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契約は変えません
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湯浴み後の髪を乾かしてもらっていた。
「え? では、馬車に乗っただけだったのですね」
「そうなるわね。
だけど今度 カトリス家のお茶会に招待してくださって、カトリス家の知人の夜会に連れて行ってくださるの」
「夜会!? どちらのですか」
「ピオニー伯爵家だったしら」
「違います。ポートナー伯爵家です、アイリーン様」
「さすがロザリーナ」
「これで“さすが”を使われると後が詰まります」
「語彙を増やさないと。賞賛系のものをね」
「アイリーン様、同伴者は決まっているのですか」
「お茶会は一人でいいし、夜会はクリストファー様が付き添ってくださるから大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃないですよ!」
「ピア?」
「令息となんて危険です!
旦那様に依頼しましょう!」
「彼は紳士よ、公爵の方が大丈夫じゃないわ。
まあ、私は対象外らしいけど。
とにかくトリシア様に誤解をされたくないから公爵という選択肢は無いわ」
翌日。
「旦那様がお話があるそうです」
「応接間に向かうわ」
応接間で待つとすぐに公爵が入室した。
「アイリーン。今週末 母上が領地から出てくる。
その間は妻として公爵夫人として生活して欲しい。
多分 母上は茶会などに行くはずだ。俺達のことも連れて行くと思う」
「無理です」
「え?」
「そういう役目はトリシア様に命じてください」
「でも」
「契約違反です」
「……母上が何ておっしゃるか」
「契約違反になるから無理だと伝えるだけです」
「そ、それは困る」
「譲りません」
その後 数十分の攻防は平行線だった。
「公爵。時間の浪費です。
これは公爵の希望で成された契約ですよ?
都合に合わせてコロコロ変えられては困ります。
それに愛するトリシア様が可哀想ではありませんか。
当初の公爵のご希望通り、私は何も致しません」
「アイリーン…」
「では失礼しますね」
席を立ち、部屋に戻った。
エリスがお茶と手紙を持ってきた。
「お手紙です」
「ありがとう」
全て招待状だった。
「ピア。この4通は公爵同伴らしいから断ってちょうだい」
「…かしこまりました」
「エリス。こっちの1通は出席の返事を出すわ。
来週末の夜会ね。
日数からすると、カトリス夫人が出れそうな夜会を当たってくださったのね」
「ペンと便箋を用意します」
そして数日後。
「お疲れ様でございます、お義母様」
「アイリーン 不便は無いかしら」
「はい。ございません」
「茶会やパーティのお呼ばれに二人も同伴して欲しいのだけど、その前に。
不思議な噂が耳に入ったのよ。公爵夫人が宿暮らしとか恋人を探しているとか。
婚姻式、提出された契約書を確認しておくべきだったわ。
ハロルド。どういうことなの?」
「は、母上…あれは」
「私はアイリーンを正妻として迎え 大事にしなさいと言ったはずよ!」
「っ!」
「アイリーン、契約書は撤回させるから恋人探しは止めてちょうだい」
「それは離縁ということでよろしいでしょうか」
「え?」
「契約書の撤回はいたしません。公爵には忠実に守っていただきます。反故になさるなら離縁ということになります」
「そんな…」
「縁談をいただいた時は望まれた婚姻なのかと思っておりました。
ですが式の前日の朝に彼が突然現れて、妻にはするけど何もするな 口出しするな、ご自分には愛する女性がいるいて 彼女に跡継ぎを産んでもらうと仰ったのですよ?
申し訳ないという感じではなく、仕方なく私を娶るみたいな言動でした。
いくら何でも全て公爵の希望のみというのはベロノワ家を侮辱する行為ですから、こちらも希望を加えましたの」
「ハロルドを再教育するから、」
「式前日の朝8時あたりに先触れもなく突然現れて高圧的に仰ったのですよ?
きっと私を使用人かなにかのおつもりだったのでしょう。
何もするなと仰ったのでベロノワ家の繋がりも不要と解釈しました。
そして式当日は愛人をお連れになり、式後は屋敷に入れて貰えず王都の外れの旅宿に滞在することになりました。
屋敷に入れてもらえなかったのは元メイド長の独断だと伺いましたが、婚姻式に新郎が愛人と出向けば そう思っても仕方がないかと。
ぜひトリシア様への愛を貫いていただきたいですわ。身分差を超えた純愛を心より応援いたします。
ということで、社交もいたしません。
何もするな、トリシア様をパートナーにするという条件ですので、トリシア様を連れて行ってください」
「だけど、貴女が公爵夫人なのよ!?」
「肩書だけです。
それに私がパートナーになればトリシア様が可哀想ですわ。愛する殿方が他の女性をエスコートしてパーティや茶会に出席するなど、気分を害してしまわれます。私はその様なことは出来かねます。
王太子殿下のパーティに一度だけ彼と出席します。
婚姻後の挨拶が目的ということですので。
トリシア様は跡継ぎを産み、次期公爵の母となる方です。私よりトリシア様を呼んで家族で団欒なさってください。
では失礼いたします。
誰か、トリシア様を呼んで差し上げて」
「え? では、馬車に乗っただけだったのですね」
「そうなるわね。
だけど今度 カトリス家のお茶会に招待してくださって、カトリス家の知人の夜会に連れて行ってくださるの」
「夜会!? どちらのですか」
「ピオニー伯爵家だったしら」
「違います。ポートナー伯爵家です、アイリーン様」
「さすがロザリーナ」
「これで“さすが”を使われると後が詰まります」
「語彙を増やさないと。賞賛系のものをね」
「アイリーン様、同伴者は決まっているのですか」
「お茶会は一人でいいし、夜会はクリストファー様が付き添ってくださるから大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃないですよ!」
「ピア?」
「令息となんて危険です!
