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ベロノワ伯爵邸
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国境に到着すると既にジュエルが迎えに来ていた。
「姉上~!」
大慌てで兵士達が私達を審査待ちの車列から出した。
ゲートを抜けてベロノワ領に足を踏み入れた瞬間 涙が出てきてジュエルに抱きついた。
「姉上!? どうしたの!」
「嫌なことがあったの」
「誰? 名前だけ言ってくれたら片付けるよ」
「ジュエルったら」
ジュエルを見上げると優しい笑顔が向けられていて安心してまた抱きついて、ジュエルの胸に顔を埋めた。
懐かしい匂いにホッとする。
だがセイビアンとロザリーナには緊張が走った。
ジュエルの笑顔は顔を向けたアイリーンにだけで、アイリーンが抱きついて見ていないと殺気立った顔で“どういうことだ?”と無言の尋問を始めていたからだ。
慌ててエリスが間に入った。
「公爵様が契約を反故にして、予算も渡してるのだから アイリーン様に妻の勤めを果たせと……閨に上がるよう強要なさったのです」
「は? 白い結婚も何もしなくていいのも公爵の希望だろう」
「その通りなのですが、ずっと契約を白紙にしたかった公爵様は、長期の里帰りを希望なさったアイリーン様に苛立たれて」
「分かった。
姉上。辛かっただろう?」
「……うん」
「怖かったな。僕がいるから大丈夫だよ。指一本触れさせない」
「ありがとうジュエル。情けない姉でごめんね」
「そんなこと言わないで。姉上は女の子で僕たちの天使なんだから守られていればいいんだよ」
気分転換にとジュエルの馬に乗せてもらった。
「姉上、あの木前より伸びたよね」
「まだ半年よ?分からないわ」
「半年がどれだけ長かったか。僕がどれだけ寂しかったか知らないんでしょう」
部下達は馬に乗りながら激しく頷いていた。
兄弟の寂しさの解消の矛先は……彼らだからだ。
「私だって寂しかったわ。だから耐え切れずに里帰りを言い出したのよ」
「そっか。僕がずっと一緒にいるからね」
「学校は?」
「ああ、そんなものはどうでもいいよ」
「よくない」
「いつでも卒業できるし」
そしてベロノワ邸に到着した。
「アイリーン様!」「お嬢様!」
元専属メイドやメイド長や、あちらこちらから使用人が集まってきた。
「ただいま。みんな元気なの?」
「はい。お嬢様の顔を見たら、誰もが元気になります」
「お父様達は?」
「旦那様とオベール様は隣の当主様の元へ。奥様はお嬢様の好きなナッツ入りクッキーを厨房で作っておられます。
若奥様は授業の最中です」
「分かったわ」
「アイリーン様、お部屋へ参りましょう」
着替えに行き さらに楽な服に着替えてソファに座った。
「アイリーン!お帰りなさい」
「お母様」
お母様に抱きついて“寂しかった”と甘えた。
撫でられているうちに眠ってしまった。
10時間以上寝てしまったようで もう夜中だった。
ソファにいたはずなのにベッドにいた。
それに…
ずっと撫でてくれる手は大きいからお母様じゃない。
しがみ付くと声がした。
「起きたか?」
「お兄様」
「おなかすいただろう」
「ずっと側にいてくれたのですか?
疲れさせてごめんなさい」
「私の癒しだ。疲れないよ」
モゾモゾと起き上がり兄様に抱きついた。
「怖かっただろう。もう大丈夫だからな」
「クリスが天に召された後、政略結婚を覚悟していたんです。
だけど実際に好きでもない 寧ろ避けたい公爵と初夜を迎えその後も相手をしなくてはならないなんて想像しただけで、私には無理だと分かりました。
お兄様達の猛反対を押し切って嫁いだのに、貴族のつとめも果たせそうにないなんて、役立たずでごめんなさい」
「アイリーン。
ベロノワ家はアイリーンに政略結婚など望んでいない。好きでもない男に身を捧げなくていい。
そもそもウィンター家では利は無い。
これからはバカなことを考えずに甘えていればいい。もう要らぬ心配をさせないでくれ」
「ごめんなさい」
「ソフィアの存在は気にしなくていい。
ソフィアは実家のためにベロノワ家に尽くしに嫁いできただけだ。
アイリーン・ベロノワとは立場が違う。
アイリーンより大事な者はいない。
邪魔だろうとか悲しくなるようなことは言わないと約束してほしい」
「…はい、お兄様」
「アイリーン……私の天使。
愛してるよ」
「私もお兄様を愛しています」
「……食事をもってこさせようか」
「朝、みんなと一緒に食べたです。お兄様も寝てください」
「今夜は離れたくないんだ」
お兄様はそのまま私を撫で続けた。
翌朝の食卓では
「僕だって姉上と寝たかった!」
「ごめんね、ジュエル。機嫌直して」
「今夜から僕と寝てくれるなら」
「駄目だ。
アイリーンはお父様とお母様と寝よう」
お父様がニコニコしながら言った。
「もう。私は大人ですよ」
「何言っているんだ。まだ17歳だろう。
デビューしたから何だ。まだまだ子供だ」
「そうよ。アイリーン。
昨日だってお母様の手からクッキーを食べていたじゃない」
お母様…それはそうしないと悲しそうな顔をするから。
その後、お父様とお兄様は仕事をしに執務室へ。
ジュエルは私にべったりとはりついたけど、少ししてお店の方が来て、寸法をはかりドレスやワンピースなどの打ち合わせをするので追い出された。
「まあ、お嬢様…お痩せになって」
