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卒業
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妊娠騒動からから1年以上が過ぎた。
今日は卒業パーティ。みんなと過ごす最後の日だ。
今年はパートナーはあえて作らずに個々で出席するという、独り身に優しい仕組みになった。
おかげで卒業生とその親だけなので混雑も緩和されたらしい。
ライヤーさんは退学になった。
産まれた子は副学園長にそっくりの男児だった。髪や瞳の色も同じで、言い逃れることができないほどだ。
副学園長の顔は少し特徴があって、馬に似ている。顔が長く少し目が離れがちで鼻の穴が大きい。
ライヤーさんはどうして副学園長と寝たのか。しかも一度ではないらしい。
もしかして、Aクラスでいられたのは副学園長から試験内容を教えてもらっていた?
とにかく、副学園長は解雇。
どこかの子爵の弟らしいし、妻も子も孫もいる。
ライヤーさんと子は元副学園長に引き取られた。
ニコラ殿下は安堵した。
「メイ、卒業おめでとう」
「ニコラ殿下、卒業おめでとうございます」
「約束を覚えてる?」
「もちろんです。ファーストダンスですよね?」
1ヶ月前、ニコラ殿下から愛の告白を受けた。
丁重にお断りをしたら泣かれた。
ニコラ殿下という人のことは好きだ。美男子だし頭もいい。優しいし 真面目な部分もあり気さくな部分もあって、この人とならいいかなと思える。
だけど忘れてはいけない。ニコラ殿下は王子様なのだ。私は極貧男爵家の娘。しかも物乞いと同じレベルの三世代の男付き。私が王子妃になったら迷惑をかける気しかしない。ニコラ殿下は優しいから、モヴィー家というたんこぶを除去したりせずに我慢するだろう。きっとニコラ殿下は気にするなと言うだろうけど私は嫌だ。
正直にそう話したら、いろいろと提案されたけど、どうしても迷惑をかける想像しかできない。
私の意思が固いことを知って、殿下は引き下がってくれた。
せめてと 想い出に卒業パーティのファーストダンスを頼みこまれた。
ニコラ殿下は王子様。卒業したら会わないだろうし、楽しかったから了承した。
「かっこよく踊れたら、メイがイエスと言ってくれるかもしれないだろう」
「……」
「冗談だからそんな顔をするな。
私はいい男のはずだから、すぐ出会いがあるよ」
「確かに」
「毎日一緒にいる奴には敵わないからな」
「……」
「あっちにセレスがいるぞ。挨拶に行こう」
「でも」
「そのくらい双子に許可を得なくても大丈夫だよ。
あいつらはしばらく教師達から放してもらえないだろうから気にするな。行くぞ」
殿下は私の手を繋ぎ、セレス様のところまで手を引いた。
セレス様とも話をした後、双子が戻る前にダンスの時間になった。同伴者を強制しない分 踊りたい人が踊ればいいという方針になっているので、然程混み合ってはいない。
「私、下手ですからね」
「メイと踊ることに意味があるんだ。メイの近くにいられて、メイに見つめてもらえて、メイの想い出の中に私を少しでも残してもらえたら嬉しいよ」
「っ…」
「メイ、泣かないでくれ」
「っ…」
「メイ、泣いていたらダンスができなくなるだろう?
メイが負担に思うことはない。楽しく踊って欲しい」
「っ…」
「メイ…」
「だって…ニコラ」
「こんなときに呼び捨てなんて ずるいじゃないか。私まで泣けてくるだろう。
私が選ばれなかったのは王子だからだ。仕方のないことだ。王子でなければメイに選んでもらえたかもしれない。今はそれだけでも十分だと思うことにしている。メイが私を好きだと分かったから我慢するよ」
「うん」
「あいつのことが嫌になったら、私のところに来てくれ。指摘通り、私は妻を複数娶れるからな。
王族の務めとして正妻を迎えているだろうが、メイは寵妃にするから気にせずに飛び込んでくれ」
「うん」
「可愛いメイ…大好きだよ」
なんとか殿下とダンスを踊り終えた。その後 殿下はセレス様と、私は学園長と踊ることにした。
「モヴィーさんはニコラ殿下の求婚は断ったようだね」
何で知っているの!?
「学園長…どうして知っているのですか?」
「2人を見ていたら分かるよ。
ニコラ殿下は早い段階からモヴィーさんにぞっこんだったからね」
その千里眼を副学園長に向けていれば…
「……」
「で、どちらにすることにしたんだ?」
「……」
「決まっているのは間違いなさそうだね。
双子から選ぶのは心苦しいだろうが、引きずっては駄目だよ」
「……」
「もしエヴァンくんが旅に出たいと言ったら、お守りを作ってあげるといい」
「誰も選ばないという選択もできます」
「きっと その輪を壊しても君と一緒にいたいと思ったから、殿下もカルデック兄弟も君に愛を告げたのだろう?
曖昧にしたら3人が未来に進めないし、君の幸せはどうなるんだ?
ときには自分本位でいいときもある」
「はい」
学園長…そういうの、ライヤーさんに発揮できなかったのですか?まさか手に負えないとか面倒だとかで放置したとか?
