びっくりするではないか!どうしたっ!』
「え?どこにそんなビックリする要素が…まぁいいや。どうだ?そっちの様子は?無事拡張されたか?」
聞かれても。結局大した成果を得られていないこの現状。一体どうしたものかと焦りつつ、
『ん…む…いや、どうやらオヌシの『内界』とやらは…普通でないの。』
と、何とか取り繕おうとする無垢朗太なのである。
『我が扱っていたダンジョンとはこう…勝手が違うと言うか…ゆえに、相当な神経を使う必要があったな!』
いや神経を使ったのは主に自分の面目についてだったが。まぁ嘘は言ってない。
『まあ、我の一押しが効いたのか、何とか拡張はされたようだぞ?』
いや一押しといっても『もたれかかっただけ』なのだが。まぁ、これもギリ、嘘ではない。
『その拡張なのだが…黒い部屋?のような、とにかく不思議な部屋が現れた。ただ、部屋と言っても中には入れんかったな。肩から先は入ったが、それ以上は入らん。ともかく不思議な部屋だ。』
その不思議な部屋から取り出したものが『阿修羅丸の遺体』だったのは言うタイミングではないと黙っておく。え?嘘?ついてない。黙ってるだけ。
「おーそっか。多分、それが【封物庫】ってやつだな」
という均次の声を聞ききつつ見上げつつ、
『おーそれよ。ご丁寧に名札があってな。確かに【封物庫】と記されておるわ』
均等次の話では新しく追加されたこの部屋は【封物庫】というらしい。これもスキルの一種らしく、その中は時間が止まっていて、容量に限界はあるらしいが命あるもの以外、何でも入れられる仕様との事。
そう聞けば便利そうだが。
「多分…俺の魂をダンジョンコアで補強したのがお前だった事と、そのコアのマスターがお前だった事がダブルで影響したんだろうが…『内界』ってのは俺の中にある世界ではあるけど、管理する役目自体はお前にあるらしい。つまり、俺は直接関与出来ない。…いや、ステータスで見た解説文を信じるなら影響だけはし合うんだろうけど…」
『…つまりは、こういうことか?』
物 件:内界
オーナー:平均次
管理人:無垢朗太
「ともかくそういう訳で『内界』の一部として生まれたその【封物庫】には、俺が直接出し入れ出来ないって仕様みたいだ。面倒だけどな」
『うーむ、まさかそんな弊害があろうとは…すまぬ。我の不手際だ。』
「いや、今生きられてるのはお前の介入あってこそ…だからな。確かに面倒な仕様だけど、文句があるかといえばそれはない」
『むぅ…そう言ってもらえると有難いが…とにかく、すまぬ』
「謝るなってば…とにかくそういう訳で今からナマもの放り込もうと思うんだけど。さっそく【封物庫】に保管してくれるか?」
『うむ…え?ナマ物?』
今後どんな危機的状況に晒されるか分からない。なのでいざという時のために緊急の強化素材として保管しておいて欲しい、均次がそう言いながらボス、ドス、ドスドス、と立て続けに放り込んできたのは、
ゴブリンソーサラージェネラル
ゴブリンソードマスタージェネラル
ゴブリンハードコアジェネラル
ゴブリンキング
以上4体の死骸。それらをズリ…、ズリ…、と【封物庫】へ運び入れる無垢朗太。
『ぬぅ、結 構、重…いぞ…』
「おおそうか、なんかすまん」
最後に一番重いゴブリンキングを【封物庫】送りにした頃には、
『ぜぇ、ぜ、ハァ…』
と息が上がってしまう無垢朗太なのであった。なまったか。霊体なのに。
「有難うな。こうやってこれからも面倒をかけると思う。ともかく俺の『内界』運営はお前に託すしかない状態だ。だからよろしく頼むぞ!内界マスター!」
言われて思った。いやこれマスターがする仕事?と。
かくして。
己が魂をもって均次の魂を修復し、ダンジョンコアを使ってその魂と現世との繋がりを補強するという、ダンジョン的見地から見てすらウルトラCな異業を成し遂げた無垢朗太だったが、
それからは何かするでなく。なんというか…御意見番?的な立場でしかなかった訳だがこの度、晴れてっ!