旦那様に依頼しましょう!」
「彼は紳士よ、公爵の方が大丈夫じゃないわ。
まあ、私は対象外らしいけど。
とにかくトリシア様に誤解をされたくないから公爵という選択肢は無いわ」
翌日。
「旦那様がお話があるそうです」
「応接間に向かうわ」
応接間で待つとすぐに公爵が入室した。
「アイリーン。今週末 母上が領地から出てくる。
その間は妻として公爵夫人として生活して欲しい。
多分 母上は茶会などに行くはずだ。俺達のことも連れて行くと思う」
「無理です」
「え?」
「そういう役目はトリシア様に命じてください」
「でも」
「契約違反です」
「……母上が何ておっしゃるか」
「契約違反になるから無理だと伝えるだけです」
「そ、それは困る」
「譲りません」
その後 数十分の攻防は平行線だった。
「公爵。時間の浪費です。
これは公爵の希望で成された契約ですよ?
都合に合わせてコロコロ変えられては困ります。
それに愛するトリシア様が可哀想ではありませんか。
当初の公爵のご希望通り、私は何も致しません」
「アイリーン…」
「では失礼しますね」
席を立ち、部屋に戻った。
エリスがお茶と手紙を持ってきた。
「お手紙です」
「ありがとう」
全て招待状だった。
「ピア。この4通は公爵同伴らしいから断ってちょうだい」
「…かしこまりました」
「エリス。こっちの1通は出席の返事を出すわ。
来週末の夜会ね。
日数からすると、カトリス夫人が出れそうな夜会を当たってくださったのね」
「ペンと便箋を用意します」
そして数日後。
「お疲れ様でございます、お義母様」
「アイリーン 不便は無いかしら」
「はい。ございません」
「茶会やパーティのお呼ばれに二人も同伴して欲しいのだけど、その前に。
不思議な噂が耳に入ったのよ。公爵夫人が宿暮らしとか恋人を探しているとか。
婚姻式、提出された契約書を確認しておくべきだったわ。
ハロルド。どういうことなの?」
「は、母上…あれは」
「私はアイリーンを正妻として迎え 大事にしなさいと言ったはずよ!」
「っ!」
「アイリーン、契約書は撤回させるから恋人探しは止めてちょうだい」
「それは離縁ということでよろしいでしょうか」
「え?」
「契約書の撤回はいたしません。公爵には忠実に守っていただきます。反故になさるなら離縁ということになります」
「そんな…」
「縁談をいただいた時は望まれた婚姻なのかと思っておりました。
ですが式の前日の朝に彼が突然現れて、妻にはするけど何もするな 口出しするな、ご自分には愛する女性がいるいて 彼女に跡継ぎを産んでもらうと仰ったのですよ?
申し訳ないという感じではなく、仕方なく私を娶るみたいな言動でした。
いくら何でも全て公爵の希望のみというのはベロノワ家を侮辱する行為ですから、こちらも希望を加えましたの」
「ハロルドを再教育するから、」
「式前日の朝8時あたりに先触れもなく突然現れて高圧的に仰ったのですよ?
きっと私を使用人かなにかのおつもりだったのでしょう。
何もするなと仰ったのでベロノワ家の繋がりも不要と解釈しました。
そして式当日は愛人をお連れになり、式後は屋敷に入れて貰えず王都の外れの旅宿に滞在することになりました。
屋敷に入れてもらえなかったのは元メイド長の独断だと伺いましたが、婚姻式に新郎が愛人と出向けば そう思っても仕方がないかと。
ぜひトリシア様への愛を貫いていただきたいですわ。身分差を超えた純愛を心より応援いたします。
ということで、社交もいたしません。
何もするな、トリシア様をパートナーにするという条件ですので、トリシア様を連れて行ってください」
「だけど、貴女が公爵夫人なのよ!?」
「肩書だけです。
それに私がパートナーになればトリシア様が可哀想ですわ。愛する殿方が他の女性をエスコートしてパーティや茶会に出席するなど、気分を害してしまわれます。私はその様なことは出来かねます。
王太子殿下のパーティに一度だけ彼と出席します。
婚姻後の挨拶が目的ということですので。
トリシア様は跡継ぎを産み、次期公爵の母となる方です。私よりトリシア様を呼んで家族で団欒なさってください。
では失礼いたします。
誰か、トリシア様を呼んで差し上げて」
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