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再会編
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軟式野球部はリーグ戦の順位が三位だったため、上位ニチームが進める、選手権大会の地区代表決定戦出場を惜しくも逃した。大輔は一塁手として三試合でスタメンに選ばれたものの、打撃不振が響いて思うように活躍できず、悔しさを噛み締める結果となった。
「桂はやはり先約が済まないと、うちに入部はしないのか?」
五月半ばの心地よい風が吹く中、緑が濃くなった中庭で久しぶりに水野さんに会った。リーグ戦と女子部員の入部で相当多忙を極めていたらしい。ようやく昼寝の時間が取れたと、ベンチ一つを使って横になる。
「それもありますが、実はこれから女子軟式野球サークルを見学するんです」
私にサークルの情報をくれた女子部員さんによると、活動日は月に一回と謳っているが、その実態も人数もはっきりせず、ソフトボール部や以前は女子軟式野球部と同じ、第二グラウンドを使用していることから、練習日は両方が休みの日に限られていたのだそうだ。それがちょうど第三水曜日の今日。
「私は練習風景を見たことがないの」
最後に捕捉された台詞に、非常に嫌な予感を覚えたのは伏せておこう。
「そういえばそのサークルの存在は俺もよく知らんな」
むくっと起き上がった水野さんは、いきなり立ち上がって私の手を引いた。
「本当はキャッチボールにつきあってもらう予定だったが。よし、俺も行こう」
勝手に私の予定を組まないで下さい。と言ったところでどうせこの人は聞く耳など持たない。仕方なく私は第二グラウンドまで、寝ぼけ眼の水野さんと歩いて行った。
「女子部員の皆さんとは、もう馴染みましたか?」
最近私は軟式野球部には顔を出していない。例の一発事件のせいではなく、入部を決めかねている人間が、周囲をうろつくのは迷惑だと感じたからだ。
「俺は何てことないが、他の連中がな」
軟式野球部が使用している、第一グラウンドの反対側に向かいながら、水野さんがふんと鼻を鳴らした。
「トラブルでも?」
「いや、張り切りまくっている」
部員の中には彼女がいる人もいるが、練習優先の生活なので、つきあっても振られることの方が多いそうだ。水野さんも然り。
「いつも通りにしろと言っても、まあ無理だな。女子部員の方がよほど冷静だ」
「試合のないときは、そういうのもいいんじゃないですか」
何気なく答えると、水野さんはにやっと口の端を上げた。
「桂なら全く関知しないだろう? だからお前がいるとバランスが取れる。いざとなったらまた一発かまして、黙らせればいいからな」
「私は緩衝材ですか」
「誰にでもできる仕事ではないぞ? それに桂は自分の弱さを知っている。これは大きい。問題は板倉だが」
さらっと飛び出した昔馴染みの名前に、私は首を捻った。そんな私に水野さんは呆れてぼやく。
「桂は野球以外はボンクラだな。板倉も気の毒に」
「酷い言われよう。これじゃ振られますね」
むかついたので反撃したら、正直な奴だと水野さんは珍しく声を上げて笑った。
第二グラウンドには人が一人もいなかった。道具も準備されておらず、とてもこれから練習を始めるようには見えない。
「本当に今日が活動日なのか?」
怪訝な表情で水野さんが訊く。
「という話ですが。水野さんはサークルの練習は?」
「目撃したことはないな。ついでに起源もメンバーも謎だ」
起源ときましたか。つまりいつ発足したのか、そもそもまだ活動を続けているのかさえ、分からない状況だと。
「部室はあるんでしょうか?」
「公認なら」
うちの大学には公認と非公認のサークルがあり、公認の場合は届出をすれば各施設や教室が使用できるが、非公認の場合は一切許可が下りないのだそうだ。
「グラウンドを使用しているなら、公認を受けていると捉えるべきだが、この有様では情報自体信憑性に欠ける」
ぐるっと周囲に視線を這わせてから、水野さんは私の顔で固定する。
「無駄足となったようだ」
私は頷くしかなかった。期待していたわけではないが、もしかしたら真琴のような人物がいるかもしれないと、ほんの少しは思っていたのだ。
「戻るか」
さっさと踵を返した水野さんが、ふと足を止めた。私服姿の女の子が一人、ボールとグローブを持って現れたのだ。私達はスカートをはいた可愛らしい彼女に、ある意味釘付けになった。
「まさかあの格好で運動する気か」
隣からの呟きを掻き消すように、私はその女の子に声をかけた。
「女子軟式野球サークルの方ですか?」
「一応、そうですけど」
「見学希望の者ですが」
まじまじと私の顔を眺めていた女の子が、驚いたように目をまん丸くした。
「あなた、板倉くんの」
ろくでもない噂が広まっていると、否定する気満々だった私は、そこで女の子が学食で大輔が手を振っていた相手だと気づいた。
「そちらこそ大輔の」
言いかけて口を噤む。ところでこの人は大輔の彼女で合っているのだろうか。
「今日は活動はないのか?」
