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4話 才能の片鱗
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異世界での生活というのは平穏そのものだ。
僕、タイガ・プラネテスは今年で10歳を迎えた。
自分で言うのもなんだけど、スクスクと成長して体格も逞しくなったと思う。
ここら辺は父さんに似たのだと思う。
腹筋だって6つに割れてるし、上腕二頭筋だって力を入れればしっかりと力こぶができる。
それから、年を重ねるごとに前世の記憶ははっきりとしてきている。
前世と言っていいのかは分からないけど。
死んだわけではないはずだから。
ただ、記憶がはっきりとはしてきているけど、やっぱり他人事みたいに思えるというか、あんまり懐かしんだりということはない。
それがけこちらの世界が心地良いのか、それとも前世の世界がつまらなかったのかは分からないんだけど。
僕は少し前から体を鍛えることを日課にした。
理由は単純で、僕も男の子だし好きな子には良い恰好がしたいから。
好きな子って言うのは、まあ、ティアのことなんだけど。
正直ティアは年を重ねるごとに可愛くなってる。
それだけに、ライバルが現れないかと日々戦々恐々としているのだ。
ティアの瞳に僕のことが映っているかは分からないけど、好きな子のために努力できることはしようと思ったんだ。
ちゃんと守ってあげられるような男になりたいと本気で思うようになった。
こんなこと前世では思わなかったなと思い出に浸る。
正直こちらの世界は安全とは言い難い。
僕たちが住んでいるアンファング村という範囲で考えれば、村人全員仲良しだし、危険なことなんかない。
だけど、視野を少し広げてみると世界は危険で溢れている。
今、世界では戦争が行われている。
人間同士の。
争う理由は至極簡単で、領地や資源などを巡って争っているのだ。
前世のころを含めて、戦争なんて自分には関係の無いものだと今までは思っていた。
でも、最近では徴兵なんて物騒な単語がアンファング村にも届くようになった。
アンファング村はアヴァロン王国という王国の領地にある。
村が位置しているところが他国から離れているため、今までは平和に暮らして来れただけであり、仮初の平和というやつだった。
明日は我が身とはよく言ったものだ。
戦争という恐怖はすぐ目の前に迫っている。
だからこそ僕は、日々体を鍛えてティアを戦禍から守ると決めたんだ。
たとえティアが振り向いてくれなかったとしても。
日課の鍛錬を行いながら、そのようなことを考える。
10歳という若さでありながら、僕の体はかなり逞しい部類だと思う。
もしかすると世界の管理者が言っていた“おまけ”の効果なのかもしれない。
もしそうだとしたら感謝しないといけないな。
家の庭で鍛錬を行っていた僕は、少し休憩しようとゴロンと芝の上に寝転ぶ。
今日も良い汗をかいたなと思うし、適度な疲労感が体を襲う。
スポーツ選手の気持ちが少し分かった気がする。
体を動かして鍛えるのは気持ちが良いものだなと実感することができた。
まあ、こちらの世界にスポーツ選手なんて職業はないんだけど。
「今日もトレーニングしてるの?」
「わあ!?」
ティアが寝転ぶ僕の顔を覗き込むようにしてきた。
ティアが近づいてくることに全く気付かなかったし、突然のことで情けない悲鳴を上げてしまった。
これは我ながらダサいな。
ティアも驚いた僕を見てクスクス笑っている。
その笑った顔はとっても可愛いんだけど、今は恥ずかしさの方が優ってしまいティアの顔から目を逸らしてしまう。
「笑うなよ~」
「だって、すっごく驚いてたから。驚いた顔が面白かったんだもん!」
「むうう」
僕は唸ることしかできなかった。
こんなんで本当にティアを守ることなんてできるんだろうか。
自身が無くなってきたな……。
「毎日トレーニングしてスゴイね! なんでそんなに体を鍛えるの?」
「まあ、その、暇だからさ、やることないし」
メチャクチャきょどってしまった。
さっきからダサいところばっかりだ。
