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叱責
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【 ハロルドの視点 】
バン!
「なんて事をしてくれたの!!」
「っ!」
アイリーンが退室すると母上は恐ろしい形相でテーブルを叩いた。
「せっかくベロノワ家のご令嬢を迎えて、子を成せば親戚として船を使わせてもらえるよう頼めたのに、これがベロノワ家の耳に入れば逆に咎められるじゃないの!
貴族の義務を放棄して、そんなに伯爵令嬢より元子爵令嬢の平民を愛したいなら貴方も平民になれば良かったじゃないの!
アイリーンは一つも悪くないのに何故そんなに無礼に振る舞って傷付けることができるのよ!」
「……その点は反省しています。
ですが契約書にして教会に提出されてしまいましたし、アイリーンとの修復をはかろうにも全く受け入れてもらえないのです」
「契約書や教会への提出はアイリーンが?」
「俺の一方的な条件だけではなくアイリーン側も条件を加えたいと。そして違えることがないよう書面にしたいとその場で契約書を作り、俺に署名を求めました」
「さすがベロノワ家のご令嬢ね。
公爵家で育ったはずの貴方はどうしてこうなったのかしら」
「……」
「トリシアは?」
「マナーの講師が来ています」
「先ずは講師だけを呼んでちょうだい」
マナー講師は入室すると母上に挨拶をした。
「先生。トリシアを教えてどのくらいですか」
「7回目で、合わせて14時間です」
「それで、トリシアはどの様な感じかしら」
「……トリシア様は、」
「正直な評価が欲しいの。遠慮なく言ってちょうだい」
「では。
元子爵家のご令嬢で学園卒と事前にお伺いしておりましたが、裕福な平民程度です。
これまで家庭教師はついたことはなく、ご両親が時々注意しながら教えていたようです。
但し、多忙なご両親だったようで “スープは音を立てない”とか、“カトラリーの使い方や落としたら自分で拾わない”程度の注意をされただけのようです。
後は見様見真似でやり過ごしてきたようですが、恐らく学園では浮いていたのでしょう。茶会に呼ばれたことはほぼ無いようです」
「はぁ…。見込みはどうかしら」
「まだ音を立てずにカップを置くことができません。
姿勢の悪さもなかなかなおりません。
子供の頃ならば大抵は矯正しやすいのですが、ここまで年月が経つと身体に染み付いていて矯正が難しいのです。
例えて言うならば、幼木であれば添え木で傾く事を防げますが、曲がった成木に今更添え木をしたところであまり意味を成しません。
トリシア様は人間ですから、気を緩めることなく何年も努力すれば身につくかもしれませんが、“貴族令嬢”と呼べる程になるには…いつになるか分かりません。達成しないことも十分にあり得ます」
「ではお茶会に出すのは危険ね?」
「はい。
実際にこれからここでティータイムにお誘いしては如何でしょう」
「そうするわ。
今日のお菓子は何かしら」
母上がメイドに尋ねた。
「タルトでございます」
「お茶の用意をお願い。
カップは練習用にしてちょうだい。
それとトリシアを呼んで来て」
「かしこまりました」
「あの、大奥様。 トリシア様にはタルトはまだ…」
「そうね。だけど他家に菓子の指定はできないもの。知っておきたいの」
トリシアは入室するなり、
「お義母様っ お誘いありがとうございますぅ」
「……座ってちょうだい」
「はぁい」
トリシアは下座ではなく俺の隣に座った。
メイドがお茶を注ぐと我先に手を付けた。
そして、
ガチャン!
