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ライアン達の子

愛されない令嬢の涙

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【 パトローヌ侯爵家 ビクトリアの視点 】



私とゼイン殿下はクラスも違うし食事も別だった。
私はセロン様達と、ゼイン殿下はアンベール公子達と。

だけど近くには座るようにしていた。

最初は時々、アンベール公子が話す妹の話を食べながら聞いているだけだった。だけどある日、

“妹から嫌われてるんだ” とても悲しそうだった。

そこでゼイン殿下が、入学してきたら一緒に食事をすればいい。私が誘えば断らないだろう。

だが、公子は苦笑いをした。妹の反応が分かっていたのだろう。

『リリアン嬢、一緒に食べないか』

『私、一緒に食べる約束を既にしております。
一年間はその方達といますので、お誘いはお受けできません』

『……』

食堂で断られた殿下はもちろん周囲の人達も驚いていた。まさか王子の誘いを断る令嬢がいたとは…。
その中でも公子だけはまた同じ苦笑いをした。

『多分私が一緒だからです。すみません、殿下』


その後はリリアン嬢の側の席が空いているとそこに座るようになった。聞き耳を立て、時には話しかけたり。無視はされないのでゼイン殿下は続けた。


セロン達につい愚痴を溢してしまった。

『婚約者は私なのに』

その後セロン達がリリアン嬢を呼び出したりして注意をしているのは知っていた。
私は単に“婚約者のいる殿方との距離の取り方に気をつけなさい”と言っているのだと思っていた。


一方でゼイン殿下は彼女の側に座るたびに興味を増していくのが目に見えて分かった。

昔から流れている噂は当てにならず、その時に揉めて怪我をさせた加害者の伯爵令息とその婚約者の子爵令嬢と隔て無く会話をしながら食事をしているのだ。

リリアン嬢達が先に席を立った後、

『私がアンベール宛に訪問したらリリアン嬢も声をかけてくれるか?』

『リリアンの交友関係は父が決めていますし、殿下を呼ぶと言ったら“お前が行ってこい”と却下されるだけです』

『茶会はどうだ』

『リリアンが行きたくないと言えば父は阻止します』

この日からリリアン嬢達の側には誰も座らなくなった。ゼイン殿下の席と皆が気を遣い出したからだ。


どんどんリリアン嬢への態度を柔らかくしていくゼイン殿下を見るのは辛かった。

セロン様達との茶会で、

『何度言っても改めないのです』

『あの悪女、“殿下が勝手に近寄ってくるのだから殿下に言ってください”などと生意気を言うのです!』

『令嬢モドキのクセに!』

『……』


リリアン嬢の主張が正しいのは知っている。
先に友人達と座っているところに態々殿下は側に、できれば隣に座るのだ。

だけどセロン様達がヒートアップするのを放置してしまった。


ついにリリアン嬢が我慢の限界を超えた。

“おかしな話ですわよね。いつも先にいるのは私と友人で、後から来て選んで席を決めているのは殿下達ですのに、矛先は私なのなですから”

“既に婚約者のご友人達から何度か抗議を受けました。多分婚約者は知らずに、彼女のご友人が暴走しているだけだと思います。

机の中や鞄の中が荒らされていることもございますし、中には私が既に殿下の愛妾になっているなどと口にする方もおられます。
子供の頃から妃になる意志は無しと表明しているのに昼食だけてこうなるのです。

殿下にはご自分が行使なさるの結果をもう少し把握していただけることを望みます”


リリアン嬢の去る姿を見つめる顔は、愛しい人に冷たくされて傷付いた男の顔に見えた。

天を仰いだ後、

『アンベール、このままでは終わらせない』

“殿下は続きは城で”と言った。


そしてリリアン嬢は食堂に姿を現さなくなった。

殿下には可哀想だったけど、ホッとしていたのに翌週明けに事態は変わっていた。

リリアン嬢達の三人とゼイン殿下達三人が仲良く会話をしながら食事をしていた。

リリアン嬢とゼイン殿下の間にはアンベール公子が座っていた。
兄妹仲も変わっていて、アンベール公子が世話を焼き、ゼイン殿下は心から楽しそうに笑っていた。
話しかけられる度にゼイン殿下は溶けるような笑顔になる。

胸が痛い。ギュッと掴まれるような。
私はゼイン殿下をお慕いしているのだとはっきり分かった。


その後は私の友人達が次々と失脚していった。

決闘は、リリアン嬢のレベルの低さを露見させる良い機会かもと思ったが、彼女はセロン様の両手首を切り落とした。

脈動にのって噴き出す大量の血に吐き気を催し、木の裏で嘔吐した。

何故あの子は平気なの!?何なのコレは!

『勝負は決まった。帰ろう。リリアン嬢は本物だったな』

陛下もゼイン殿下も拍手しているし、公爵達もリリアン嬢を抱きしめて褒めていた。

『ビクトリア』

『はい、お父様』



マキシア伯爵邸の焼失と訃報。
それをきっかけに更に私から人が離れ出した。



青空の下、心地良いはずの空気が重く感じた。
お茶の香りも楽しめない。

目の前にいる殿下はいつもの令嬢向けの微笑みを消して私を見つめていた。

「ビクトリア嬢。もう少し深刻に捉えた方がいい。
自身で掌握出来ない友人は近くに寄せるべきではない。距離を保て。
そして不用意な言動を慎め。
頼んでいなくとも、其方の意を汲む友人が面倒を起こす。

これは妃としてはできていなければならない事だ」

「はい、殿下」

ここで終わらせれば良かったのに、私は、

「私ではなく、リリアン嬢だったとしても同じ言葉をお使いになりましたか」

「本気で聞いているのか?」

「…はい」

嘘。やっぱ聞きたくない。そう言おうとしたけれど、

「リリアンには言わないだろうな」

止めておきなさいと自分を抑えようとしても止まらない。

「リリアン嬢をお慕いしているからですか」

「そうだ。私はリリアンが好きだ。

彼女は特別だ。彼女の涙は私の心を戸惑わせ、彼女の笑顔は私の心に陽射しが当たっているかのように暖かくする。彼女の憂いを放っておけない」

「……」

ゼイン殿下は私の涙にハンカチを差し出した。

「だが、そこまでだ。

私は其方と婚約している。
政略結婚を理由無しに破棄することはしない。
これ以上問題が起きなければ私は其方を妃に迎えるし、子も作る。それが義務だ。

其方も婚約当初はそういう気持ちだったはず。

リリアンは側妃や愛妾に迎えられるような存在ではない。身分が高すぎるし後ろ盾が鉄壁だ。
リリアンが私に嫁ぐことを強く望まない限り、私のものになることはない。

片思いだから無理なんだ。

だから賢く振舞ってほしい」

「……」





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