とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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番外編

大輔の夏休み 6  球場に…行ける日は来るのか?

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狭い部屋の中で十人の男女が、頭をぶつけながらスマホの画面を覗き込んでいる。小沢のじいさんの初デートぶち壊し作戦、もとい楽天球場お訪ね計画が持ち上がり、俺と文緒のスマホで情報を拾っているところなのである。しかし喧しいことこの上ない。

「日本ハム戦あたりが丁度いいんじゃねーか」

おまけに過去のばあさんとのラブラブ現場を再現された恨みで、小沢のじいさんはわざと俺の好きなロッテ戦を外そうとしてやがる。

「そんなことばっかしてると、ばあさんに捨てられるぞ」

「歯牙にもかけられてねー奴よりゃましだ」

バチバチと火花を散らす俺達を余所に、祖父ちゃん達は球場の施設で盛り上がり、祖母ちゃん達は電車の乗り継ぎや時間を確認している。

「この駅名、苦竹くちくと読むのかしらね?」

「お祖母ちゃん、それは苦竹にがたけというみたいよ」

荒木のばあさんの疑問に文緒が答えている。だが路線はあっているがそこは球場の最寄り駅ではない。何故通り越した先の駅名が気になるのだ。それに確か試合日は仙台駅から球場までシャトルバスが出ていた筈だ。もしや電車に乗りたいだけか?

「このゲートっていうのが入口なの? いっぱいあるけどどこから入ってもいいの?」

今度は上福元のばあさん。

「RだのLだの乾電池みたいなマークも付いてるね」

それはSM…じゃないSとNだろう。いやボタン電池にLRがあったか。なかなか目敏い。

「うーんとね、座席によって使うゲートが違うの。あとライト側とレフト側に別れてるから、そのマークで分けられてるんだよ」

再び文緒が教えている。どこからでも入っていいなら、もはやチケットを買う意味がない。この分だと座席毎に価格が違うことも知らないだろう。というか対戦チームの応援団に混じって、堂々と楽天を応援しそうで怖い。歌付きで。

「ちょっと観覧車なんてあるわよ」

「あら、ほんと。メリーゴーランドまで」

うちの祖母ちゃんと小沢のばあさんは、スマイルグリコパークとやらに心を奪われている。はしゃぐのは構わないが、頼むからいい年して馬になんて乗るなよ。

「おい、このボールパークツアーって面白そうだぞ」

荒木のじいさんがうちの祖父ちゃんを肘で突く。球場の施設を見学しながら、担当者が普段知ることができない情報等を話してくれるらしい。記念品や記念撮影のサービスもあるとか。 

「ほお、ビジターブルペンやホームベンチを見学できるのか?」

「当日の状況とコースによるみたいだね。料金も違うし」

ちゃんと説明を読んで上福元のじいさんが伝えている。他のじいさん達が全く聞く耳を持っていない中あんたは偉い。

「なあなあ、この球場の前にある仙台育英って、あの仙台育英か?」

我慢できなくなったのか、とうとう小沢のじいさんも首を突っ込み出した。

「甲子園の常連だったあそこか?」

「準優勝したときのピッチャー、何て名前だったっけ? ダイエーに入ったんだよね」

「ダルビッシュは違ったよな」

一体いつの話だ。せめてロッテの平沢くらいで留めておいてくれ。ちなみにダルビッシュは東北高校ではなかったか。田舎に住んでいても何気に野球には詳しいな。

だがそれからはもはや不毛地帯と化した。佐藤投手コーチは阪急出身だとか、立石育成コーチは南海だとか、馴染みのない球団名が飛び出すわ、野球雑誌の読者欄の常連に、巨人の原の名前をもじったペンネームを使っていた人がいたとか、要らんネタが蔓延るわで正直手がつけられない。

「麦茶飲む?」

こっそりキッチンに立った俺に気づいたのか、文緒が間もなく後を追ってきた。冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注いで渡してくれる。

「みんな楽しそうだね」

じいさんとばあさんが和気あいあいとする姿を、文緒も麦茶を飲みながら眺める。こいつは俺には冷たいくせに、年寄りチームには相変わらず甘い。
 
「俺はこの連中を引率しなければならないのかと思うと、せっかくの野球観戦なのに泣きたくなってくるよ」

「でもきっとみんな大輔に感謝してるんじゃないかな。お祖父ちゃん達は好きでも簡単に村を空けられなかっただろうし、お祖母ちゃん達なんて生のプロ野球観戦自体初めてでしょ? 嬉しくて仕方がない筈だよ」

ね? と笑いかけられた日には、はいそうですと即答するしかないだろう。

「文緒はずるい」

「また次の機会に二人で行けばいいじゃん。今度はZOZOマリン」

「次が本当にあるんだか」

俺は諦め気分でため息をついた。ついでのように続ける。

「一応、二階とはけりがついた」

「知ってる」

あっさり頷いた文緒を見下ろすと、彼女は石井さんに聞いたと舌を出した。どうも態度が軟化したのはそのせいらしい。二階の俺への気持ちを知った上で、マネージャーとしての野球部入部を進めたことに、想像以上に責任を感じていたのだろう。つくづく俺以外の人間にはお優しい。

「で? 俺に言うことはないのかよ」

半ば不貞腐れる俺に文緒がおいでおいでをする。腰を屈めてやると内緒話のように耳元に小声で囁いた。すぐに小沢のじいさんの怒声が飛ぶ。

「こらヘタレ。いちゃついてねーで、行程を纏めやがれ!」

けれど俺はとてもそこから動ける状態じゃなく、赤い顔で文緒とみつめあったまま、しばらく怒鳴り散らされていた。

ーー私の中では大輔は不動の一番だよ。

これ以上の殺し文句があるだろうか。ああ、やっぱり俺は文緒には一生敵わない。




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