【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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政略

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【 ハロルドの視点 】


俺には美しい恋人トリシアがいた。

子供の頃からの婚約者は別にいたが好みではなかった。

トリシアは学園で知り合った。
会った頃には既にトリシアの子爵家は没落寸前だった。

俺とトリシアは直ぐに恋に落ちた。
トリシアが純潔でなかったことは少しショックだったが、積極的で充実していた。

卒業間近に子爵家は没落した。
救ってやりたかったが両親が猛反対したからできなかった。

負債が大きすぎることも要因だし、婚約者の手前 そんなことはできないと言われたからだ。

卒業一年後、父が心臓発作で急逝した。
母は気落ちして領地に引きこもった。

俺は婚約者にトリシアを第二夫人に迎えると告げると、婚約者は婚約破棄した。
契約書を確認すると他に妻を娶らないと明記してあった。

かなりの慰謝料を支払わされた。
今更破棄して貰い手があるのだろうか。

そしてそれは領地にいる母上の耳にも入った。

「ハロルド。あの女を娶ることは許しません」

「次期公爵である俺の自由です」

「それは違うわよ。
貴方のお父様は次期公爵の指名をしていないの。
つまり指名権は私が持っているの。
良かったわ。あの女と付き合いだしたから指名を伸ばしておいて」

「子は俺しかいないでしょう!」

「従兄弟に継がせてもいいのよ?」

「は?」

「あの女を公爵籍に入れるくらいなら従兄弟に継がせるわ」

「母上!!」



半年後、母上が縁談を持ってきた。

「隣国の伯爵令嬢よ。婚約者が病死したらしいの。チャンスなのよ」

「は?伯爵令嬢? しかも隣国?」

「彼女を正妻に迎えて大事にしなさい。
トリシアあの女は下の世話係として何処かで飼うといいわ」

「トリシアに失礼なことを言わないでください!」

「じゃあ聞くわ。この先一生あの女と体を繋げないと約束できる?もちろん監視を置くわよ」

「何故ですか!愛し合っているのにそんなこと!」

「愛があれば禁欲できるわよ。

あの女はお金もない 貴族籍もない 取り潰されて実家も無い。勉強もできない 貴族のマナーは落第点 貴族令嬢の嗜みも皆無。
あるのは若い時にだけ使える顔と身体だけじゃないの!

唯一の身体を禁止すれば 貴方も気が付くはずよ。
“あれ?何でこんな女を選んだんだ”ってね」

「っ!」

「そのだらしない下半身と高位貴族らしからぬ頭で大金を失ったのを忘れたの?」

「え?」

「婚約破棄の慰謝料よ!せっかくの貯えが だいぶ消えてしまったわ。あの女が損失の補填をしてくれるわけ?
挙句 ドレスだ アクセサリーだと、使うばかりじゃないの!

だいたい、一度 入試に落ちていると調査報告書に書いてあったわ。
その後も二度も留年していて、その分貴方より歳上じゃないの!」

「……」

「伯爵領は海に面していて港を持っているわ。
港も航路も使えるのよ。
国内で需要が低迷してきた特産品を国外へ出せるの。
伯爵領は我が国うちと隣接してるし」

「国内の港を使えばいいじゃないですか」

「それができないのよ!
因縁があって犬猿の仲なのよ」

「そこまでですか」

「伯爵領にはうちで使いたい資源もあるし」

「政略結婚ですか」

「言われた通りになさい。
婚姻の日に公爵にしてあげるけど逃げられたら従兄弟に渡すわよ。失礼のないように迎えなさい」



そしで連絡が入った。

一年は喪に服し もう一年はやることがあるから、二年後ならと婚姻を受けるものだった。

母上は上機嫌だった。



二年後の婚姻前日の早朝。
王都の教会近くのホテルに滞在している令嬢を訪ねた。
ベール付きの帽子を被り髪をスカーフで隠していた。

醜女なのだろうと悟った。

「お前なんかと結婚したくなかった。妻の座はやるが何もするな」

「いいのですか?」

「俺には愛するトリシアがいる」

遠慮なく婚姻後の条件を伝えた。
娶ってもらえるだけでも有り難いだろう?という気持ちでいた。
社交もトリシアに行かせた方がいいな。
多分勃たないだろうから白い結婚で…などと思いながら要望を細かく伝えた。

「エリス。今の要望を契約書にして」

「かしこまりました」

「そこまでしなくても」

「政略結婚ですから必要です。言った言わないの押し問答もしたくありません。それにこちらも要望をお伝えいたします」

こうしてあの契約書が出来上がった。



そして式当日、彼女はあの契約書を持っていて教会に提出してしまった。
あれは書き写されて台帳に載り、原本は特別な箱にしまわれる。
本当かどうか分からないが、破れば神の鉄槌が降ると言い伝えられていた。

契約を守らなかった場合、相手からの離縁要求をのまねばならず、慰謝料も財産分与も発生する。
教会に契約書を提出したから逃れることはできない。

母上を見ると目が鋭い。
彼女の両親は無表情。

そしてベールを上げると美少女が俺を見上げた。

醜女じゃない!!

白く柔らかそうな肌、大きな瞳は琥珀色。髪はストロベリーブロンドだった。
小さな鼻に小さな艶めく唇。長い睫毛に小さな手。

トリシアは背が高くスレンダーで美人。彼女は逆で小柄で程良い肉付きがある。とても可愛かった。

式が終わるとサッサと俺から離れていった。
母上に挨拶をして、伯爵夫妻の元へ。

「アイリーン。ちょっとでも嫌な事があれば戻ってきなさい」

「そうよ。嫁になんて行かなくても良かったのに」

「それではオベール兄様のお嫁さんが可哀想ですから。
それに いい契約を結べましたので悠々自適な結婚生活になりそうです」

「だが、女連れじゃないか。ベロノワ家を馬鹿にしているのか?」

「私の心にはクリス様がいますから大丈夫です」

は? クリス? 誰だ!

胃や胸やらがムカムカとしてきた。

「ねえ、ハロルド」

「シッ!」

母上は俺を睨んでいたが、アイリーンが納得していると知り睨むのを止めた。

伯爵夫妻は帰国するようだ。

母上はこのまま領地へ向かう予定だ。


アイリーンが先に屋敷に向かってしまった。






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