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各々 /ハロルド&トリシア
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【 ハロルド・ウィンターの視点 】
急にアイリーンの兄君が現れた。
アイリーンが頑なに心を開かないので、彼と仲良くなることで取っ掛かりにしようと思った。
だけど彼はアイリーン以外は興味ないといった感じで俺を相手にしない。
俺より2つ歳上と聞いていた。
彼は伯爵家、俺は公爵家。爵位だけなら俺の方が格上なのに一瞬にして自分の方が格下かと思うほど彼は威圧を放つ。何か言ったわけでもないのに全身から感じた。
それは国王陛下や王太子殿下とは種類が違う。
そしてアイリーンを連れてホテルへ行ってしまった。アイリーンが側に置いているエリス達も一緒だが、ピアは置いて行かれて情報が入ってこない。
まさかと思いピアに部屋を確認させたが、ちゃんと荷物は残っているという。
後から来た弟君は一見人懐こそうな外見をしているが目の奥が全く笑っていない。
顔が似ていなければアイリーンの兄弟とは思えないほどだ。
彼らがホテル滞在を初めて3日後。
「旦那様、エストワールのオーナーがお会いしたいと面会願いが届きました」
「エストワール?」
王都で一番のホテルのオーナーが何の用だ?
今日でも明日でもいいと返事を出させたらすぐに屋敷にやってきた。
「申し訳ございませんでした!!」
オーナーと支配人が応接間で土下座をしながら謝罪を始めた。
「ウィンター公爵夫人にお目通りさせてくださいっ」
「あの時の受付嬢はクビにしましたからっ
どうかっ どうかお怒りをおさめてくださいませんかっ」
そういえば婚姻式の後にメイド長がしでかして、アイリーン達はホテルに行ったけど泊めて貰えず王都の外れの旅宿に泊まっていたな。
アイリーンには謝っていなかったのか。
「何故今頃?とにかく妻は不在です。
後数日は帰ってきません」
オーナー達が帰った後、侍従がホテルの様子を見に行った。
「旦那様。
エストワールはキャンセルが相次いで、それとは対照的にエストワールの側にあるホテル・エスポワが繁盛しているようです。
エトワールから出て来た宿泊客に聞いたら、“ベロノワがエストワールよりもエスポワを推している”という噂を聞いたとか」
ベロノワ家の制裁に遭ったということか。
招待状を手に取ると、溜息が出る。
婚姻後トリシアを伴っていくつかパーティや夜会に出席したが、割と直ぐに宛名がアイリーン宛に変わった。
アイリーン宛に、俺とアイリーンの名が記された招待状。だからアイリーンはピアに渡し 自分は行かないからと告げる。
これはトリシアを連れてくるなという意味だろう。
仕方なく一人で出向くと目ががっかりしているのが分かる。
相変わらずアイリーンは恋人探しに出掛けている。
アイリーンと食事をしたり、デートしたり、社交に出たり、体を繋げて朝を迎えたりしたいのに叶わない。
トリシアは多少 マナー教育の成果が出てきたが、まだまだ社交に出せる域ではない。
母上からは跡継ぎの催促の手紙が送られてくる。
だけどトリシアを孕ませたらアイリーンとの関係は絶望的だろう。
それに…婚姻後はトリシアの口しか使っていなかったが、もう今ではソレさえ使っていない。
トリシアを使うとアイリーンに知られ、俺が慕っていると言っても信じてもらえない。
だけど俺は男だ。
だから社交だと言って週に一度娼館に行くようになった。
虚しい。
【 トリシアの視点 】
こんなことならハロルドを誘惑するんじゃなかった。
公爵家じゃなくて金持ちの男爵家の方が煩くなかったかもしれない。
終にハロルドからは体も口も求められなくなった。
娼館に通い出したのは知っている。
社交に出たはずのハロルドから香油の香りがするからだ。
貴族との一夜なら前戯で十分。
香油を使うのは経験の浅い女相手か、加齢で潤い不足の女相手か、娼婦だ。
週に一度同じ香油の香りということは娼婦なのだろう。
もう潮時は過ぎた。
だけど平民となった私に招待状など届かないから出会いを求めることができない。
ハロルドの愛人と知れ渡り、声もかけられない。
一人ではとても生きていけない。
残るは平民の男を捕まえて……だけど平民の暮らしは耐えられない。汚物の処理から掃除洗濯、水汲みに湯沸かし 料理に買い物、夫の夜の相手に子育て、下手をすれば義父母の介護に、賃金を求めて仕事探し。
絶対に嫌だ!
アイリーンとの婚姻が無ければ。
いっそのこと出ていくように仕向けようと思っても私達は顔を合わすことさえ許されていない。
お茶に誘いたいと言った時は叱られた。
メイド達が偶然を装って接触することさえ阻んでいる。
こうなったら毒でもと思ったこともあったが、近寄れないので無理だった。
代わりにやってくれるメイドをと思ったが全く釣れる様子がない。
寧ろ使用人達全員がアイリーンに好意的だった。
とにかく孕めば…
ハロルドを酩酊させる?
でも勃たなければ意味がない。
媚薬など手に入るの?
