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君のために

小説家の

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 「てん彼を知っているの?」
 はつは槇を見て聞く。
 「知ってるもなにも、有名な人だ。」
 「私は知らない。誰なの?」
 「小説家。」
 槇の言っている意味が葉には理解できていない。
 「意味がわからない。」
 「スマホで鵺瀬やせ 夜丘やおかと調べてみろ。」
 「分かった」といい警戒を解かずにチラチラと鵺瀬を見ながらスマホで検索をかけた。
 「鵺瀬夜丘。・・・・小説家なのは信じるけど。本当に白斗君?」 
 「・・・僕が産まれたきっかけは直也が白斗の前からいなくなったこと。1人では父親の暴力に耐え切ることができなかった。父親と母親が離婚するまでの間だと勝手に思っていだが、母親も育児放棄を始めた。母方の祖父母は白斗に興味がない。何もしないで、何も知らないでの状況だった。中学は通わせてもらっていたが、白斗自身行っていなかった。祖父母はそのことに特に何も言わないから白斗は父親の暴力から逃げる時と同じように部屋に閉じこもっていた。離婚する前に書き上げたのが『月を見る君』。祖父母の家で書き上げたのが『雫が落ちたあと』。」
 鵺瀬はため息をついて2人を見る。
 「・・・確かに君の言うことには信憑性がある。真斗まさとの暴力は酷いものだった。1人の小学生、中学生が味わって良いものじゃない。」
 2人を見ていた鵺瀬の視線が外れた。
 「暴力、暴力・・・暴力・・・」
 鵺瀬はぶつぶつ呟く。「白斗君?」と葉が心配そうに声をかけるが「暴力」と何度もつぶやく。
 「夜丘。大丈夫?」
 そう鵺瀬の口から発した。
 「寝ていなかったの?夜丘は僕のことになると、自我を失うでしょう?心配だったの。・・大丈夫だよ白斗。あとは僕に任せてくれれば。夜丘はいつも僕の後始末をしてくれるよね。白斗のことは分かってるから。何をしたいのかとか。何をしたくないのとかね。全部分かってるつもり。夜丘は無理してない?白斗のためなら無理したって大丈夫だよ。」
 1人で会話をする鵺瀬を2人は決して嫌な目で見ていなかった。
 「頭もお腹ももう痛くないからさ。次は夜丘が休みなよ。・・・白斗。僕は大丈夫だからさ。夜丘。無理はしないで。分かってるよ。僕が無理をすれば反動で白斗まで疲れさせちゃうもんね。でも、今はまだ白斗には変われない。や、やお・・・
 言いかけた白斗の口を塞いだ。自分の口を塞ぐように。
 「・・・暴力は父親からもらえる唯一の愛情。白斗はそう思っていなくても僕はそう思っていた。育児放棄、放任主義。時々もらえる、お金。お金はいらないぐらいあるのに、母親にもらったたったの1000円札がとても嬉しかった。『風邪をひくな』『迷惑かけるな』『話しかけるな』『触るな』『何もするな』言葉は冷たいけど祖父母はよく喋りかけてくれた。それが僕にとって特別なプレゼントだった。僕は白斗と違って苦しい、辛いとは思っていなかった。いつ、父親は僕を見てくれるのか、母親はいつお金をくれるのか、祖父母はいつ話しかけてくれるのか。毎日、白斗と入れ替わるのが楽しかった。。」
 吐き出した鵺瀬は下を向いた。
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