「なんだい?その目は」
「なんでもございません」
学園長から解放された後は、双子とダンスをして卒業生と会話をして屋敷に帰った。
今日は卒業パーティ。みんなと過ごす最後の日だ。
今年はパートナーはあえて作らずに個々で出席するという、独り身に優しい仕組みになった。
おかげで卒業生とその親だけなので混雑も緩和されたらしい。
ライヤーさんは退学になった。
産まれた子は副学園長にそっくりの男児だった。髪や瞳の色も同じで、言い逃れることができないほどだ。
副学園長の顔は少し特徴があって、馬に似ている。顔が長く少し目が離れがちで鼻の穴が大きい。
ライヤーさんはどうして副学園長と寝たのか。しかも一度ではないらしい。
もしかして、Aクラスでいられたのは副学園長から試験内容を教えてもらっていた?
とにかく、副学園長は解雇。
どこかの子爵の弟らしいし、妻も子も孫もいる。
ライヤーさんと子は元副学園長に引き取られた。
ニコラ殿下は安堵した。
「メイ、卒業おめでとう」
「ニコラ殿下、卒業おめでとうございます」
「約束を覚えてる?」
「もちろんです。ファーストダンスですよね?」
1ヶ月前、ニコラ殿下から愛の告白を受けた。
丁重にお断りをしたら泣かれた。
ニコラ殿下という人のことは好きだ。美男子だし頭もいい。優しいし 真面目な部分もあり気さくな部分もあって、この人とならいいかなと思える。
だけど忘れてはいけない。ニコラ殿下は王子様なのだ。私は極貧男爵家の娘。しかも物乞いと同じレベルの三世代の男付き。私が王子妃になったら迷惑をかける気しかしない。ニコラ殿下は優しいから、モヴィー家というたんこぶを除去したりせずに我慢するだろう。きっとニコラ殿下は気にするなと言うだろうけど私は嫌だ。
正直にそう話したら、いろいろと提案されたけど、どうしても迷惑をかける想像しかできない。
私の意思が固いことを知って、殿下は引き下がってくれた。
せめてと 想い出に卒業パーティのファーストダンスを頼みこまれた。
ニコラ殿下は王子様。卒業したら会わないだろうし、楽しかったから了承した。
「かっこよく踊れたら、メイがイエスと言ってくれるかもしれないだろう」
「……」
「冗談だからそんな顔をするな。
私はいい男のはずだから、すぐ出会いがあるよ」
「確かに」
「毎日一緒にいる奴には敵わないからな」
「……」
「あっちにセレスがいるぞ。挨拶に行こう」
「でも」
「そのくらい双子に許可を得なくても大丈夫だよ。
あいつらはしばらく教師達から放してもらえないだろうから気にするな。行くぞ」
殿下は私の手を繋ぎ、セレス様のところまで手を引いた。
セレス様とも話をした後、双子が戻る前にダンスの時間になった。同伴者を強制しない分 踊りたい人が踊ればいいという方針になっているので、然程混み合ってはいない。
「私、下手ですからね」
「メイと踊ることに意味があるんだ。メイの近くにいられて、メイに見つめてもらえて、メイの想い出の中に私を少しでも残してもらえたら嬉しいよ」
「っ…」
「メイ、泣かないでくれ」
「っ…」
「メイ、泣いていたらダンスができなくなるだろう?
メイが負担に思うことはない。楽しく踊って欲しい」
「っ…」
「メイ…」
「だって…ニコラ」
「こんなときに呼び捨てなんて ずるいじゃないか。私まで泣けてくるだろう。
私が選ばれなかったのは王子だからだ。仕方のないことだ。王子でなければメイに選んでもらえたかもしれない。今はそれだけでも十分だと思うことにしている。メイが私を好きだと分かったから我慢するよ」
「うん」
「あいつのことが嫌になったら、私のところに来てくれ。指摘通り、私は妻を複数娶れるからな。
王族の務めとして正妻を迎えているだろうが、メイは寵妃にするから気にせずに飛び込んでくれ」
「うん」
「可愛いメイ…大好きだよ」
なんとか殿下とダンスを踊り終えた。その後 殿下はセレス様と、私は学園長と踊ることにした。
「モヴィーさんはニコラ殿下の求婚は断ったようだね」
何で知っているの!?
「学園長…どうして知っているのですか?」
「2人を見ていたら分かるよ。
ニコラ殿下は早い段階からモヴィーさんにぞっこんだったからね」
その千里眼を副学園長に向けていれば…
「……」
「で、どちらにすることにしたんだ?」
「……」
「決まっているのは間違いなさそうだね。
双子から選ぶのは心苦しいだろうが、引きずっては駄目だよ」
「……」
「もしエヴァンくんが旅に出たいと言ったら、お守りを作ってあげるといい」
「誰も選ばないという選択もできます」
「きっと その輪を壊しても君と一緒にいたいと思ったから、殿下もカルデック兄弟も君に愛を告げたのだろう?
曖昧にしたら3人が未来に進めないし、君の幸せはどうなるんだ?
ときには自分本位でいいときもある」
「はい」
学園長…そういうの、ライヤーさんに発揮できなかったのですか?まさか手に負えないとか面倒だとかで放置したとか?
「なんだい?その目は」
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