女二人が黙り込んでいるので、代わりに水野さんが質問した。彼は初対面の人にもこんな態度なのか。
「今日は会長の家でルールを勉強しています」
「ルール?」
「そう。野球ゲームで」
ふざけもせず真面目に説明する女の子に、さすがの水野さんも絶句するしかなかった。
「桂はやはり先約が済まないと、うちに入部はしないのか?」
五月半ばの心地よい風が吹く中、緑が濃くなった中庭で久しぶりに水野さんに会った。リーグ戦と女子部員の入部で相当多忙を極めていたらしい。ようやく昼寝の時間が取れたと、ベンチ一つを使って横になる。
「それもありますが、実はこれから女子軟式野球サークルを見学するんです」
私にサークルの情報をくれた女子部員さんによると、活動日は月に一回と謳っているが、その実態も人数もはっきりせず、ソフトボール部や以前は女子軟式野球部と同じ、第二グラウンドを使用していることから、練習日は両方が休みの日に限られていたのだそうだ。それがちょうど第三水曜日の今日。
「私は練習風景を見たことがないの」
最後に捕捉された台詞に、非常に嫌な予感を覚えたのは伏せておこう。
「そういえばそのサークルの存在は俺もよく知らんな」
むくっと起き上がった水野さんは、いきなり立ち上がって私の手を引いた。
「本当はキャッチボールにつきあってもらう予定だったが。よし、俺も行こう」
勝手に私の予定を組まないで下さい。と言ったところでどうせこの人は聞く耳など持たない。仕方なく私は第二グラウンドまで、寝ぼけ眼の水野さんと歩いて行った。
「女子部員の皆さんとは、もう馴染みましたか?」
最近私は軟式野球部には顔を出していない。例の一発事件のせいではなく、入部を決めかねている人間が、周囲をうろつくのは迷惑だと感じたからだ。
「俺は何てことないが、他の連中がな」
軟式野球部が使用している、第一グラウンドの反対側に向かいながら、水野さんがふんと鼻を鳴らした。
「トラブルでも?」
「いや、張り切りまくっている」
部員の中には彼女がいる人もいるが、練習優先の生活なので、つきあっても振られることの方が多いそうだ。水野さんも然り。
「いつも通りにしろと言っても、まあ無理だな。女子部員の方がよほど冷静だ」
「試合のないときは、そういうのもいいんじゃないですか」
何気なく答えると、水野さんはにやっと口の端を上げた。
「桂なら全く関知しないだろう? だからお前がいるとバランスが取れる。いざとなったらまた一発かまして、黙らせればいいからな」
「私は緩衝材ですか」
「誰にでもできる仕事ではないぞ? それに桂は自分の弱さを知っている。これは大きい。問題は板倉だが」
さらっと飛び出した昔馴染みの名前に、私は首を捻った。そんな私に水野さんは呆れてぼやく。
「桂は野球以外はボンクラだな。板倉も気の毒に」
「酷い言われよう。これじゃ振られますね」
むかついたので反撃したら、正直な奴だと水野さんは珍しく声を上げて笑った。
第二グラウンドには人が一人もいなかった。道具も準備されておらず、とてもこれから練習を始めるようには見えない。
「本当に今日が活動日なのか?」
怪訝な表情で水野さんが訊く。
「という話ですが。水野さんはサークルの練習は?」
「目撃したことはないな。ついでに起源もメンバーも謎だ」
起源ときましたか。つまりいつ発足したのか、そもそもまだ活動を続けているのかさえ、分からない状況だと。
「部室はあるんでしょうか?」
「公認なら」
うちの大学には公認と非公認のサークルがあり、公認の場合は届出をすれば各施設や教室が使用できるが、非公認の場合は一切許可が下りないのだそうだ。
「グラウンドを使用しているなら、公認を受けていると捉えるべきだが、この有様では情報自体信憑性に欠ける」
ぐるっと周囲に視線を這わせてから、水野さんは私の顔で固定する。
「無駄足となったようだ」
私は頷くしかなかった。期待していたわけではないが、もしかしたら真琴のような人物がいるかもしれないと、ほんの少しは思っていたのだ。
「戻るか」
さっさと踵を返した水野さんが、ふと足を止めた。私服姿の女の子が一人、ボールとグローブを持って現れたのだ。私達はスカートをはいた可愛らしい彼女に、ある意味釘付けになった。
「まさかあの格好で運動する気か」
隣からの呟きを掻き消すように、私はその女の子に声をかけた。
「女子軟式野球サークルの方ですか?」
「一応、そうですけど」
「見学希望の者ですが」
まじまじと私の顔を眺めていた女の子が、驚いたように目をまん丸くした。
「あなた、板倉くんの」
ろくでもない噂が広まっていると、否定する気満々だった私は、そこで女の子が学食で大輔が手を振っていた相手だと気づいた。
「そちらこそ大輔の」
言いかけて口を噤む。ところでこの人は大輔の彼女で合っているのだろうか。
「今日は活動はないのか?」
女二人が黙り込んでいるので、代わりに水野さんが質問した。彼は初対面の人にもこんな態度なのか。
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