【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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瓜二つの男

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ここ数時間で領地内のいくつかのお店を回った。

弟「順調そうだね」

私「良かったわ」

セ「屋敷の近くの町に3軒の店、港町にシーフードレストラン2軒 ティールーム1軒 菓子店1軒 酒店1軒 宿2軒 土産屋5軒 日用品店1軒の所有と、後は嫁ぎ先の王都で投資が4軒。

他にも他領やこちらの王都でいくつも店を持ったり投資しているのに まだ増やすんですか?」

私「私財を増やしておかないと、いざというときに必要だと 今回よく分かったわ」

弟「姉様、僕と兄上がいて、そのような事を心配させるわけないでしょう」

私「船に乗って旅に出てみようかな」

弟「絶対に行かせないよ」

セ「そうですよ。ベロノワ航路は安全と言われていますが相手は自然です。嵐が起きたら…」

私「セイビアンも心配症ね」


「アイリーン?」

懐かしい声に振り返ると、カイル様がいた。

「カイル様」

「久しぶりだね」

「は…い…」

「君はどうしても私の顔を見ると泣いてしまうね」

薄茶色の髪と瞳、微笑み方まで瓜二つの彼は、私の婚約者だったクリスの弟カイルだ。
 
カ「ジュエル殿」

ジュ「カイル殿は?奥方は?」

カ「妻が港に来たいと言いまして、勉強がてらに案内をしていました。今は花摘みに」

ジュ「奥方は安定したのかな」

カ「ええ。そろそろ6ヶ月です」

カイル様は2ヶ月前に婚姻したばかり。つまり授かり婚だ。
学生時代からの交際で、カイル様は婿入りの婚約を別の令嬢としていた。
婚姻前の交際は自由と言われていたらしい。

だけど、クリスが天に召されたことで子爵家の跡継ぎになったので、婚約は解消された。
その後、一年は喪に服し その後縁談話があったが断ったと聞いた。

今思えば彼女と結婚したかったから、既成事実の授かり婚を狙ったと私は見ている。

カ「里帰り?それとも仕事?」

私「逃げてきちゃったの。もしかしたら…多分戻らないわ」

カ「離縁するの?」

私「かもしれないわね。

では、私達はこれで」

弟「また今度」

カ「はい」




【 カイルの視点 】


俺達は恋をした。

アイリーン・ベロノワ

彼女が6歳の時に領内の貴族を招いてお披露目があった。

兄のクリスも俺も一目惚れだった。

無邪気な笑顔、誰にでも優しく、活発だった。
そして可愛かった。彼女よりも可愛い女の子は見たことがない。

伯爵はアイリーンを領内に留めておきたくて、アイリーンが10歳のときに婚約者を探し始めた。ベロノワ領内の貴族令息と婚約させる気だった。

跡取りでなくてもいい。父上はそう聞いたようだ。

だったら次男の自分もチャンスがあるのではと思った。

そこには大きな壁が二つあった。
オベール・ベロノワとジュエル・ベロノワ。
ジュエル殿はアイリーンより一つ歳下ながらに、姉に近寄る令息を選別し 歳が近い場合は力尽くでアイリーンから遠ざけた。
オベール殿は何も言わないが 突然令息達を訪ねる。その後令息達は自主的に脱落した。

残ったのはクリス兄上と俺だ。
アイリーンと頻繁に会い、遊ぶようになった。

もう少しで独り占め出来ると思っていた。

だけどある日、オベール殿がいくつかの質問をして帰っていった。

翌日 父上が“クリスとアイリーン様の婚約が決まった”と言った。

その夜 父上に何故自分ではなかったのか聞いた。

『カイル。 オベール殿に嘘を吐いただろう』

『え?』

『オベール殿は嘘を見抜く特技を持っているんだ。
だから嘘を吐かなかったクリスが選ばれた』

『大した嘘では、』

『オベール殿はベロノワの後継者だ。その彼が小さな嘘も受け入れないと言えばそれまで。
カイルの気持ちを知っているから可哀想だとは思うが、クリスとアイリーン様の幸せを願おう』


それからは時々俺も混じるが、クリスとアイリーンの二人の時間が設けられた。

俺とクリスは瓜二つ。仲の良さも同じ。
なのに些細な嘘で決められてしまうなんて。

学校が始まると恋人を作った。恋をしたわけじゃない。吐け口が必要だった。

あの後、俺も婿入りの婚約をしたが、先方の当主が婚姻までは多少の女遊びに目を瞑ると言った。
婚約者の伯爵令嬢は、学校を卒業して婚姻を考えられるまでに5年はかかるからだ。

アイリーンに見立てて歳上の令嬢と交際した。

そしてアイリーンが14歳の時にクリスは不治の病を発症した。
そしてクリスは天に召された。

子爵家の跡取りが死んで、俺が跡継ぎになるので婿に行けなくなった。
事情を知って私との婚約を解消してくれた。

アイリーンと結婚出来ると思った。
アイリーンの憔悴は重く、一年喪に服した。
その後は学校に行き始めたと聞いた。

俺の顔を見てクリスを思い出して泣いてしまう君には、まだ時間が必要だと思っていた。
何故か父上は釣書を見せた。
アイリーンがいるのに無駄なことを。

『アイリーンに勘違いされたくないので釣書など受け取らないでください』

『アイリーン様は隣国のウィンター公爵家に嫁いだのよ』

『母上?何の冗談を?』

『クリスが亡くなって、直ぐに縁談話が来たそうよ。
二年待つことを条件に了承していたそうなの』

『信じられない』

『ベロノワ伯爵やオベール様達に猛反対に遭ったようだけど、悲しみから離れたいと曲げなかったそうよ』

『アイリーンはもう…いない?』

『そうよ。もう隣国で婚姻式を挙げたわ』

『何で教えてくれなかったんですか!』

『何も聞かなかったじゃない。それに恋人もいるから、アイリーン様のことはもういいのかと』

『あの時もアイリーンと婚約できると思っていた。今回も 残る相手は私だけだとアイリーンの気持ちが落ち着くのを待っていたんだ!』

『だとしたら、貴方に跡継ぎの話が出た時に恋人と別れるべきだったのよ。そうでしょう?』

『っ!』

大人になった俺は吐け口を手放せなかった。
アイリーンを抱けるようになるまでは。

『それに、貴方に恋人がいることはアイリーン様をはじめベロノワ家はご存知よ』

『知ってる?』

『ベロノワ伯爵は、“長く付き合っている恋人がいるならアイリーンにカイルとはどうだと言えない”と。それも体の関係がある恋人だとご存知だったわ』

『そんな…』

『気持ちを切り替えてお嫁さんを探しましょう』


その後、避妊をしなかった。
どうでも良かった。
気を遣って別の女を迎えるくらいなら、慣れた恋人でいいと、注いだ。

妊娠が確定すると入籍した。



なのに、

どんどん女らしい体付きになり いい香りを漂わせながら 愛らしい顔に涙を溢すアイリーンが目の前にいた。

離縁?

そんなことを口にするなら ほぼ確定だろう。

「カイル。お待たせ」

「ああ」

「カイル?」

たった半年で出戻るなら、ミランダを孕ませないで別れれば良かった!


宿を取り、妻を置いて夜に港町の娼館で発散した。

「クソっ!」

早々に果てて、延長と薬と追加の女を頼んだ。

苛立ちがおさまるまで 薬が切れるまで、娼婦達が相手をした。

朝、宿に戻るとミランダの目は充血していた。

「お帰りなさい」

「朝食を頼もう」













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