とらぶるチョコレート

文月 青

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茂木編 カタツムリの恋

10 ★

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「奈央さん、気持ちよくないですか?」

本当は違うと充分知っていながら、俺は奈央さんが困るであろう質問をした。

「ど…して」

息も絶え絶えに訊き返してくる奈央さん。さっきから俺の指に反応している体と、比例するように湧いてくる泉に、見えなくても彼女がどんな状況に陥っているかは分かっている。

「声、出してくれない」

でも奈央さんの体をこんなふうにしたのが、あの男だと思うとどうしても嫉妬が止まらない。片岡がただ乱暴に彼女を抱こうとしたんじゃない事実が、嬉しいのに悔しくてどうにもやり切れない。あー、俺ってほんと小さい男。

「だ…って」

恥ずかしい。それだけをやっと囁く。うん。そうだよね。奈央さんの性格を考えたら。

「無理言ってごめん。でも奈央さんの声で俺が喜ぶことだけ覚えてて?」

ここに片岡の名前は登場させたくないので、俺は仕切り直しとばかりに奈央さんにキスをする。既に立っていられなくなった裸身を支えながら、俺の指は彼女の足の間を自在に闊歩する。一際大きく体が跳ねたとき、唇から漏れた微かな甘い声を聴いて、これ以上にないくらい俺の心は満たされたのだった。




「一つになるって、ずっと比喩だと思ってました」

俺の腕枕で微睡みながら、幸せの余韻に浸るように奈央さんが呟いた。

「体だけじゃなく、こんなに気持ちが重なるものだったんですね」

既に日付は変わっていた。薄暗い部屋のベッドに沈む俺と奈央さんも、ようやく潮が引いたように落ち着いている。浴室からくったりした奈央さんをベッドに運んだ後、俺はこのまま最後まで、いつぞやの奈央さんの台詞だと合体していいのか迷った。

以前の奈央さんの話だとここまでは問題ない。むしろいざというときになると、心も体も凍えてしまうのだと言っていた。ならば同じ形で進めば逆に過去の記憶が蘇って、無意識のうちに体が俺を拒否するかもしれない。そんな結果になったら今度こそ奈央さんは決定的な傷を負う。

奈央さんの頭を何度か真っ白にして、できるだけ恐怖を遠ざけたところで、俺はやはり止めようと思った。こうやって繰り返しているうちに、彼女の方から俺を求めてくるのを待とうと。でもそれに首を振ったのは他でもない奈央さん自身だった。

「えりかさんに、嫉妬してました」

熱くなった体に翻弄されつつも、しっかりと訴えてきたのは奈央さんの隠していた本音。過去のこととして話題に上るのは構わなかったが、本人が現れたことで怖くなってしまったのだという。

「年上だし、枯れてるし、できないし」

会わずにいた間そんなネガティブな思考に蝕まれ、可愛い女の子女の子したえりかと現在の自分を比較して、俺がどちらを選ぶか一目瞭然だと落ち込んでいたというから驚きだ。そんな素振り全く見せなかったのに。彼氏じゃなかったのかとしょげていた俺は一体何だったんだ。

「それなのに茂木さんは鬼畜がどうとか見当違いな台詞を吐くし」

「あの、妬いてるんですけど、俺も」

「鬼畜のことなんて何とも思ってません。むしろ嫌われても屁でもありません。だから言いたい放題言えるんです。茂木さんにだけは嫌われたくないって、ちゃんと伝えたじゃないですか」

「でも好きだとは…」

そこで一旦会話は途切れた。この先どうしよう。そもそもベッドの中で今頃する話ではないし、この先続けて良いやら悪いやら。ますます悩む俺に奈央さんが沈黙を破った。

「お願いです。私に茂木さんを下さい」

言葉が出なかった。堪らなくなって奈央さんを抱き締めた。彼女の精一杯の願いが胸に突き刺さる。トラウマに苦しんできた初心者の奈央さんに、俺は一体何を言わせているのか。

「辛くなったら我慢しないこと。俺に気を使わないこと。必ず約束して下さい」

フラッシュバックが起こらぬよう配慮に努めながら、頷く奈央さんに俺は彼女への想いを遂げた。やはり多少の痛みは避けられなかったものの、二人が繋がった瞬間の、涙混じりで綻ばせた奈央さんの顔をきっと一生忘れることはできないだろう。

ふと気づけば愛しい人は寝息を立て始めている。ありがとうと言葉を紡ごうとした矢先、聞き逃しそうなほど小さな告白が耳に届いた。

「茂木さん…好きです」





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