内界の正式なる管理者、『内界マスター』という重職を得たのである。
まさかこんな形で面目が立つとは。世の中分からないものである。
しかしその初仕事が『倉庫番』という、マスターと付く人がするにはなんというか、地味?過ぎる業務であった事は…。
いやっ、何にだって下積み時代というものはある。だから頑張れ無垢朗太!そして良かったね。
・
・
・
・
「あー、あと。」
『ん?なんだ。まだ何かあると言うか?』
「いや、大した用じゃないんだが。」
『なんださっさと言──』
「お前。見てないよな?」
『見たとは何を──』
「見たのか」
『だから何の事やら──』
「見てないなら、いい」
『(ふぅ…一部始終をガッツリ見たとはよう言えんな)』
「忘れろ。全部。」
『一度見てしまったものをそう簡単に──しまったぁああっ!』
「~~!やっぱ見てんじゃねぇかんの野郎!一体どこからどこまで見たんだつか何してんの!?『任されたぁっ!』とか言って覗きしてたの?」
『そん…違…っ!ぬぅぅう、もののふに向け『覗き』などと失敬なっ!ただ我は……ぬっ、……ええい!鎌をかけたな!この卑怯者めっ!返せ!我の涙をっ!』
「はぁ?涙?なんの話?つかうっせえ開き直んなちゃんと仕事しろこのっ出歯亀野郎っ!あーもうクビだっ!こんなやつに任せられるか俺の世界をっ!」
『何を恩着せがましく…っ、倉庫番の間違いであろ!?でもクビは嫌っ!』
無垢朗太の契約、無事継続なるかっ。ただ一つ言える事は。その交渉が大荒れとなるは確実、という事だ。
=========ステータス=========
名前 平均次
種族 界命体
界命力 1050/1000→1050
MP 11660/13660
《基礎魔力》
攻(M)530
防(F)109
知(S)232
精(G)33
速(神)622
技(神)514
運 -0.3
《スキル》
【MPシールドLV11】【MP変換LVー】【暗算LV9】【機械操作LV3】【語学力LV7→9】【大解析LV8】
【剛斬魔攻LV3】【貫通魔攻LV2】【重撃魔攻LV4】【双滅魔攻LV2】
【韋駄天LV8】【魔力分身LV4】
【螺旋LV4】【震脚LV4】【チャージLV3】【超剛筋LV4】
【痛覚大耐性LV9】【負荷大耐性LV5】【疲労大耐性LV4】【精神超耐性LV3】【雷耐性LV4】【毒耐性LV4】【麻痺耐性LV2】【刺突耐性LV1】new!【火炎耐性LV1】new!
【平行感覚LV8】【視野拡張LV9】
【虚無双LVー】【界体進初LVー】【吸収LVー】【界命体質LV1】【封物庫LVー】new!
《称号》
『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』
《装備》
『鬼怒守家の木刀・太刀型』
『鬼怒守家の木刀・脇差型』
《重要アイテム》
『ムカデの脚』
『阿修羅丸の魔骸』new!
=========================
名前 大家香澄
ジョブ 座敷女将LV30
MP 7777/7777
《基礎魔力》
攻(B)209
防(B)209
知(SS)311
精(M)350
速(A)243
技(A)243
運 99
《スキル》
【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV6】【機械操作LV6】【語学力LV6】【鑑定LV7】
【斬撃魔攻LV9】【刺突魔攻LV8】【打撃魔攻LV9】【衝撃魔攻LV9】
【加速LV9】【身大強化LV1】【クリティカルダメージ増加LV5】
【負荷耐性LV3】【疲労耐性LV3】【精神耐性LV1】
【魔力練生LV7】【運属性魔法LV6】
《称号》
『魔王の器』『運命の子』『武芸者』『神知者』『凶気の沙汰』『座敷御子の加護』『ジャイアントキリング』『進化種の敵』
《装備》
『今は無銘の小太刀』
=========================
※この小説と出会って下さり有り難うごさいます。
第六層はここまでとなります。
続きが気になる方いらっしゃいましたら、登録コンテンツ探してみて下さい。同名作品があり、飛べます。
こちらも随時更新していくので『お気に入り』登録すると便利ですし、作者としても読んでもらえる人も増えるので、とても嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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