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父として
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【 ウィリアム・バランの視点 】
「旦那様、お嬢様からお手紙が届きました」
手紙を開封して読むと話があるから早く王都に来て欲しいという内容だった。
「何て?」
「動き出す決意を固めたようだ」
「ふうん。レイモンド・アンカーをエリンの夫に?」
妻ソフィアは美しく柔らかい微笑みで私を魅了したわけではない。
「まだ早い」
「そうよね。とにかく挨拶が先よ。呼んで」
娘エリンはソフィアのことをフワフワした天然だと言う。私も最初はそう思った。だがとんでもない腹黒さを隠していた。今のように。我が家の司令塔はソフィアだ。
私はエリンと王子の婚約を反対したが、ソフィアは婚約解消はし向けられるけど、理由もなく最初から婚約を断るのはバラン家のためにならないし、無料の王子妃教育が受けられると言った。
王子がエリンに冷たくしていることも教育係がエリンに虐待めいたことをしていることも把握していた。私は王子を廃嫡させ教育係の生首を宮門に晒そうと憤った。だがソフィアは、エリンが出版するかもしれないから様子を見ましょうと言った。
結局教育係は途中で追放処分となった。ソフィアは出版は難しいかしらと溜息を吐く。私はチェディック子爵邸に足を運び、無言で子爵の前に座り続けた。子爵が“慰謝料を”と言っても無言、金額を何度上げても無言、家宝を差し出されても無言。そしてチェディック夫人と離縁して無一文で放り出すという提案を聞いてやっと席を立ち屋敷を後にした。切り刻んでも良かったがその価値はないと判断した。先にチェディック夫人の実家に圧をかけておいたので、あの女が実家を頼っても門前払いだろう。
エリンの交友関係も把握していたし、レイモンド・アンカーとの接触も把握していた。ソフィアはすぐに彼の身辺調査を命じた。
彼は真面目で勤勉で問題行動もなく、しかも次期国王の側近。何故か妻も婚約者もいない。女に興味がなかったわけじゃないのも分かっている。
そんな男がかなり高いリスクが分からないはずはないのになぜエリンを?
10日後、領地に訪れたレイモンド・アンカーは早々に跪き挨拶の後に謝罪をした。怖気付いたのかと思ったが違った。
「何の謝罪だ?」
「ご挨拶もせずご令嬢と交際を始めたことをお詫びしたいのです」
「反対したら近付かなかったのか?」
「ずっとチャンスを待っていたのですから諦める気はございません」
彼は動き出す元となった王子の愚行と、それをエリンに伝えた上で自分の気持ちを伝えたらしい。
「ふうん。あの王子はもっとエリンを傷付けたかったのね」
ソフィアの瞳は怒りに満ちていた。
彼はエリンが怪我をしたあの日に抱き上げてから忘れることができずに葛藤してきたようだ。諦めるべきという理性とチャンスを待てという欲望に晒されてきた。
エリンを口説き落としたというより、彼がエリンの好みだったのではないかと思う。色も顔立ちも王子に似たところは一切ないし、王子のような真似を彼はしない。
「ソフィア、王都へ行こう」
ソフィアとレイモンドと王都に戻り、ある記事を書かせる前にアンカー子爵に会いに行った。
アンカー子爵も長男も驚きを隠せない。
「というわけで、ご子息と娘の交際をわざと公表します」
「あの、息子はどうなるのでしょう」
「当然うちに婿入りしてもらいます」
「わかりました。ではこちらもそのつもりで対応いたします」
アンカー子爵の了解を得られたので次はソフレット家に寄った。娘の友達のアリエルに会いに。
「ということなんだ」
「あのクソ王子!」
「こら、アリエル」
「失礼しました」
「いいんだ、全くその通りだから。
記事は別途出すが、噂を広めてもらいたい」
「お任せください!平民から貴族まで流してみせます!」
「頼んだよ」
ソフレットの商会は平民から下位貴族をターゲットにした商品を取り扱い全国展開をしている。接客の最中に噂話をすればあっという間に広まっていく。
次はバリエーズ侯爵に会いに行った。
「も、申し訳ございません!!」
「侯爵、責めているのではありません。ジョセフ殿は王子の側近というだけですし、話に乗ることはしませんでした」
「いえ、側近という立場は主人の愚行を諌める役割を担っております。実行されたのなら共犯です」
「それがですね」
事情を話すと納得してくれた。
「この騒動の後も側近を続けるかどうかは自由です」
「どうするかは息子と相談して決めます」
その次はモントスト伯爵と会って同じように説明をした。
「何という酷いことを」
「8歳の時から王子に虐められ、とっくに大人になった王子の虐めはエスカレートしました。今までのことは“冷たい態度”で済んだかもしれませんが、今回は悪質な攻撃です」
「全く理解できません」
「それが普通の反応です」
「トニーにはアラン王子殿下の側近は難しいようです。この先何に巻き込まれるかわかりませんから適当な理由を付けて退かせます」