どうせなら、ティアを守るためさ、とか言えば良かったかな。
「じゃあ今も暇なのね!」
ティアがパアッと表情を綻ばせる。
「着いてきて欲しいところがあるの!」
「まあ、暇だからいいけど。どこ行くの?」
「近くの森!」
「ええ!? 僕たちだけじゃ危ないんじゃないの?」
「危なかったらタイガが守ってくれるんでしょ?」
「……任せとけ!」
つい安請け合いしてしまった。
ティアと出かけるのは嬉しいんだけど、森は子供だけで行くところじゃない。
獰猛な動物が出ることもあるからだ。
でも一度引き受けちゃったからにはやり遂げよう。
僕はそう心に誓った。
僕とティアは村から歩いて1時間くらいの森にやってきた。
ティアは道中ルンルンと楽しそうにしていた。
「なあ、ティア」
「なあに?」
「聞いてなかったんだけどさ、森に何の用があるんだ?」
「果実を取りに来たの!」
「果実? なんで?」
「お母さんの誕生日が近いんだ! だから果実を使ったお菓子を作ってあげるの!」
ティアはお母さんには内緒だよと微笑む。
ティア、なんて良い子なんだ。
絶対ティアの願いを叶えてあげよう。
僕は全力でティアをサポートすることを決意した。
森の中に入ると、少し不気味な雰囲気が漂っている。
薄暗く、カサカサ、ガサガサ、と草木のざわめく音が響いているのだ。
そんなことは森なのだから当たり前なんだけど、こっちの世界の森には来たことがないしちょっと怖い。
それはティアも同じようで、
「怖いね。離れちゃいやだよ」
と僕の服の裾をキュッとつまむ。
そのティアの仕草を受けて、今この場所でティアを守れるのは僕しかいないんだと、やる気が湧いてくる。
我ながら単純だなと思うけど、それでも良いんだ。
近くに落ちていた棒切れを手に持って森の奥に進むことにした。
ティアのお目当ての果実は割と森の浅いところになっていた。
これなら迷ったりすることもなさそうだ。
良かった良かったと胸をなでおろす。
「いっぱい採れた!」
しばらくした後、腕いっぱいに果実を抱えたティアが僕のところに戻ってきた。
先ほどまで怖がっていたのに果実が採れたことですっかり笑顔になっている。
「ありがとね、タイガ!」
「どういたしまして! じゃあ帰ろ!」
二人で横に並びながら森の出口を目指す。
僕の隣には、お母さん喜ぶかなぁ、と笑顔を浮かべているティアがいる。
感情豊かな子だなあとこちらまで笑顔になってしまう。
二人で笑いながら歩いていると、僕たちの背後から、
『グルゥゥ』
という唸り声が聞こえる。
僕の心臓がドクンと跳ね、鼓動が早くなる。
ティアも表情が強張って今にも泣きそうになっている。
おそるおそる後ろを振り返ると、そこには一匹の狼がいた。
この狼はスウィートトゥースと呼ばれる種類のものだろう。
家で呼んだ図鑑に載っていた。
確か、主食として果実を食べる狼だ。
しかし、果実以外も食べるのだ。
果実がなかったり、機嫌が悪いと生物を食べることもある。
ティアが採った果実はこの狼が目を付けていたものなのだろう。
「ティア。果実を捨てて逃げよう」
「でも、お母さんの誕生日……」
「命の方が大事だろ!」
僕はティアの腕を強引に掴んで走り出した。
僕に手を引かれたティアは果実を手放し、ボトボトと地面に果実が落ちる。
それと同時に狼も走り出した。
最悪なことにターゲットは僕たちの様だ。
地面に落ちた果実には目もくれない。
よほどご立腹なのだろう。
「くそ!!」
僕は手に持っていた棒切れを狼に突き付けてティアと狼の間に立ちはだかる。
一瞬狼が怯んだ気がしたが、狼は僕に向かって飛び掛かってきた。
「うわぁぁぁ!」
僕は絶叫しながら狼に棒切れを突き出す。
『ギャン』
どうやら棒切れが狼に命中したようだ。
狼は森の奥へと逃げて行った。
良かった、ティアを守れたぞ。
危機を脱した僕は心の中でガッツポーズをする。
そのとき体に違和感があった。
左腕が燃えるように熱いのだ。
おそるおそる左腕に視線を落とすと、ザックリと切れている。
どうやら狼の爪が食い込んだようだ。
ダラダラと血が流れる。
こんなに血が流れるのは初めての経験だな。
それよりも、あまり痛くない。
