童貞を捨てるまでは帰しません! 〜冷酷ドS悪役令嬢と引きこもりハイスペ王子のハロウィン仮面舞踏会〜

冬島六花

文字の大きさ
1 / 4

1 ハロウィン、それは○○パーティ

しおりを挟む

 ――ベス。ここから見える全てのものが、我が公爵家のものだよ。
 
 穏やかなブロンドの髪をなでつけながら、紳士は幼い娘を抱き上げ、くるりとその場で身を翻した。
 見渡す限りの緑の草原。地平線の少し手前に、針葉樹の林がある。そして反対側には、静かな湖面に青空を写す湖が見えた。爽やかな初夏の風が、エリザベスの頬を撫でていく。


 ――お父様、それは本当なの? あちらに見える林も、こちらに見える湖も、みんなわたくしたちのものなの?
 ――ああ、その通りだよ、ベス。だから君も、公爵家にふさわしいレディになりなさい。
 ――もちろんよ、まかせて、お父様!
 
 肩下まである栗色の長い髪を揺らして、エリザベスは笑った。
 勝ち気な黒い瞳が、細められる。
 
(見える全てが、わたくしたちのもの)
 
 エリザベスにとって、世界とは自分が思うままのものであった。
 そう、成長するまでは、ずっとそう思っていた――。


 * * *


 私室の大きな姿見の前で、公爵家令嬢エリザベスは悩んでいた。
 
「う~ん、どうしよう。ねぇマーガレット、私にはどちらが似合うかしら」
 
 エリザベスが手にしているのは、仮装用のドレスだ。一着はふわふわの妖精の衣装、もう一着は黒と紫を基調とした魔女の衣装だ。
 
「お姉様には、やはりこちらではなくて?」
 
 そういって妹のマーガレットが手をかけたのは、魔女の衣装である。
 
 にっこりとエリザベスに笑いかけるマーガレットは、今日も一段と愛らしい。ふわふわのブロンドヘアは編み込みにしてまとめ上げ、ピンク色のサテンのリボンを飾っている。ドレスはピンクから白へとグラデーションになったデザインで、こちらも可憐なマーガレットのために仕立てられたものだ。彼女は昨年社交界にデビューしたばかりだが、その愛くるしさは上流階級の殿方をあっという間に虜にして、今では〝国民の妹〟などという愛称がつくほどだ。
 
 対してエリザベスは、きつそうな顔立ちにすらりとした長身、髪の毛も栗色のストレートで、どことなくとっつきづらい。今日は深い藍色のタイトなドレスを着て、髪は結い上げることもせず下ろしている。こういったファッションセンスも、妹とは正反対なのだ。
 
「そうよね。決めた、私が魔女の衣装を着て、あなたが妖精の仮装をしなさい!」
 
 ピンク色の女性らしい衣装をマーガレットに手渡しながら、エリザベスは微笑んだ。
 
(比べるまでもなく分かっていたこと。私が魔女で、マーガレットが妖精だわ)
 
 エリザベスは、自分に与えられた役割を分かっている。あとは、それをきちんと演じるだけだ。


 二週間後に、王室主催のハロウィンパーティがある。ハロウィンというのはこの国に昔から住む人々の間で行われてきた伝統行事のことである。
 
 その人々は一年を暖季と寒季に分けており、一年の終わりを十月三十一日とする。この夜は秋の終わりを意味し、翌日からは冬の始まりとされる。


 古い伝承で死者と生者との境が弱くなるこの夜に、人々は死者の霊が家族を訪ねてくると信じられていた。だから死霊や魔女や精霊から身を守るために仮面を被り、魔除けの焚き火を焚き祈りを捧げたのだ。それが次第に発展して、今はむしろ人々が楽しむための行事になっている。


 ちなみにハロウィンと対になるものが四月三十日の〝ワルプルギスの夜〟であり、それを乗り越えた人々は、五月一日の春の到来〝メーデー〟を祝うのである。


王室主催のハロウィンパーティには、いくつか面白い特徴があった。


 ①会場は王室が所有する普段は無人の城(貴族の間では廃墟と呼ぶ人もいる)
 ②参加者は仮装と仮面をつけ、お菓子を持参して他の参加者に配ること
 ③仮面をつけた相手の正体が分かっていても、それを口外しないこと


 エリザベスもマーガレットも、このハロウィンパーティに参加するのは初めてだ。だからこうして、衣装選びも入念にしている。


(やらなくては――必ずマーカスをモノにしなくては)
 
 けれどもちろん分かっている。このパーティは大人向け。
 
 つまり――乱交が許され、それを目的にして既成事実を作ろうとする、若い王族貴族たちが集う場だということを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...