翌日は記者と会い、後の取材に応じる条件で合意した。
「旦那様、お嬢様からお手紙が届きました」
手紙を開封して読むと話があるから早く王都に来て欲しいという内容だった。
「何て?」
「動き出す決意を固めたようだ」
「ふうん。レイモンド・アンカーをエリンの夫に?」
妻ソフィアは美しく柔らかい微笑みで私を魅了したわけではない。
「まだ早い」
「そうよね。とにかく挨拶が先よ。呼んで」
娘エリンはソフィアのことをフワフワした天然だと言う。私も最初はそう思った。だがとんでもない腹黒さを隠していた。今のように。我が家の司令塔はソフィアだ。
私はエリンと王子の婚約を反対したが、ソフィアは婚約解消はし向けられるけど、理由もなく最初から婚約を断るのはバラン家のためにならないし、無料の王子妃教育が受けられると言った。
王子がエリンに冷たくしていることも教育係がエリンに虐待めいたことをしていることも把握していた。私は王子を廃嫡させ教育係の生首を宮門に晒そうと憤った。だがソフィアは、エリンが出版するかもしれないから様子を見ましょうと言った。
結局教育係は途中で追放処分となった。ソフィアは出版は難しいかしらと溜息を吐く。私はチェディック子爵邸に足を運び、無言で子爵の前に座り続けた。子爵が“慰謝料を”と言っても無言、金額を何度上げても無言、家宝を差し出されても無言。そしてチェディック夫人と離縁して無一文で放り出すという提案を聞いてやっと席を立ち屋敷を後にした。切り刻んでも良かったがその価値はないと判断した。先にチェディック夫人の実家に圧をかけておいたので、あの女が実家を頼っても門前払いだろう。
エリンの交友関係も把握していたし、レイモンド・アンカーとの接触も把握していた。ソフィアはすぐに彼の身辺調査を命じた。
彼は真面目で勤勉で問題行動もなく、しかも次期国王の側近。何故か妻も婚約者もいない。女に興味がなかったわけじゃないのも分かっている。
そんな男がかなり高いリスクが分からないはずはないのになぜエリンを?
10日後、領地に訪れたレイモンド・アンカーは早々に跪き挨拶の後に謝罪をした。怖気付いたのかと思ったが違った。
「何の謝罪だ?」
「ご挨拶もせずご令嬢と交際を始めたことをお詫びしたいのです」
「反対したら近付かなかったのか?」
「ずっとチャンスを待っていたのですから諦める気はございません」
彼は動き出す元となった王子の愚行と、それをエリンに伝えた上で自分の気持ちを伝えたらしい。
「ふうん。あの王子はもっとエリンを傷付けたかったのね」
ソフィアの瞳は怒りに満ちていた。
彼はエリンが怪我をしたあの日に抱き上げてから忘れることができずに葛藤してきたようだ。諦めるべきという理性とチャンスを待てという欲望に晒されてきた。
エリンを口説き落としたというより、彼がエリンの好みだったのではないかと思う。色も顔立ちも王子に似たところは一切ないし、王子のような真似を彼はしない。
「ソフィア、王都へ行こう」
ソフィアとレイモンドと王都に戻り、ある記事を書かせる前にアンカー子爵に会いに行った。
アンカー子爵も長男も驚きを隠せない。
「というわけで、ご子息と娘の交際をわざと公表します」
「あの、息子はどうなるのでしょう」
「当然うちに婿入りしてもらいます」
「わかりました。ではこちらもそのつもりで対応いたします」
アンカー子爵の了解を得られたので次はソフレット家に寄った。娘の友達のアリエルに会いに。
「ということなんだ」
「あのクソ王子!」
「こら、アリエル」
「失礼しました」
「いいんだ、全くその通りだから。
記事は別途出すが、噂を広めてもらいたい」
「お任せください!平民から貴族まで流してみせます!」
「頼んだよ」
ソフレットの商会は平民から下位貴族をターゲットにした商品を取り扱い全国展開をしている。接客の最中に噂話をすればあっという間に広まっていく。
次はバリエーズ侯爵に会いに行った。
「も、申し訳ございません!!」
「侯爵、責めているのではありません。ジョセフ殿は王子の側近というだけですし、話に乗ることはしませんでした」
「いえ、側近という立場は主人の愚行を諌める役割を担っております。実行されたのなら共犯です」
「それがですね」
事情を話すと納得してくれた。
「この騒動の後も側近を続けるかどうかは自由です」
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その次はモントスト伯爵と会って同じように説明をした。
「何という酷いことを」
「8歳の時から王子に虐められ、とっくに大人になった王子の虐めはエスカレートしました。今までのことは“冷たい態度”で済んだかもしれませんが、今回は悪質な攻撃です」
「全く理解できません」
「それが普通の反応です」
「トニーにはアラン王子殿下の側近は難しいようです。この先何に巻き込まれるかわかりませんから適当な理由を付けて退かせます」
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