「熱っ!」
倒れはしなかったが、カップをソーサーの上に落として茶がこぼれた。
カップは少し大きめで口が広く 持ち手が小さい。
普通のよりも少しだけ重くなるし、口が広いからこぼれやすい。そして持ち手が小さいから掴み難く、トリシアのような未熟な者は維持出来ずカップを落とすなりこぼすなりしてしまうのだ。
俺も子供の頃、このカップで練習させられた。
メイドがトリシアの分を片付けて、新たにお茶を淹れようとした。
「あの、違う種類のカップでだしてくれる?」
「……かしこまりました」
サイズは少し小さくなった。だがさっきよりも口が広がり持ち手が特殊な形をしていた。
ビチャッ
「熱っ!!」
今度は自分の腿の上にカップを落とし、溢してしまった。
「何でこんなカップばかり持ってくるのよ!
いつものがあるでしょう!」
メイドが慌てて拭くものを渡すが、立ち上がってドレスを振った。
そのせいでドレスに溢れた茶が俺達に飛んでくる。
母上のドレスはシミが目立つものだった。
「……火傷がないか見てあげて。
トリシア。部屋に戻っていいわ」
トリシアはメイドにブツブツ言いながら挨拶もせず無作法に退室した。
「時間の無駄のような気もするけど、この屋敷に置くなら続けないとならないわね。
ハロルド。トリシアの授業を一緒に受けなさい」
「え!?」
「よくその目で見届けなさい」
「しかし、」
「先生。今日はもう結構ですわ。
お召し物を汚してしまったから、弁償します。
とんでもない相手に授業をさせてしまって…もし辞めたい場合は遠慮なく教えてくださる?」
マナー講師が帰ると母上は話の続きを始めた。
「貴方の愛人じゃないの。その目で見届けなさい。
社交に連れて行くのよね?
お食事会となれば失笑されて呼ばれなくなるわね。
王宮主催パーティやお茶会は?
それに跡継ぎを産ませるのでしょう?
アレのもとに産まれてきた子はどんな風に育つのかしら。母親がアレだと知れたら他の貴族の子から虐められるかも知れないわね」
「アイリーンを説得します」
「無理だと思うわよ?既に離縁をチラつかせたじゃないの。
ウィンター公爵家は貴方の代で地に落ちそうね。
もういいわ」
母上は退室してしまった。
バン!
「なんて事をしてくれたの!!」
「っ!」
アイリーンが退室すると母上は恐ろしい形相でテーブルを叩いた。
「せっかくベロノワ家のご令嬢を迎えて、子を成せば親戚として船を使わせてもらえるよう頼めたのに、これがベロノワ家の耳に入れば逆に咎められるじゃないの!
貴族の義務を放棄して、そんなに伯爵令嬢より元子爵令嬢の平民を愛したいなら貴方も平民になれば良かったじゃないの!
アイリーンは一つも悪くないのに何故そんなに無礼に振る舞って傷付けることができるのよ!」
「……その点は反省しています。
ですが契約書にして教会に提出されてしまいましたし、アイリーンとの修復をはかろうにも全く受け入れてもらえないのです」
「契約書や教会への提出はアイリーンが?」
「俺の一方的な条件だけではなくアイリーン側も条件を加えたいと。そして違えることがないよう書面にしたいとその場で契約書を作り、俺に署名を求めました」
「さすがベロノワ家のご令嬢ね。
公爵家で育ったはずの貴方はどうしてこうなったのかしら」
「……」
「トリシアは?」
「マナーの講師が来ています」
「先ずは講師だけを呼んでちょうだい」
マナー講師は入室すると母上に挨拶をした。
「先生。トリシアを教えてどのくらいですか」
「7回目で、合わせて14時間です」
「それで、トリシアはどの様な感じかしら」
「……トリシア様は、」
「正直な評価が欲しいの。遠慮なく言ってちょうだい」
「では。
元子爵家のご令嬢で学園卒と事前にお伺いしておりましたが、裕福な平民程度です。
これまで家庭教師はついたことはなく、ご両親が時々注意しながら教えていたようです。
