とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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再会編

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親しくなった一年生の女子や、軟式野球部の部員達の好意のもと、新サークル発足のメンバーを募集したけれど、残念ながら七月に入っても希望者は一人も来なかった。当然練習する場も与えられていない私は、相変わらずアパートの周囲を走っている。

「野球部の練習がある日は、一緒に活動しても構わんぞ」

水野さんはそう提案してくれたけれど、私は気持ちだけ頂いておくことにした。野球部とて部員を募集しているのに、新サークル立ち上げの話を広めてくれているのだ。充分ありがたいと思っている。

「当てつけなの?」

一度学内ですれ違った紀藤さんに、苦痛に歪んだ表情で訊ねられた。

「そんなことのために時間は割けません。私は野球の楽しさを伝えたいだけなので」

「楽しさ?」

私はかつて自分が少年野球チームに在籍していたこと、続けたくても校区の中学にも地域にも、女子野球の環境がなかったこと、高校では自力で同好会を立ち上げ、そして今春廃会となったことを話した。

「私も大きな声で経験者とは言えません。でもどんな環境でも、自分達の野球を楽しんでいた先人達に感化されました」

「自分達の…」

「大事なのはどこで何をするかじゃない。誰と好きなことをするかだ。私の座右の銘です」

はっとしたように紀藤さんは私を見た。いつか一緒に、の言葉を呑み込んで、私はその場を後にした。

「ひとまず軟式野球部で幅広く部員を募る方がいいんじゃないのか?」

一度は認めたものの、成果が全く現れていない状況に、大輔も心配して口を挟んだ。

軟式野球部の部員は全員経験者だ。小学生の頃から続けている者、中学ないし高校から始めた者と、年数は様々だがそれなりに場数を踏んでいる。未経験者の入部も受け入れてはいるが、各種大会での上位入賞を目指して、定期的に練習に励んでいる部に、素人がすんなり足を向けるのは難しい。

「だから誰でも気軽に始められる場所を作りたいの。極めたくなったら野球部に移ってもいい。やってみて興味を持てなかったらやめてもいい。私はただ足がかりになりたいの」

「気持ちは分からないでもないが、指導者もいないのに、お前一人でまとめていけるのか? 逆に集まったメンバーを、落胆させる結果を招くかもしれないんだぞ」

「確かに大輔の言う通りで、私は無責任なのかもしれない。でも誰だって一番最初は素人だよ。私はお祖父ちゃんや岸監督に教わったことを、自分なりにやっていこうと思ってる」

「文緒…」

「お祖父ちゃんが言ってたの。私が根を下ろしたところが、とうもろこし畑になるって」

大輔が瞠目した。

「私はここで、自分のとうもろこし畑を作る」

分かったと呟いたきり、彼はもう言葉を発しなかった。




「桂はまた無謀なことを」

久しぶりに電話をかけてきた司が、私の近況を聞くなり呆れたようにぼやいた。

「分かってるわよ」

降ったりやんだりを繰り返す雨の合間を縫って、日課のランニングを終えた私は、汗を拭いつつ部屋の真ん中に座った。お祖父ちゃんの所に行く前に喧嘩してから、大輔とは夕方のキャッチボールをしなくなっていた。

夕食もこの間一緒に食べたけれど、あれ以来やはり大輔は訪ねてこない。大学で顔を合わせれば話はするが、わざわざ私を探すことはなくなった。

「文緒の彼氏、本当にあの二年生とつきあってるの?」

大輔と二階さんのことを面白おかしく話題にしていた女の子達も、二人がずっと連れ立っているものだから、半ば焦って確認にきていた。

「どうなんだろう。私は聞いていないけど」

一度は無関係だと断言されたが、その後気持ちが変わったのかもしれない。何にせよこれが大輔が出した答えなら、私がとやかく言う筋合いではないと思う。

「何もないところから手探りで始めるのは容易じゃないぞ。お前が型を残していっても、実際同好会は潰れてる」

父親の野球チームの練習に携わっている司は、年下とはいえ人も物もよく見ている。なので彼の指摘は正しい。実際梅雨明け宣言した現在も、一人も希望者は現れていない。

「立ち上げる前に卒業する可能性もあるね」

嫌味ではなく素直に返すと、司は深いため息をついた。

「それでもやめない桂の原動力は何なんだ」

「好きの二文字、かな」

「親父が聞いたら泣いて喜びそうだ」

司はくすっと小さな笑いを洩らした。

「ところで真琴は元気にしてる?」

「ああ。ご機嫌が直って、日曜日は一緒に練習してる。下手に変わりはないが、お前が基礎を仕込んでくれたおかげで教えやすい」

「私じゃなくて監督だよ。飛び入りで参加していた小学生の頃に」

自分の台詞にふと考えた。楽しむにしてもやはり基礎は必要になる。まして人に教える立場なら、ある程度技術が求められる。自分を見直すためにも、監督にアドバイスをしてほしい。

夏休みになったら岸監督に会いにいってみようか。

懐かしさなのか里心なのか、そんな思いに胸が浸されていた。



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