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第1章:魔法学院入学編

第32話:最強賢者は洋館に届ける

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 受付嬢から聞いた通り、ギルドから預かった荷物はそれほど重くなかった。まったく重量感がないというわけではないが、ズッシリとしすぎるわけではなく、段ボールいっぱいにお菓子を詰めたくらいの感覚だ。
 箱は厳重に閉じられているので中に何が入っているのかはわからない。開封厳禁と書かれているので、開けてしまうとクエスト失敗になってしまう。そのため開けようとも思わないが。

「あー良い天気だなーこんな日にお使いクエストができて俺は幸せだなー」

 俺はポツリと呟く。

「……新手の皮肉?」

「わかるか?」

「ええまあ、私だって同じような気持ちよ。何が悲しくて休みを潰して軽くも重くもない荷物を運んでいるのかしら。しかもどうして冒険者に運ばせているの? 意味わからないんですけど」

「まあ、輸送業者に頼むと中身を確認されてしまうからな。わざわざ人手に頼るってことは貴重なアイテムなのか……あるいは秘密裏にしておきたいことなのか」

 貴重なアイテムを輸送業者に頼むのは開封されると危険だし、秘密を守りたい高度研究の成果物などはギルドにクエストを依頼するのが一般的だ。ギルドは秘密主義で、たとえそれが犯罪であったり社会的にモラルが欠如している行為でも見て見ぬふりをする。
 殺人依頼など直接的にギルドや組合員に悪影響が及ぶ種類の依頼は当然突っぱねる。

「痛っ!」

「だ、大丈夫か、リーナ!」

 リーナは段差もないところで転んでしまった。咄嗟に手をついたおかげで怪我はないようだ。

「こ、この荷物が勝手に動いたのよ! それに引っ張られて私はバランスを崩してこけちゃったっていうか……絶対信じてないでしょ! 本当だもん!」

 リーナは言い訳がましく説明したのだった。
 ……まあ、何もないところで転ぶなんて恥ずかしいからな。しかし、全面的にリーナの主張を信じてやるとすればかける言葉は――。

「もしかして昨日変な物でも食べたのか?」

「わ、私の頭はおかしくない!」

 怒鳴られてしまった。

 そんな調子で地道に歩いていくと、荷物の届け先である洋館に辿り着いた。
 洋館の見た目は西洋風の建物の中でも際立っていて、かなり豪奢なものだった。よほどの金持ちが住んでいるのだろう。

 洋館の庭には掃除中の青年が立っていた。

「ごめんください。ギルドからの配達なのですが」

 青年に向かって声をかけると、

「ああ! ギルドの方ですか。今行きますね」

 と返事が返ってきた。
 青年は掃除道具をその場において俺たちのもとまでやってくる。

「まさか魔法学院の生徒さんが来てくれるとは……」

 制服を見ての発言だろう。

「と言ってもまだまだ駆け出しですけどね。……あ、これギルドの組合員証です」

 ギルド規定に則って俺たちはもらったばかりの白い組合員証を見せる。
 宅配に見せかけて爆発物を置いていくテロ行為があったのだという。――配達物と一緒に渡された注意事項にかいてあったことだ。

「ああこれはこれは……って、ユーヤ・ドレイクさんですか。今年の首席の」

「え、ご存じなんですか?」

「ええ、初の賢者でありながら首席合格ということで驚きましたよ。……あ、僕も実は賢者なんですよ」

 数十年に一度しか生まれないという職業だと聞いたのだが、まさかそんな稀有な存在に偶然遭遇するとはな。これが漫画か何かだったらツッコミが入っているところだ。

「あ、失礼しました。ここにサインすればいいんですよね?」

「はい。よろしくお願いします」

 受領印の欄は、判子を押すか、サインを書いてもらうことになっている。
 筆跡はクエスト依頼の際に回収する決まりとなっていて、これがクエスト達成の条件になる。
 判子でも構わないのだが、サインの方がやりとりがスムーズな上に確実な本人証明になるということで一般的だ。

「ありがとうございました」

 サインをもらったところで、俺たちは箱に貼られた受領印を破って回収すると、撤収を始める。
 後はギルドに戻って報告と受領印を提出することで達成となる。
 最初から討伐系の難しいクエストを受けられなくて残念に思ったが、最初に簡単なクエストでギルドのルールや仕組みを理解しておくのは大事なのかもしれない。
 そんな風に思った。

 文字通り肩の荷が下りたことで軽い足取りで歩みを進める。
 想定よりも早く終わったため、まだまだ時間はある。
 時刻は十一時すぎ。少し早いが昼食を食べてもおかしくない時間だ。

「キリが良いし、そろそろ昼ご飯を食べようか?」
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