但し、多忙なご両親だったようで “スープは音を立てない”とか、“カトラリーの使い方や落としたら自分で拾わない”程度の注意をされただけのようです。
後は見様見真似でやり過ごしてきたようですが、恐らく学園では浮いていたのでしょう。茶会に呼ばれたことはほぼ無いようです」
「はぁ…。見込みはどうかしら」
「まだ音を立てずにカップを置くことができません。
姿勢の悪さもなかなかなおりません。
子供の頃ならば大抵は矯正しやすいのですが、ここまで年月が経つと身体に染み付いていて矯正が難しいのです。
例えて言うならば、幼木であれば添え木で傾く事を防げますが、曲がった成木に今更添え木をしたところであまり意味を成しません。
トリシア様は人間ですから、気を緩めることなく何年も努力すれば身につくかもしれませんが、“貴族令嬢”と呼べる程になるには…いつになるか分かりません。達成しないことも十分にあり得ます」
「ではお茶会に出すのは危険ね?」
「はい。
実際にこれからここでティータイムにお誘いしては如何でしょう」
「そうするわ。
今日のお菓子は何かしら」
母上がメイドに尋ねた。
「タルトでございます」
「お茶の用意をお願い。
カップは練習用にしてちょうだい。
それとトリシアを呼んで来て」
「かしこまりました」
「あの、大奥様。 トリシア様にはタルトはまだ…」
「そうね。だけど他家に菓子の指定はできないもの。知っておきたいの」
トリシアは入室するなり、
「お義母様っ お誘いありがとうございますぅ」
「……座ってちょうだい」
「はぁい」
トリシアは下座ではなく俺の隣に座った。
メイドがお茶を注ぐと我先に手を付けた。
そして、
ガチャン!
「熱っ!」
倒れはしなかったが、カップをソーサーの上に落として茶がこぼれた。
カップは少し大きめで口が広く 持ち手が小さい。
普通のよりも少しだけ重くなるし、口が広いからこぼれやすい。そして持ち手が小さいから掴み難く、トリシアのような未熟な者は維持出来ずカップを落とすなりこぼすなりしてしまうのだ。
俺も子供の頃、このカップで練習させられた。
メイドがトリシアの分を片付けて、新たにお茶を淹れようとした。
「あの、違う種類のカップでだしてくれる?」
「……かしこまりました」
サイズは少し小さくなった。だがさっきよりも口が広がり持ち手が特殊な形をしていた。
ビチャッ
「熱っ!!」
今度は自分の腿の上にカップを落とし、溢してしまった。
「何でこんなカップばかり持ってくるのよ!
いつものがあるでしょう!」
メイドが慌てて拭くものを渡すが、立ち上がってドレスを振った。
そのせいでドレスに溢れた茶が俺達に飛んでくる。
母上のドレスはシミが目立つものだった。
「……火傷がないか見てあげて。
トリシア。部屋に戻っていいわ」
トリシアはメイドにブツブツ言いながら挨拶もせず無作法に退室した。
「時間の無駄のような気もするけど、この屋敷に置くなら続けないとならないわね。
ハロルド。トリシアの授業を一緒に受けなさい」
「え!?」
「よくその目で見届けなさい」
「しかし、」
「先生。今日はもう結構ですわ。
お召し物を汚してしまったから、弁償します。
とんでもない相手に授業をさせてしまって…もし辞めたい場合は遠慮なく教えてくださる?」
マナー講師が帰ると母上は話の続きを始めた。
「貴方の愛人じゃないの。その目で見届けなさい。
社交に連れて行くのよね?
お食事会となれば失笑されて呼ばれなくなるわね。
王宮主催パーティやお茶会は?
それに跡継ぎを産ませるのでしょう?
アレのもとに産まれてきた子はどんな風に育つのかしら。母親がアレだと知れたら他の貴族の子から虐められるかも知れないわね」
「アイリーンを説得します」
「無理だと思うわよ?既に離縁をチラつかせたじゃないの。
ウィンター公爵家は貴方の代で地に落ちそうね。
もういいわ」
母上は退室してしまった。
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