人間は痛覚をシャットダウンすることがあるというが、今がその状況なのかもしれない。
体に力が入らなくなり、フッと目の前が暗くなった。
僕、タイガ・プラネテスは今年で10歳を迎えた。
自分で言うのもなんだけど、スクスクと成長して体格も逞しくなったと思う。
ここら辺は父さんに似たのだと思う。
腹筋だって6つに割れてるし、上腕二頭筋だって力を入れればしっかりと力こぶができる。
それから、年を重ねるごとに前世の記憶ははっきりとしてきている。
前世と言っていいのかは分からないけど。
死んだわけではないはずだから。
ただ、記憶がはっきりとはしてきているけど、やっぱり他人事みたいに思えるというか、あんまり懐かしんだりということはない。
それがけこちらの世界が心地良いのか、それとも前世の世界がつまらなかったのかは分からないんだけど。
僕は少し前から体を鍛えることを日課にした。
理由は単純で、僕も男の子だし好きな子には良い恰好がしたいから。
好きな子って言うのは、まあ、ティアのことなんだけど。
正直ティアは年を重ねるごとに可愛くなってる。
それだけに、ライバルが現れないかと日々戦々恐々としているのだ。
ティアの瞳に僕のことが映っているかは分からないけど、好きな子のために努力できることはしようと思ったんだ。
ちゃんと守ってあげられるような男になりたいと本気で思うようになった。
こんなこと前世では思わなかったなと思い出に浸る。
正直こちらの世界は安全とは言い難い。
僕たちが住んでいるアンファング村という範囲で考えれば、村人全員仲良しだし、危険なことなんかない。
だけど、視野を少し広げてみると世界は危険で溢れている。
今、世界では戦争が行われている。
人間同士の。
争う理由は至極簡単で、領地や資源などを巡って争っているのだ。
前世のころを含めて、戦争なんて自分には関係の無いものだと今までは思っていた。
でも、最近では徴兵なんて物騒な単語がアンファング村にも届くようになった。
アンファング村はアヴァロン王国という王国の領地にある。
村が位置しているところが他国から離れているため、今までは平和に暮らして来れただけであり、仮初の平和というやつだった。
明日は我が身とはよく言ったものだ。
戦争という恐怖はすぐ目の前に迫っている。
だからこそ僕は、日々体を鍛えてティアを戦禍から守ると決めたんだ。
たとえティアが振り向いてくれなかったとしても。
日課の鍛錬を行いながら、そのようなことを考える。
10歳という若さでありながら、僕の体はかなり逞しい部類だと思う。
もしかすると世界の管理者が言っていた“おまけ”の効果なのかもしれない。
もしそうだとしたら感謝しないといけないな。
家の庭で鍛錬を行っていた僕は、少し休憩しようとゴロンと芝の上に寝転ぶ。
今日も良い汗をかいたなと思うし、適度な疲労感が体を襲う。
スポーツ選手の気持ちが少し分かった気がする。
体を動かして鍛えるのは気持ちが良いものだなと実感することができた。
まあ、こちらの世界にスポーツ選手なんて職業はないんだけど。
「今日もトレーニングしてるの?」
「わあ!?」
ティアが寝転ぶ僕の顔を覗き込むようにしてきた。
ティアが近づいてくることに全く気付かなかったし、突然のことで情けない悲鳴を上げてしまった。
これは我ながらダサいな。
ティアも驚いた僕を見てクスクス笑っている。
その笑った顔はとっても可愛いんだけど、今は恥ずかしさの方が優ってしまいティアの顔から目を逸らしてしまう。
「笑うなよ~」
「だって、すっごく驚いてたから。驚いた顔が面白かったんだもん!」
「むうう」
僕は唸ることしかできなかった。
こんなんで本当にティアを守ることなんてできるんだろうか。
自身が無くなってきたな……。
「毎日トレーニングしてスゴイね! なんでそんなに体を鍛えるの?」
「まあ、その、暇だからさ、やることないし」
メチャクチャきょどってしまった。
さっきからダサいところばっかりだ。
どうせなら、ティアを守るためさ、とか言えば良かったかな。
「じゃあ今も暇なのね!」
ティアがパアッと表情を綻ばせる。
「着いてきて欲しいところがあるの!」
「まあ、暇だからいいけど。どこ行くの?」
