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ライアン達の子
王妃殿下の誕生祝い
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【 リリアンの視点 】
こんな本格的なドレスはいつぶりだろう。
デビューのときはシンプルな白いドレスだから、初だ。
重いし動き難いし窮屈だし。
「令嬢や夫人方はみんなこんなに大変なドレスを着ているのですね」
「そうよ。それで踵の高い靴で指も締め付けられながら歩き回るし、立っているのも苦痛だし、靴擦れを起こして皮が剥けたり血が出たり。挙句何度もダンスをするのよ」
「地獄ですか」
「……むか~しの私によく似てるわね」
?
「お母様の首も耳も頭も重そうですね」
「ライアンの贈り物だから重いわね」
私はお母様にだけ敬語を使い“ママ”とは呼ばない。
それは私への教育のためだ。自分まで許してしまうと外でボロが出るからだとか。
もうお父様のことは“パパ”と呼んで、甘えて話してしまってる。ブランクを、今取り返している感じなので怒られはしない。だが、人前では気をつけなさいと言われた。
だけどパパは私に甘い。
「パパ。私、パパにそっくりな人と結婚したい」
「可愛い私のリリアン。それは難しいな」
そう言いながら抱きしめてくれる。
ドレスでなきゃ抱っこしたり膝の上に乗せてくれただろう。
お兄様は婚約者を迎えに行った。
侯爵家の次女で兄様の一つ歳下。普段は隣国に留学していて、今向こうは長期休暇で帰ってきている。
「そろそろ行こうか」
馬車に乗るのも大変だ。誰がこんな服を作ったのか。平民のワンピースが羨ましい。
王城に着き控え室に通された。
そこにオルテオ殿下が挨拶に来た。
「バトラーズ公爵、公爵夫人お久しぶりです。
リリアンも久しぶりだね」
「テオ様、お元気でしたか?」
「成人前の勉強が忙しかったよ」
「そうなのですね」
お父様が私が“テオ様”と呼んだので、経緯を聞いてきた。お兄様を待っていたときにお相手してくださったと答えた。
「そうですか。リリアンがお世話になりました」
「こちらこそ楽しかったです」
そこにお兄様達が現れた。
婚約者のアリステア様が挨拶をした後、テオ様は退室した。
「今日はリリアン様も出席なさるのですね」
「もう学園に通いだしましたから」
「素敵なドレスですわ」
「お父様が選んでくださいました」
そんな当たり障りのない話をしていると順番が回ってきた。一番最後だった。
王妃殿下に一家で挨拶をしてお祝いの言葉を述べた。
「リリアン嬢はパートナーは連れていないのか?」
「はい、陛下」
「なら、後でゼインと踊ってやってくれ」
「ゼイン殿下とですか?
私、デビュー以来の二度目でとても王子殿下と踊るレベルでは…」
「リリアン嬢に何度足を踏まれようと文句を言うような狭量ではないから安心してくれ」
「そんなに踏んでいたら殿下の足は崩壊してしまいます」
「ゼインは喜びそうだがな」
「ゼイン殿下が…」
「陛下。それではゼインが特殊な性癖があるみたいじゃないですか」
「そ、そうなのですか!?」
「違う違う。そのくらいリリアン嬢が可愛いということだ」
「……?」
「止めてください、陛下。リリアンが困惑しているではありませんか。
変な性癖などないからね?
猫が何度足を踏もうと何ともないし可愛いものだろう?それと同じだよ」
「ゼイン殿下、猫って軽すぎます」
「はいはい。いい子だから後で私と踊ってくれ」
「足が無事なら喜んで」
「どういうこと?」
「まず、エス先生が一番で、二番目がお父様、三番目にお兄様、四番目はマルセル様、五番目はデューク様、六番目はジャノ様、七番目はテオ様ですから。
五番までは歯を食いしばってでも踊るつもりです」
「いつの間に」
「かなり前からお約束をしております。テオ様はさっきでした。ジャノ様は先週、デューク様は一カ月前、マルセル様は入学前ですね」
「そうか…」
声のトーンを落としてガッカリするゼイン殿下が可哀想に思えた。
だけど隣には婚約者がお揃いの衣装で立っている。
「素敵な装いですわ」
「リリアン」
「それでは失礼します」
お父様に呼ばれてその場を後にした。
「(リリアン)」
「(何ですかお兄様)」
「(私の番をゼイン殿下に譲ったら駄目か?)」
「(どうしたのですか?)」
「(私はずっとリリアンと一緒だし、家でも別の機会にも踊れるけど、ゼイン殿下はそれほど無い)」
「(そうですか?)」
「(多分、この先は陛下の誕生パーティとゼイン殿下の誕生パーティの二回がチャンスかな。
リリアンが出席すればだけど。
卒業したら殿下はリリアンを誘えないだろう。婚姻したら尚更だ)」
「(……分かりましたわ。三番目ですね)」
