【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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新しい住処

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侍従兼御者兼護衛セイビアンは使用人に荷下ろしを指示して。
侍女エリスは付き添って。
侍女兼護衛ロザリーナはセイビアンと一緒にいて、屋敷内を把握して。

先ずは公爵邸ここの使用人達との顔合わせをしましょう」


そして外で待つ事30分。

「これ……宿でもとりましょうか」

「そうね。窓の向こうからチラチラこちらを見ているけど屋敷から出てこようとしないもの。
30分も待ったのだからいいわよね?
荷物を自分達で降ろそうとしなくて良かったわ」

馬車に乗り直して出発した。
後ろから叫ぶ女がいるけど気にしない。

門を抜けた所で夫となった人とその愛人が乗る馬車とすれ違った。
驚いた顔をしている。
口出しはしない約束だもの。仕方ないわよね?
使用人が入れてくれないのは主人の意思を尊重しているが故の行為だもの。
私は従うのみ。

別に一緒に住まなくたっていいの。
衣食住の面倒とお金をくれる約束を守ってもらうことは変わらないのだし、寧ろ別の屋敷でも宿でも 顔を合わせなくて済んで有難いわ。

ぶっといスネを齧りながら自由にできるのよ。
ウィンター公爵家の使用人達に感謝しなくては。

馬車の窓を開けて後方へ叫んだ。

「ありがとう~!!」

「お、お嬢様っ」

「一応人妻になったからアイリーンと呼んでね、エリス」

「かしこまりました、アイリーン様」



そして王都の最高級ホテルの前にやって来た。

「ご予約はございますか?」

「ありません」

「ご予約の無いお客様の当日のご宿泊はできかねます」

「そうなの?
当日でも泊まれるホテルは近くにあるかしら」

「中央広場の観光案内所にお尋ねください」

「そう。分かったわ」

そこで声がかかった。

「ウィンター公爵夫人」

「あら、カトリス侯爵夫人」

「こちらには?」

「泊まろうと思ったのですが予約が無いと駄目らしくて。
当日でも泊まれる所を教えて欲しかったのですが観光案内所に行けと言われましたの」

「はあ!?」

私が公爵夫人と分かると顔色を悪くしたホテルの受付嬢は、私の説明に侯爵夫人が怒りの色を見せた事で手が震えていた。

「観光案内所に参りますわ。失礼いたします」

「ウィンター夫人、ウィンター邸へは…」

「行ったのですが使用人達に入れてもらえませんでしたの。玄関の外で30分待ちましたけど開ける気が無いようなのでホテルに泊まろうかと」

「ウィンター公爵は?」

「愛人と乗った馬車で戻ったところで すれ違いになりましたわ。
使用人は主人の気持ちの代弁者みたいなものですから、仕方ありませんわ。
愛人との暮らしに、政略結婚の私は邪魔ですもの」

「何てことですの!あんまりですわ!」

「私も恋人を作っていいらしいので、ホテルに滞在しながら探そうと思います。
身体目的じゃない殿方がいいですわね」

「……侯爵邸うちにいらして」

「ご迷惑になりますわ。ホテルを探します」


「あ、あの… お部屋をご用意いたします」

受付嬢が生唾を飲みながら話しかけてきたが、

「いいのよ。ルールを曲げてはいけないわ。
観光案内所に行きますからお気遣いなく」

「で、ですが」

「もし主人であるウィンター公爵が探しに来たら“観光案内所を教えました” と言ってちょうだいね。
では、ごきげんよう」

「え!? お客様! お客様!」


受付嬢を無視して観光案内所にやって来た。

「あるよ」

「助かりますわ」

「王都の外れに旅宿がある。そこは空きがあれば泊めてもらえるよ。今時期は空いてるはずだ。
洗濯もしてもらえるし食事も美味い。

お嬢さんが行った一流の高級ホテルとは違って裕福な平民も泊まれる小さな旅宿だ。
旅宿にしては少し高めだが部屋に風呂があるし、24時間対応してくれる」

「それは素敵ですわ。行ってみます。ありがとうございました」


観光案内所から出て教えてもらった宿に到着した。
小さくて素朴だが管理はなされているようだ。
直ぐに宿の従業員が出てきた。

「ご宿泊のお客様でしょうか」

「予約をしていないのだけれど、泊まりたいの」

「何部屋 ご入り用でしょうか」

「三部屋で、一人部屋を二つ、二人部屋を一つお願い」

「かしこまりました。直ぐにご用意いたします。
中のテーブル席でお待ちください。
お荷物はお運びいたします」

「今日一番の対応を受けたわ。ありがとう」

アイリーンが合図を送るとエリスがチップを渡した。

「感謝いたします」

「こちらこそ」



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