備品庫の中の薬品棚を漁ることにした。
急にアイリーンの兄君が現れた。
アイリーンが頑なに心を開かないので、彼と仲良くなることで取っ掛かりにしようと思った。
だけど彼はアイリーン以外は興味ないといった感じで俺を相手にしない。
俺より2つ歳上と聞いていた。
彼は伯爵家、俺は公爵家。爵位だけなら俺の方が格上なのに一瞬にして自分の方が格下かと思うほど彼は威圧を放つ。何か言ったわけでもないのに全身から感じた。
それは国王陛下や王太子殿下とは種類が違う。
そしてアイリーンを連れてホテルへ行ってしまった。アイリーンが側に置いているエリス達も一緒だが、ピアは置いて行かれて情報が入ってこない。
まさかと思いピアに部屋を確認させたが、ちゃんと荷物は残っているという。
後から来た弟君は一見人懐こそうな外見をしているが目の奥が全く笑っていない。
顔が似ていなければアイリーンの兄弟とは思えないほどだ。
彼らがホテル滞在を初めて3日後。
「旦那様、エストワールのオーナーがお会いしたいと面会願いが届きました」
「エストワール?」
王都で一番のホテルのオーナーが何の用だ?
今日でも明日でもいいと返事を出させたらすぐに屋敷にやってきた。
「申し訳ございませんでした!!」
オーナーと支配人が応接間で土下座をしながら謝罪を始めた。
「ウィンター公爵夫人にお目通りさせてくださいっ」
「あの時の受付嬢はクビにしましたからっ
どうかっ どうかお怒りをおさめてくださいませんかっ」
そういえば婚姻式の後にメイド長がしでかして、アイリーン達はホテルに行ったけど泊めて貰えず王都の外れの旅宿に泊まっていたな。
アイリーンには謝っていなかったのか。
「何故今頃?とにかく妻は不在です。
後数日は帰ってきません」
オーナー達が帰った後、侍従がホテルの様子を見に行った。
「旦那様。
エストワールはキャンセルが相次いで、それとは対照的にエストワールの側にあるホテル・エスポワが繁盛しているようです。
エトワールから出て来た宿泊客に聞いたら、“ベロノワがエストワールよりもエスポワを推している”という噂を聞いたとか」
ベロノワ家の制裁に遭ったということか。
招待状を手に取ると、溜息が出る。
婚姻後トリシアを伴っていくつかパーティや夜会に出席したが、割と直ぐに宛名がアイリーン宛に変わった。
アイリーン宛に、俺とアイリーンの名が記された招待状。だからアイリーンはピアに渡し 自分は行かないからと告げる。
これはトリシアを連れてくるなという意味だろう。
仕方なく一人で出向くと目ががっかりしているのが分かる。
相変わらずアイリーンは恋人探しに出掛けている。
アイリーンと食事をしたり、デートしたり、社交に出たり、体を繋げて朝を迎えたりしたいのに叶わない。
トリシアは多少 マナー教育の成果が出てきたが、まだまだ社交に出せる域ではない。
母上からは跡継ぎの催促の手紙が送られてくる。
だけどトリシアを孕ませたらアイリーンとの関係は絶望的だろう。
それに…婚姻後はトリシアの口しか使っていなかったが、もう今ではソレさえ使っていない。
トリシアを使うとアイリーンに知られ、俺が慕っていると言っても信じてもらえない。
だけど俺は男だ。
だから社交だと言って週に一度娼館に行くようになった。
虚しい。
【 トリシアの視点 】
こんなことならハロルドを誘惑するんじゃなかった。
公爵家じゃなくて金持ちの男爵家の方が煩くなかったかもしれない。
終にハロルドからは体も口も求められなくなった。
娼館に通い出したのは知っている。
社交に出たはずのハロルドから香油の香りがするからだ。
貴族との一夜なら前戯で十分。
香油を使うのは経験の浅い女相手か、加齢で潤い不足の女相手か、娼婦だ。
週に一度同じ香油の香りということは娼婦なのだろう。
もう潮時は過ぎた。
だけど平民となった私に招待状など届かないから出会いを求めることができない。
ハロルドの愛人と知れ渡り、声もかけられない。
一人ではとても生きていけない。
残るは平民の男を捕まえて……だけど平民の暮らしは耐えられない。汚物の処理から掃除洗濯、水汲みに湯沸かし 料理に買い物、夫の夜の相手に子育て、下手をすれば義父母の介護に、賃金を求めて仕事探し。
絶対に嫌だ!
アイリーンとの婚姻が無ければ。
いっそのこと出ていくように仕向けようと思っても私達は顔を合わすことさえ許されていない。
お茶に誘いたいと言った時は叱られた。
メイド達が偶然を装って接触することさえ阻んでいる。
こうなったら毒でもと思ったこともあったが、近寄れないので無理だった。
代わりにやってくれるメイドをと思ったが全く釣れる様子がない。
寧ろ使用人達全員がアイリーンに好意的だった。
とにかく孕めば…
ハロルドを酩酊させる?
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媚薬など手に入るの?
備品庫の中の薬品棚を漁ることにした。
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