「(殿下に耳打ちしてくる)」
兄様が耳打ちすると、ゼイン殿下の瞳はキラキラと輝き嬉しそうな笑顔になり、お兄様を抱きしめた。
その隙にデューク様のところに挨拶に行った。
「お初にお目にかかります。
バトラーズ公爵家の長女リリアンと申します。
デューク様にはお世話になっております」
「あらあら、なんて可愛らしいのかしら」
「本当だ。こんなに美しい公女様といつの間に」
お二人はデューク様のご両親で、子爵夫妻だ。
「王城で乗馬の補助を何度か」
「やっぱり貴方と並ぶと…」
「そうだな。公女様が小柄に見える」
三人とも背が高いから、私はちびっ子にでも見えるのだろうか。
「デューク様、もしかしたら私はデューク様と踊る頃にはお力をお借りしなくてはならないかもしれません」
チラッと靴を見せた。
「脱いじゃえば?」
「そういう訳には」
「だったらテラスで踊ろう。靴を脱いで私の靴の上に乗ればいい」
「また産まれたての仔鹿になってしまいます」
「そうしたら送ってあげるよ」
「今度うちに遊びにいらしたら?」
「母上、」
「平民向けの靴職人なのだけど、彼の靴は靴擦れ知らずよ。限度はあるけど。それに飾りやデザインも凝ってはいないけどドレスに隠してしまえばいいわ」
「是非ご紹介ください。いいですか?デューク様」
「公爵閣下に許可を取らないと駄目だよ」
「はい、話しておきます」
「どなた?」
デューク様の腕に手を回した女性も背の高い方だった。
「リリアン・バトラーズと申します」
「ああ、あの」
「ソニア!」
「妻のソニアと申します。婚約者はどちらに?」
「おりません」
「…だとしたら、控えてくださるかしら。
変な噂が立つと困りますから」
「ソニア!失礼だろう!」
「ソニアさん!なんてことを!」
「嫁が申し訳ない」
「いえ、奥様のお気持ちを尊重しましょう。
お約束は二つとも無かったことにしましょう」
二つとは、ダンスの約束と靴職人の件だ。
「リリアン」
「失礼しますわ」
トボトボとお父様の元に戻った。
私ったら図々しかったかもしれない。
「どうした?」
無意識にお父様に抱きついていた。
「お腹すいた」
お父様がエフ先生を探すそぶりをすると現れた。
「リリアンを頼んでもいいですか。お腹がすいたらしいので」
「よし、リリアン。あっちに行こう」
エフ先生の手を取った。
こんな本格的なドレスはいつぶりだろう。
デビューのときはシンプルな白いドレスだから、初だ。
重いし動き難いし窮屈だし。
「令嬢や夫人方はみんなこんなに大変なドレスを着ているのですね」
「そうよ。それで踵の高い靴で指も締め付けられながら歩き回るし、立っているのも苦痛だし、靴擦れを起こして皮が剥けたり血が出たり。挙句何度もダンスをするのよ」
「地獄ですか」
「……むか~しの私によく似てるわね」
?
「お母様の首も耳も頭も重そうですね」
「ライアンの贈り物だから重いわね」
私はお母様にだけ敬語を使い“ママ”とは呼ばない。
それは私への教育のためだ。自分まで許してしまうと外でボロが出るからだとか。
もうお父様のことは“パパ”と呼んで、甘えて話してしまってる。ブランクを、今取り返している感じなので怒られはしない。だが、人前では気をつけなさいと言われた。
だけどパパは私に甘い。
「パパ。私、パパにそっくりな人と結婚したい」
「可愛い私のリリアン。それは難しいな」
そう言いながら抱きしめてくれる。
ドレスでなきゃ抱っこしたり膝の上に乗せてくれただろう。
お兄様は婚約者を迎えに行った。
侯爵家の次女で兄様の一つ歳下。普段は隣国に留学していて、今向こうは長期休暇で帰ってきている。
「そろそろ行こうか」
馬車に乗るのも大変だ。誰がこんな服を作ったのか。平民のワンピースが羨ましい。
王城に着き控え室に通された。
そこにオルテオ殿下が挨拶に来た。
「バトラーズ公爵、公爵夫人お久しぶりです。
リリアンも久しぶりだね」
「テオ様、お元気でしたか?」
「成人前の勉強が忙しかったよ」
「そうなのですね」
お父様が私が“テオ様”と呼んだので、経緯を聞いてきた。お兄様を待っていたときにお相手してくださったと答えた。
「そうですか。リリアンがお世話になりました」
「こちらこそ楽しかったです」
そこにお兄様達が現れた。
婚約者のアリステア様が挨拶をした後、テオ様は退室した。
「今日はリリアン様も出席なさるのですね」
「もう学園に通いだしましたから」
「素敵なドレスですわ」
「お父様が選んでくださいました」
そんな当たり障りのない話をしていると順番が回ってきた。一番最後だった。
王妃殿下に一家で挨拶をしてお祝いの言葉を述べた。
「リリアン嬢はパートナーは連れていないのか?」
「はい、陛下」
「なら、後でゼインと踊ってやってくれ」
「ゼイン殿下とですか?
