【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

文字の大きさ
7 / 69

カトリス侯爵家

しおりを挟む
昼前に、ウィンター公爵家から遣いが来た。

「奥様 初めまして。メイドのピアと申します。
差し入れと、お約束のものをお届けに参りました」

溌剌とした若いメイドだった。

セイビアンが箱を確認するとお金だった。
ロザリーナが籠を確認すると料理だった。

「可愛い」

パンは動物型、野菜も型押しで星やハート型になっている。
タルトはフルーツで花の形にしてあった。

「料理人達が試行錯誤して作りました。私もクッキーに絵を彫りました」

そう言って指差したのは不思議な絵のクッキーだ。

「これがネコで、これはウサギ、これは犬です。
焼く前に彫ったんですよ」

「そ、そうなのね。
沢山あるからみんなで食べましょう。
お庭のテーブルを借りるから行きましょう」

箱を隠して施錠して、庭のテーブルに料理を並べてもらった。私達四人と、ピアと騎士達五名。
既に昼食を宿に頼んでいたので 合わせると量は十分だ。

みんな沢山食べてくれた。
ピアも“幸せですぅ~”と言いながら食べていた。

「それでは失礼いたします」

「ピア。お口を拭いてから帰りなさい」

口を拭いてあげると ピアは嬉しそうに微笑んだ。

「また来てもいいですか?」

「どうして?」

「楽しくて美味しいからです」

「いいわよ。明日は居ないから来ないでね」

「いらっしゃらないのですか?」

「先日お会いした侯爵夫人にお呼ばれしたの」

「そうですか。 
では明後日 参ります。
お好きなものはございますか?」

「鴨肉が美味しかったわ。
どれも美味しかったけど、野菜の包み焼きも良かったわ」

「良かったです。またクッキーを彫りますね」

「今度はお花を彫ってきて」

「お任せください!」

元気に帰っていった。


「ねえ、ロザリーナ。クッキーの絵、分かった?」

ロ「傑作過ぎて素人の私にはちょっと手に負えません」

セ「あどけない感じもありますが、しっかり情報を得ていきましたね」

エ「訪問の許可も取り付けていきましたね」

「でも、可愛いのよね。不思議だわ」



昼食後は宿代を1ヶ月分払って食事のグレードもあげてもらった。

侯爵夫人への手土産を調べに貴族街に向かった。
平民街に近い場所に素朴ながらもいい匂いをさせている店に入った。

「此処は店内で済ませるのかしら」

「お持ち帰りもできます」

「明日手土産を持って行きたいのだけど、向きそうなものを食べるから出してもらえるかしら」

「お席にご案内いたします」

飲み物を選んでいる間に見繕って来てくれた。

「こちらは木ノ実のチョコレートタルトで、こちらはベリー入りチーズタルトです。
そちらの焼き菓子は間にベリー、チョコレート、アンズのバタークリームを挟んでいます。
皆様で試食できるようにカットしますか?」

「お願いできるかしら」

接客も良し。

全員「……」

結局全部買うことにした。タルトも焼き菓子も十個ずつ。

宿の人達用にも手土産にした。

「美味しかったわ。ありがとう」


その後は貴族街と平民街の境に出す店を覗いて回った。
 
宿に帰り、宿屋の主人に手土産を渡した。

「美味しかったから買ってきたの。良かったら召し上がって」

「まあ!ありがとうございます!」


部屋に戻り夕食まで休んだ。

明日の衣装も選んだし。準備は完了ね。



翌日、カトリス家の馬車が迎えに来た。

「ようこそお越しくださいました、ウィンター公爵夫人」

「カトリス侯爵、カトリス侯爵夫人。お招きいただきありがとうございます」

「さあ、どうぞ応接間へご案内しますわ」


案内され、テーブルに手土産を置いた。

「勉強不足で申し訳ございません。この国のことも皆様のことも分からず、美味しいと感じたお菓子を買って参りました。
お屋敷の皆様でお召し上がりください」

「まあ、こんなに沢山。ありがとうございます」

「聞いたことのない店ですね」

「貴族街を少し見て、ちょうと平民街との境のお店からいい匂いがしましたので寄ってみましたの。
食べてみたら美味しくて」

「そうでしたか」

「食べてみてもいいでしょうか」

「ぜひ」

侯爵夫妻は焼き菓子を口に運んだ。

「美味しいわ!」

「美味いな」

「その後も貴族街と平民街の境目のお店を何軒かみましたが立地的に相応しいお店でしたわ」

「どういうことでしょう」

「平民に向けては少し高級、貴族に向けては平民の店と思われがちです。
そこで生き残れる店ですから実力があります」

「さすがベロノワ家のご令嬢」

「本当。長く住んでいるのに気が付きませんでしたわ。今度行ってみます」


「失礼します。ただいま戻りました」

「クリストファー。いらっしゃい。お客様にご挨拶をして」

「初めまして、長男のクリストファー・カトリ……」

少し長い沈黙の後、侯爵が咳払いをした。

「クリストファー。彼女は先日婚姻したアイリーン・ウィンター公爵夫人だ。

夫人。長男のクリストファーで今は学園に通う三年生です。
どうやら夫人に照れてしまったようで。

クリストファー、座りなさい」

それでも動かない長男を侯爵夫人が手を引いて座らせた。


そしてホテルで侯爵夫人に会った経緯やその後のことを話題に出した。

侯「信じられません。貴女にそのような事を」

「好都合ですわ。私は口減しに結婚しただけですから。喜んで白い結婚に名ばかりの妻を引き受けましたの」

夫人「あり得ないですわ!是非うちに滞在なさって」

「ご迷惑になりますわ。それに小さな旅宿ですけど素朴な良い宿で気に入っていますの。その内ウィンター公爵のお金でお家を借りますわ」

ク「可愛い」


昼食をご馳走になり、長いこと歓談をしていたら夕刻になっていた。

その頃には夫人と名前で呼び合うようになった。

「また直ぐにいらしてね」

「はい。お邪魔します」

「宿暮らしなんて心配だわ」

「大丈夫ですわ」

「僕が送ります」

「クリストファー。礼儀正しくな」

「分かっていますよ、父上」

そしてクリストファー様に宿まで送っていただいた。

「アイリーン様、土曜日に出かけませんか」

「え?」

「この国のこと、知らないことだらけでしょう。
僕が王都周辺を案内します」

「有難いお申し出ですが誤解を招きかねません。夫人がご一緒でしたら…でもそんなことに夫人を巻き込めませんし。クリストファー様のお気持ちだけ受け取らせてください」

クリストファーは私を馬車から降ろすと髪を一房取り口付けた。

「アイリーン様ほど可憐な方にお会いしたことがありません。土曜日の11時にお迎えにあがります」

「え?」

「では」

そうって馬車で戻っていった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」 平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。 セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。 結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。 夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。 セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。 夫には愛人がいた。 愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される… 誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

処理中です...