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友人になろう
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パーティの翌日、昼食前に庭に出ようとしたところ、一階の食堂から揉める声が聞こえた。
「お前はどうして目上の者や格上の者達の会話に割って入るんだ!知り合いならともかく初対面だったろう!」
「話さなければ社交なんてできませんし仲良くもなれません」
「マナーとかルールとかいう言葉を知らないのか!」
「王族に話しかけたんじゃないんだから」
「カーテシーはもっと腰を落とせ」
「あれ以上はバランス崩すもの」
「立食にも手を付ける順番とか、様々なマナーがあるんだ。
山のように乗せた挙句に 盛り過ぎてドレスや床にこぼしたり、一度取ったものを やっぱり要らないと大皿に戻したり。非常識にも程がある!」
うわぁ
「ちょっと乗せ過ぎちゃって、多くて残した分は口を付けてないからいいかなって」
「改めて思ったよ。子爵家を救えなくて良かったよ。
その様な教育しか出来ないから没落したんだろう」
「酷い!」
確かにとんでもないマナー違反だけど、言い過ぎだわ。
だけど口出しせず、トリシア様に接触しない約束だから間に入ってあげられない。
庭に出て花などを見ているとセルビアンが報告に来た。
「(調査が入っているみたいですね。
昨日の夜から張り込みが付いて、今朝からは使用人に話を聞いている者がいます。
雰囲気で言えば民間じゃなさそうですね)」
「そう」
「(対象はウィンター公爵家なのか、個人なのか)」
「私は困ることはないからいいわ」
部屋に戻る時も、二人はまだ揉めていた。
「パーティのためのドレスがいくら掛かっているのか知ってるのか?平民の何年分の収入だと思う?
大金をかけてウィンター公爵家の品位を落としてどうするつもりなんだ!」
「私は昔からこのままじゃない!
“ありのままの君を愛してる”って言ったくせに!」
はぁ。
部屋に戻ろうとした時に後ろから声がした。
「これじゃ気分悪くなるな」
振り向くとローランド王子殿下が立っていた。
執事が困った顔をしている。
仕方なく彼に頼んだ。
「ここから離れた応接間なり、殿下をお通しできるお部屋に案内してくださる?」
「かしこまりました」
三階に登り案内された。
「客間付きの応接間になります」
「こんな部屋があったのね」
「お茶をご用意いたします」
執事が退室し、セイビアンとロザリーナが立つ。
殿下の側にも彼が連れてきた護衛が一人立った。
「それで?もしかして御用は公爵の方でしたか?」
「いや。君に会いに来た」
「何用でしょうか」
「私はアイリーンより一つ上で学園に通っている。
毎日通う必要はなく、試験さえ通ればいい。
剣は王子として習ったが役に立つ程の実力は無い。弓の方がまだいい。馬も乗れる。
恋人はいたことは無い。婚約者もいない。
王太子妃が男児を産むか、他の妃を迎えて男児を産ませれば、私も婚約することになる。
兄達のような優秀さはない。
というか、望まれていない。
本気で何かしても“王位を狙っているのか”と思われて婿に出されるか病にかかる。
ベロノワ伯爵家がどう有益なのか どう凄いのか知らない。だが君を見て思う。友人になれそうだなって」
「……」
真剣な顔に見える。お兄様なら見抜けるのかしら。
天国へ行ってしまったクリスは、お兄様が合格を出した数少ない人だった。
常に嘘偽りがなく、心配なほどに誠実で。婚約もお兄様が決めた事だった。
“クリスは必ずアイリーンの素敵な王子様になるよ”
「アイリーン?…何か気に障るようなことを言ってしまったか?」
「いえ。
私と友人ですか?私は伯爵家の出ですし、王族と友人になれるのか不安ですが。
従者ではなくて友人ですよね?」
「そうだ」
「なら、不敬という言葉は封印してもらいます。
いいですか?」
「分かった」
「殿下に友人はいらっしゃいますか?
特に女性の友人です」
「一人いるが……“殿下”ではなく“ローランド”と呼んでくれ」
「ではローランド様。取り決めをしましょう」
「友人関係に取り決めが必要か?」
「身分差と同性ではないことと、私は一応人妻ですから」
「その人妻という響きは気に入らないな」
「何で気に入らないんですか?」
「さぁな」
「絶対に取り決めが必要ですね。互いの要望を告げましょう」
「友情に契約か」
「まだ友人ではありませんし、友情の一雫もありませんよ?
婚前契約書を作ったから今こうしていられるんです」
「分かったよ」
10分後。
「よし、これでいいですね」
「本当にこれでいいのか?」
「どうしてですか?」
「王族の友人だぞ?」
「貴方の友情とは何なのですか?」
「……署名しよう」
写しにも二人で署名してそれぞれ保管することになった。
「よし。ロラン」
「え?」
「ローランドじゃ長いし。友達だから敬語も無し」
「じゃあ…アイリーン……アイリ」
「よろしくね。で、どうする?」
「え?」
「友達なんでしょ?