私、デビュー以来の二度目でとても王子殿下と踊るレベルでは…」
「リリアン嬢に何度足を踏まれようと文句を言うような狭量ではないから安心してくれ」
「そんなに踏んでいたら殿下の足は崩壊してしまいます」
「ゼインは喜びそうだがな」
「ゼイン殿下が…」
「陛下。それではゼインが特殊な性癖があるみたいじゃないですか」
「そ、そうなのですか!?」
「違う違う。そのくらいリリアン嬢が可愛いということだ」
「……?」
「止めてください、陛下。リリアンが困惑しているではありませんか。
変な性癖などないからね?
猫が何度足を踏もうと何ともないし可愛いものだろう?それと同じだよ」
「ゼイン殿下、猫って軽すぎます」
「はいはい。いい子だから後で私と踊ってくれ」
「足が無事なら喜んで」
「どういうこと?」
「まず、エス先生が一番で、二番目がお父様、三番目にお兄様、四番目はマルセル様、五番目はデューク様、六番目はジャノ様、七番目はテオ様ですから。
五番までは歯を食いしばってでも踊るつもりです」
「いつの間に」
「かなり前からお約束をしております。テオ様はさっきでした。ジャノ様は先週、デューク様は一カ月前、マルセル様は入学前ですね」
「そうか…」
声のトーンを落としてガッカリするゼイン殿下が可哀想に思えた。
だけど隣には婚約者がお揃いの衣装で立っている。
「素敵な装いですわ」
「リリアン」
「それでは失礼します」
お父様に呼ばれてその場を後にした。
「(リリアン)」
「(何ですかお兄様)」
「(私の番をゼイン殿下に譲ったら駄目か?)」
「(どうしたのですか?)」
「(私はずっとリリアンと一緒だし、家でも別の機会にも踊れるけど、ゼイン殿下はそれほど無い)」
「(そうですか?)」
「(多分、この先は陛下の誕生パーティとゼイン殿下の誕生パーティの二回がチャンスかな。
リリアンが出席すればだけど。
卒業したら殿下はリリアンを誘えないだろう。婚姻したら尚更だ)」
「(……分かりましたわ。三番目ですね)」
「(殿下に耳打ちしてくる)」
兄様が耳打ちすると、ゼイン殿下の瞳はキラキラと輝き嬉しそうな笑顔になり、お兄様を抱きしめた。
その隙にデューク様のところに挨拶に行った。
「お初にお目にかかります。
バトラーズ公爵家の長女リリアンと申します。
デューク様にはお世話になっております」
「あらあら、なんて可愛らしいのかしら」
「本当だ。こんなに美しい公女様といつの間に」
お二人はデューク様のご両親で、子爵夫妻だ。
「王城で乗馬の補助を何度か」
「やっぱり貴方と並ぶと…」
「そうだな。公女様が小柄に見える」
三人とも背が高いから、私はちびっ子にでも見えるのだろうか。
「デューク様、もしかしたら私はデューク様と踊る頃にはお力をお借りしなくてはならないかもしれません」
チラッと靴を見せた。
「脱いじゃえば?」
「そういう訳には」
「だったらテラスで踊ろう。靴を脱いで私の靴の上に乗ればいい」
「また産まれたての仔鹿になってしまいます」
「そうしたら送ってあげるよ」
「今度うちに遊びにいらしたら?」
「母上、」
「平民向けの靴職人なのだけど、彼の靴は靴擦れ知らずよ。限度はあるけど。それに飾りやデザインも凝ってはいないけどドレスに隠してしまえばいいわ」
「是非ご紹介ください。いいですか?デューク様」
「公爵閣下に許可を取らないと駄目だよ」
「はい、話しておきます」
「どなた?」
デューク様の腕に手を回した女性も背の高い方だった。
「リリアン・バトラーズと申します」
「ああ、あの」
「ソニア!」
「妻のソニアと申します。婚約者はどちらに?」
「おりません」
「…だとしたら、控えてくださるかしら。
変な噂が立つと困りますから」
「ソニア!失礼だろう!」
「ソニアさん!なんてことを!」
「嫁が申し訳ない」
「いえ、奥様のお気持ちを尊重しましょう。
お約束は二つとも無かったことにしましょう」
二つとは、ダンスの約束と靴職人の件だ。
「リリアン」
「失礼しますわ」
トボトボとお父様の元に戻った。
私ったら図々しかったかもしれない。
「どうした?」
無意識にお父様に抱きついていた。
「お腹すいた」
お父様がエフ先生を探すそぶりをすると現れた。
「リリアンを頼んでもいいですか。お腹がすいたらしいので」
「よし、リリアン。あっちに行こう」
エフ先生の手を取った。
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