「ちょっとだからすぐ戻るわ。緩めに作ってもらえる?」
「かしこまりました」
その後も髪飾りやアクセサリーを選んでもらった。
「姉上~!」
大慌てで兵士達が私達を審査待ちの車列から出した。
ゲートを抜けてベロノワ領に足を踏み入れた瞬間 涙が出てきてジュエルに抱きついた。
「姉上!? どうしたの!」
「嫌なことがあったの」
「誰? 名前だけ言ってくれたら片付けるよ」
「ジュエルったら」
ジュエルを見上げると優しい笑顔が向けられていて安心してまた抱きついて、ジュエルの胸に顔を埋めた。
懐かしい匂いにホッとする。
だがセイビアンとロザリーナには緊張が走った。
ジュエルの笑顔は顔を向けたアイリーンにだけで、アイリーンが抱きついて見ていないと殺気立った顔で“どういうことだ?”と無言の尋問を始めていたからだ。
慌ててエリスが間に入った。
「公爵様が契約を反故にして、予算も渡してるのだから アイリーン様に妻の勤めを果たせと……閨に上がるよう強要なさったのです」
「は? 白い結婚も何もしなくていいのも公爵の希望だろう」
「その通りなのですが、ずっと契約を白紙にしたかった公爵様は、長期の里帰りを希望なさったアイリーン様に苛立たれて」
「分かった。
姉上。辛かっただろう?」
「……うん」
「怖かったな。僕がいるから大丈夫だよ。指一本触れさせない」
「ありがとうジュエル。情けない姉でごめんね」
「そんなこと言わないで。姉上は女の子で僕たちの天使なんだから守られていればいいんだよ」
気分転換にとジュエルの馬に乗せてもらった。
「姉上、あの木前より伸びたよね」
「まだ半年よ?分からないわ」
「半年がどれだけ長かったか。僕がどれだけ寂しかったか知らないんでしょう」
部下達は馬に乗りながら激しく頷いていた。
兄弟の寂しさの解消の矛先は……彼らだからだ。
「私だって寂しかったわ。だから耐え切れずに里帰りを言い出したのよ」
「そっか。僕がずっと一緒にいるからね」
「学校は?」
「ああ、そんなものはどうでもいいよ」
「よくない」
「いつでも卒業できるし」
そしてベロノワ邸に到着した。
「アイリーン様!」「お嬢様!」
元専属メイドやメイド長や、あちらこちらから使用人が集まってきた。
「ただいま。みんな元気なの?」
「はい。お嬢様の顔を見たら、誰もが元気になります」
「お父様達は?」
「旦那様とオベール様は隣の当主様の元へ。奥様はお嬢様の好きなナッツ入りクッキーを厨房で作っておられます。
若奥様は授業の最中です」
「分かったわ」
「アイリーン様、お部屋へ参りましょう」
着替えに行き さらに楽な服に着替えてソファに座った。
「アイリーン!お帰りなさい」
「お母様」
お母様に抱きついて“寂しかった”と甘えた。
撫でられているうちに眠ってしまった。
10時間以上寝てしまったようで もう夜中だった。
ソファにいたはずなのにベッドにいた。
それに…
ずっと撫でてくれる手は大きいからお母様じゃない。
しがみ付くと声がした。
「起きたか?」
「お兄様」
「おなかすいただろう」
「ずっと側にいてくれたのですか?
疲れさせてごめんなさい」
「私の癒しだ。疲れないよ」
モゾモゾと起き上がり兄様に抱きついた。
「怖かっただろう。もう大丈夫だからな」
「クリスが天に召された後、政略結婚を覚悟していたんです。
だけど実際に好きでもない 寧ろ避けたい公爵と初夜を迎えその後も相手をしなくてはならないなんて想像しただけで、私には無理だと分かりました。
お兄様達の猛反対を押し切って嫁いだのに、貴族のつとめも果たせそうにないなんて、役立たずでごめんなさい」
「アイリーン。
ベロノワ家はアイリーンに政略結婚など望んでいない。好きでもない男に身を捧げなくていい。
そもそもウィンター家では利は無い。
これからはバカなことを考えずに甘えていればいい。もう要らぬ心配をさせないでくれ」
「ごめんなさい」
「ソフィアの存在は気にしなくていい。
ソフィアは実家のためにベロノワ家に尽くしに嫁いできただけだ。
アイリーン・ベロノワとは立場が違う。
アイリーンより大事な者はいない。
邪魔だろうとか悲しくなるようなことは言わないと約束してほしい」
「…はい、お兄様」
「アイリーン……私の天使。
愛してるよ」
「私もお兄様を愛しています」
「……食事をもってこさせようか」
「朝、みんなと一緒に食べたです。お兄様も寝てください」
「今夜は離れたくないんだ」
お兄様はそのまま私を撫で続けた。
翌朝の食卓では
「僕だって姉上と寝たかった!」
「ごめんね、ジュエル。機嫌直して」
「今夜から僕と寝てくれるなら」
「駄目だ。
アイリーンはお父様とお母様と寝よう」
お父様がニコニコしながら言った。
「もう。私は大人ですよ」
「何言っているんだ。まだ17歳だろう。
デビューしたから何だ。まだまだ子供だ」
「そうよ。アイリーン。
昨日だってお母様の手からクッキーを食べていたじゃない」
お母様…それはそうしないと悲しそうな顔をするから。
その後、お父様とお兄様は仕事をしに執務室へ。
ジュエルは私にべったりとはりついたけど、少ししてお店の方が来て、寸法をはかりドレスやワンピースなどの打ち合わせをするので追い出された。
「まあ、お嬢様…お痩せになって」
「ちょっとだからすぐ戻るわ。緩めに作ってもらえる?」
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