「近くの森!」
「ええ!? 僕たちだけじゃ危ないんじゃないの?」
「危なかったらタイガが守ってくれるんでしょ?」
「……任せとけ!」
つい安請け合いしてしまった。
ティアと出かけるのは嬉しいんだけど、森は子供だけで行くところじゃない。
獰猛な動物が出ることもあるからだ。
でも一度引き受けちゃったからにはやり遂げよう。
僕はそう心に誓った。
僕とティアは村から歩いて1時間くらいの森にやってきた。
ティアは道中ルンルンと楽しそうにしていた。
「なあ、ティア」
「なあに?」
「聞いてなかったんだけどさ、森に何の用があるんだ?」
「果実を取りに来たの!」
「果実? なんで?」
「お母さんの誕生日が近いんだ! だから果実を使ったお菓子を作ってあげるの!」
ティアはお母さんには内緒だよと微笑む。
ティア、なんて良い子なんだ。
絶対ティアの願いを叶えてあげよう。
僕は全力でティアをサポートすることを決意した。
森の中に入ると、少し不気味な雰囲気が漂っている。
薄暗く、カサカサ、ガサガサ、と草木のざわめく音が響いているのだ。
そんなことは森なのだから当たり前なんだけど、こっちの世界の森には来たことがないしちょっと怖い。
それはティアも同じようで、
「怖いね。離れちゃいやだよ」
と僕の服の裾をキュッとつまむ。
そのティアの仕草を受けて、今この場所でティアを守れるのは僕しかいないんだと、やる気が湧いてくる。
我ながら単純だなと思うけど、それでも良いんだ。
近くに落ちていた棒切れを手に持って森の奥に進むことにした。
ティアのお目当ての果実は割と森の浅いところになっていた。
これなら迷ったりすることもなさそうだ。
良かった良かったと胸をなでおろす。
「いっぱい採れた!」
しばらくした後、腕いっぱいに果実を抱えたティアが僕のところに戻ってきた。
先ほどまで怖がっていたのに果実が採れたことですっかり笑顔になっている。
「ありがとね、タイガ!」
「どういたしまして! じゃあ帰ろ!」
二人で横に並びながら森の出口を目指す。
僕の隣には、お母さん喜ぶかなぁ、と笑顔を浮かべているティアがいる。
感情豊かな子だなあとこちらまで笑顔になってしまう。
二人で笑いながら歩いていると、僕たちの背後から、
『グルゥゥ』
という唸り声が聞こえる。
僕の心臓がドクンと跳ね、鼓動が早くなる。
ティアも表情が強張って今にも泣きそうになっている。
おそるおそる後ろを振り返ると、そこには一匹の狼がいた。
この狼はスウィートトゥースと呼ばれる種類のものだろう。
家で呼んだ図鑑に載っていた。
確か、主食として果実を食べる狼だ。
しかし、果実以外も食べるのだ。
果実がなかったり、機嫌が悪いと生物を食べることもある。
ティアが採った果実はこの狼が目を付けていたものなのだろう。
「ティア。果実を捨てて逃げよう」
「でも、お母さんの誕生日……」
「命の方が大事だろ!」
僕はティアの腕を強引に掴んで走り出した。
僕に手を引かれたティアは果実を手放し、ボトボトと地面に果実が落ちる。
それと同時に狼も走り出した。
最悪なことにターゲットは僕たちの様だ。
地面に落ちた果実には目もくれない。
よほどご立腹なのだろう。
「くそ!!」
僕は手に持っていた棒切れを狼に突き付けてティアと狼の間に立ちはだかる。
一瞬狼が怯んだ気がしたが、狼は僕に向かって飛び掛かってきた。
「うわぁぁぁ!」
僕は絶叫しながら狼に棒切れを突き出す。
『ギャン』
どうやら棒切れが狼に命中したようだ。
狼は森の奥へと逃げて行った。
良かった、ティアを守れたぞ。
危機を脱した僕は心の中でガッツポーズをする。
そのとき体に違和感があった。
左腕が燃えるように熱いのだ。
おそるおそる左腕に視線を落とすと、ザックリと切れている。
どうやら狼の爪が食い込んだようだ。
ダラダラと血が流れる。
こんなに血が流れるのは初めての経験だな。
それよりも、あまり痛くない。
人間は痛覚をシャットダウンすることがあるというが、今がその状況なのかもしれない。
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