【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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枯れぬ涙

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セイビアンとロザリーナを連れて、迎えに来たカトリス侯爵家の馬車に乗った。
セイビアンは騎乗して後方からついてくる。
ロザリーナは馬車に同乗した。

「東側は美術館と歴史の展示場があるんです。
こちらの国のことはあまり知らないのですよね?

アイリーン様は…学校は?」

「一年で卒業しました。
祖国の学校は試験に受かれば進級したり卒業できます。
人脈や青春の謳歌を望んで多くの方が飛び級などはしませんが」

「レディに失礼なことを聞きますが、いくつですか?」

「クリストファー様のひとつ下です」

「それなのに婚姻を?」

「条件が揃えば誰でも良かったのです。
ある程度裕福な子爵家以上の家門で、あまり遠くなければ。
容姿も普通以上で清潔なら。

隣国とはいえ、ベロノワとウィンターの領地は近いです。間にひとつ別の領地を挟んでいるだけ。
王都もウィンター公爵領から近いですし。

当時の公爵夫人が是非にと仰って、婚姻まで二年待つと仰ってくださったので」

「二年?」

「婚約者が亡くなったので喪に服す一年と、学校を卒業するための一年です」

「婚約者とは上手くいっていたのですね」

「幼馴染だったんです。
ベロノワ領の一部の管理を任せている子爵家の長男で、歳上でした。

愛していました。

亡くなる半年前に病気が見つかって、治療法が無いと。

彼の屋敷に移り住み、寄り添いました。

彼は強い人で、弱音を吐きませんでした。
もしかしたら、私がいたせいで弱音を吐けなかったのかもしれません。

だけど、側に居なければ後悔すると思ったのです。
ちゃんと看取ることができました」

「彼は幸せでもあり心残りでもあったでしょうね。
こんなに可愛くて優しい婚約者を残して旅立たなくてはならなかったのだから。

アイリーン様は最高の婚約者だと、天国で自慢していますよ」

「そう…だといいです」

たくさん泣いて もう大丈夫だと思ったのに、涙が溢れ出てしまった。

「ごめん、余計な話を」

私はハンカチで目元を押さえ、首を振ることしか出来なかった。

結局涙が止まらず、馬車はカトリス侯爵邸に引き返した。



到着するなり使用人が慌てて屋敷の中へ。
そして出てきたのは侯爵夫人だった。

「クリストファー?どうしたの」

「それが……」

馬車の中で泣きじゃくる私を見て

「クリストファー!」

「違う!
違わないけど違います!」

「☆○%△@」

もはや言葉にならない私の代わりにロザリーナが説明をした。

「ある意味クリストファーのせいだわ。
ロザリーナ卿、アイリーン様をお連れしてくださるかしら」

「かしこまりました。アイリーン様、降りましょう」

応接間ではなく、客間に通された。

「特製ココアよ」

温かいココアには、多分 蜂蜜とシナモンが入っているようだ。

「美味しい」

「良かったわ」

飲み終わった後は目を冷やした。



二時間後。一階の居間に降りて、夫人とクリストファー様に挨拶をした。

「ありがとうございます。
ご迷惑をお掛けしました。

クリストファー様。せっかくお誘いいただいたのに申し訳ございません」

「こっちへいらして」

夫人の隣に座ると手を握られた。

「娘がいたら こんな感じなのかしら」

「え?」

「娘が欲しかったけど、二人目も息子だったの。
それ以上は産めなかったわ。
贅沢よね。健康な男児を産んで役割を果たしているのに」

「僕だって妹が欲しかったよ。まあ、ショーンも可愛いけど」

「……」

「アイリーン様は兄弟はいますか?」

「兄と弟がおります」

「まあ、素敵ね」

「どんな感じの兄弟ですか?」

「兄は一言で言うと切れ者です。
ベロノワ家の後継者として生まれたと言っても過言ではないほどです。

兄は人の嘘が見分けられます。
私の嘘は分かり過ぎるようで、鼻で笑われました。
だから嘘を吐かなくなりました。
嘘と言っても、クッキーを摘み食いしたかどうかとか、夜に兄様のベッドに忍び込むのはオバケが怖いからじゃないとか、些細な嘘でしたけど。

私が泣いていると必ず側に居て、泣き止むと話を聞いてくれました。

最後まで嫁に行かなくていいと言っていました。

兄は結婚して父の補佐をしています。

弟は一つしか違いませんがよく甘える子でした。
だけど婚約者を亡くして閉じこもっていたら、弟も一緒に閉じこもって ウジウジしてくれました。

一年もですよ?
一緒に半年閉じこもってウジウジして、残り半年閉じこもって猛勉強です。
その後はウジウジは止めて、学校から帰るとまた勉強。
弟のおかげで寂しくなく、勉強への意欲もなくなりませんでした。

今頃 学生生活を謳歌していると思います」

「素敵なご兄弟ですわ」

「そのままベロノワ家に残ることもできたのに」

「兄がお嫁さんを迎えて後を継ぐのに、私がずっといてはお嫁さんが気を悪くしますわ」

「今の婚姻生活を知ったら…」

「今のところ知らせるつもりはありません。
対処できていますから」

「ですが、」

「誰に嫁いだところで同じことです。
最愛の人はもういません。
後妻でも良かったのです。

ウィンター公爵は愛する女性がいて、私とは白い結婚のままでいいそうなので良かったです。

ですが、もしかしたら私を暗い闇から救い出してくれる方が現れるかもしれません。だから恋人を作ってみようと思います」

「離縁は?」

「都合のいい条件ですから、契約を守ってもらえるうちはこのままでいいのです」


たくさん話をして夕食をご馳走になってウィンター公爵邸に送ってもらった。








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