まだ玩具にしようと思っているなら報復しますからね」
「分かってるよ。今暇か?」
「これから昼食なの」
「じゃあ一緒に」
「お城じゃないんだから突然来ても無いわよ。
仕方ない。半分こね」
そのまま昼食を半分こして、その後 街に出かけてカフェに行き、夕刻まで街を案内してくれた。
一軒毎に時間をかけて見る私に根気強く付き合ってくれた。
「送ってくれてありがとう」
「またな」
「ロラン」
「ん?」
「次は貴方に付き合うわ」
「それは良かった」
翌日、その言葉を使ったことを後悔した。
~友人関係に伴う約束事~
名前で呼ぶ
利用しない
不敬罪の使用禁止
陰口を言わない
助け合う
顔を合わせたら挨拶
好きな人ができたら申告
「お前はどうして目上の者や格上の者達の会話に割って入るんだ!知り合いならともかく初対面だったろう!」
「話さなければ社交なんてできませんし仲良くもなれません」
「マナーとかルールとかいう言葉を知らないのか!」
「王族に話しかけたんじゃないんだから」
「カーテシーはもっと腰を落とせ」
「あれ以上はバランス崩すもの」
「立食にも手を付ける順番とか、様々なマナーがあるんだ。
山のように乗せた挙句に 盛り過ぎてドレスや床にこぼしたり、一度取ったものを やっぱり要らないと大皿に戻したり。非常識にも程がある!」
うわぁ
「ちょっと乗せ過ぎちゃって、多くて残した分は口を付けてないからいいかなって」
「改めて思ったよ。子爵家を救えなくて良かったよ。
その様な教育しか出来ないから没落したんだろう」
「酷い!」
確かにとんでもないマナー違反だけど、言い過ぎだわ。
だけど口出しせず、トリシア様に接触しない約束だから間に入ってあげられない。
庭に出て花などを見ているとセルビアンが報告に来た。
「(調査が入っているみたいですね。
昨日の夜から張り込みが付いて、今朝からは使用人に話を聞いている者がいます。
雰囲気で言えば民間じゃなさそうですね)」
「そう」
「(対象はウィンター公爵家なのか、個人なのか)」
「私は困ることはないからいいわ」
部屋に戻る時も、二人はまだ揉めていた。
「パーティのためのドレスがいくら掛かっているのか知ってるのか?平民の何年分の収入だと思う?
大金をかけてウィンター公爵家の品位を落としてどうするつもりなんだ!」
「私は昔からこのままじゃない!
“ありのままの君を愛してる”って言ったくせに!」
はぁ。
部屋に戻ろうとした時に後ろから声がした。
「これじゃ気分悪くなるな」
振り向くとローランド王子殿下が立っていた。
執事が困った顔をしている。
仕方なく彼に頼んだ。
「ここから離れた応接間なり、殿下をお通しできるお部屋に案内してくださる?」
「かしこまりました」
三階に登り案内された。
「客間付きの応接間になります」
「こんな部屋があったのね」
「お茶をご用意いたします」
執事が退室し、セイビアンとロザリーナが立つ。
殿下の側にも彼が連れてきた護衛が一人立った。
「それで?もしかして御用は公爵の方でしたか?」
「いや。君に会いに来た」
「何用でしょうか」
「私はアイリーンより一つ上で学園に通っている。
毎日通う必要はなく、試験さえ通ればいい。
剣は王子として習ったが役に立つ程の実力は無い。弓の方がまだいい。馬も乗れる。
恋人はいたことは無い。婚約者もいない。
王太子妃が男児を産むか、他の妃を迎えて男児を産ませれば、私も婚約することになる。
兄達のような優秀さはない。
というか、望まれていない。
本気で何かしても“王位を狙っているのか”と思われて婿に出されるか病にかかる。
ベロノワ伯爵家がどう有益なのか どう凄いのか知らない。だが君を見て思う。友人になれそうだなって」
「……」
真剣な顔に見える。お兄様なら見抜けるのかしら。
天国へ行ってしまったクリスは、お兄様が合格を出した数少ない人だった。
常に嘘偽りがなく、心配なほどに誠実で。婚約もお兄様が決めた事だった。
“クリスは必ずアイリーンの素敵な王子様になるよ”
「アイリーン?…何か気に障るようなことを言ってしまったか?」
「いえ。
私と友人ですか?私は伯爵家の出ですし、王族と友人になれるのか不安ですが。
従者ではなくて友人ですよね?」
「そうだ」
「なら、不敬という言葉は封印してもらいます。
いいですか?」
「分かった」
「殿下に友人はいらっしゃいますか?
特に女性の友人です」
「一人いるが……“殿下”ではなく“ローランド”と呼んでくれ」
「ではローランド様。取り決めをしましょう」
「友人関係に取り決めが必要か?」
「身分差と同性ではないことと、私は一応人妻ですから」
「その人妻という響きは気に入らないな」
「何で気に入らないんですか?」
「さぁな」
「絶対に取り決めが必要ですね。互いの要望を告げましょう」
「友情に契約か」
「まだ友人ではありませんし、友情の一雫もありませんよ?
婚前契約書を作ったから今こうしていられるんです」
「分かったよ」
10分後。
「よし、これでいいですね」
「本当にこれでいいのか?」
「どうしてですか?」
「王族の友人だぞ?」
「貴方の友情とは何なのですか?」
「……署名しよう」
写しにも二人で署名してそれぞれ保管することになった。
「よし。ロラン」
「え?」
「ローランドじゃ長いし。友達だから敬語も無し」
「じゃあ…アイリーン……アイリ」
「よろしくね。で、どうする?」
「え?」
「友達なんでしょ?
まだ玩具にしようと思っているなら報復しますからね」
「分かってるよ。今暇か?」
「これから昼食なの」
「じゃあ一緒に」
「お城じゃないんだから突然来ても無いわよ。
仕方ない。半分こね」
そのまま昼食を半分こして、その後 街に出かけてカフェに行き、夕刻まで街を案内してくれた。
一軒毎に時間をかけて見る私に根気強く付き合ってくれた。
「送ってくれてありがとう」
「またな」
「ロラン」
「ん?」
「次は貴方に付き合うわ」
「それは良かった」
翌日、その言葉を使ったことを後悔した。
~友人関係に伴う約束事~
名前で呼ぶ
利用しない
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