【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

文字の大きさ
30 / 69

懲戒破門

しおりを挟む
里帰りから1ヶ月。家族からデロデロに甘やかされてる。
 
外出には必ずオベール兄様かジュエルが付き添った。
ティータイムではお母様がお菓子を食べさせてくれるし、お父様は仕事の隙を見て私を愛でに来る。

だけど、オベール兄様の妻ソフィア様と個人的に会話はない。
食事の場にはいるけど それだけ。
気のせいかもしれないがトリシア様に似ていた。


家令がお父様に耳打ちをした。

父「分かった。
ジュエル。下賎な駄犬が彷徨いている。
先ずは穏便に追い払え」

弟「はい、父上。お任せください」

私「ジュエル、大丈夫?
野良犬? 病気を持っていたら大変だから噛まれないようにね」

弟「大丈夫。ヘマはしないよ」



食後はジュエルがいなくなり、私はオベール兄様に甘えていた。

「兄様ぁ」

「私の天使」

「結婚しても男女の友情を続けるにはどうしたらいいのでしょう」

「どうした」

「ローランド王子殿下は婚約者選定に入っています。
でも私が近くにいては婚約者の方が不快に思います。まあ、こっちに来てしまいましたが。

彼が婚約しても友人として遊べないのでしょうか」

「難しいな。

友人として付き合えるほど人として好きだということだろう?
それが異性としての好意に変わるかどうかなんて本人達にもわからないことなんだよ。
些細なことで異性を感じることがある。 

腕を掴んだときの柔らかさや、か弱さ。
髪の柔らかさや香り。何が引き金になるか分からない。

だから難しいんだ。

後はそうなっても絶対に友情から逸脱しないという強固な気持ちを相手の婚約者に理解してもらえるかどうかかもしれない。

だけど自分の婚約者が他の異性に心を寄せたら嫉妬するのが普通だろう。

つまり、どちらかに変化があったら距離を置くしかない。

友情の一時保留だ。

お互いに年月を経て落ち着いたら、また会えばいい」

「分かりました」

「ローランド王子殿下と結婚したいのか?」

「彼は王族ですよ。
私は一応ウィンター公爵夫人です。
あり得ません。だけど寂しいです」

「彼に素敵な伴侶が選ばれることを祈ろう」

「はい、お兄様」


やっぱり難しいのね。




【 ハロルドの視点 】


何日待っても帰って来ないアイリーンを迎えにやって来た。

国境は目の前だ。

ようやく順番が回ってきて身分証を見せた。
審査官と兵士は何か書類を見始めた。

「恐れ入りますが、貴方はベロノワ領へ入れません。
従ってベロノワ領にある国境は使えません。
迂回してもう一つの国境を試されては如何でしょう。
ですが、ベロノワ家が禁止措置をとったなら、あちらも同じかもしれません」

「は? 俺はベロノワ家の娘の夫で公爵だぞ!」

「そちらの国ではそうでも、こちらでは権力の行使は難しいかと。特にベロノワ家が相手では」

「ベロノワ伯爵に連絡を取ってくれ!」

「では、そちら側の宿をとってお待ちください。
そちら側の国境警備隊に連絡しますので宿が決まったら話を通しておいてください」


公爵だぞ!
しかも妻を迎えに来たのに!


3日後、呼ばれて向かうと審査室に連れて行かれた。

居たのはアイリーンの弟だった。
事務官らしき男達もいた。

「僕はジュエル・ベロノワ。アイリーンの弟です。
父であるベロノワ伯爵の代理で来ました。
覚えていますか?ウィンター公爵」

「ジュエル殿、アイリーンを返してもらいたい」

「何故?」

「私の妻だからだ!」

「何もしなくていい白い結婚が条件の姉上に用はないでしょう?」

「妻の役目というものがある!」

「だから、その役目は愛人にさせるから出しゃばらず大人しくしていろと婚姻前日の朝早くに 約束もせず先触れも出さずに言いに行ったんだろう?
女一人だからと、父上達やあんたの母親のいないところで」

「失礼な口のきき方をするな!
俺は爵位持ちの公爵で君は伯爵家の単なる次男だろう!」

「はぁ。甘やかされて育ったお坊ちゃん。
よく聞け。

お前がやろうとしていることは、ベロノワ家の娘を何度もレイプしたいと言っているのと同じだ」

「何を!」

「白い結婚も、子を愛人に産ませることも、あんたが言い出して契約したことだ。
それなのにアイリーンが拒否しているにも関わらず初夜を強要した。
逃げ出して当然だろう!」

「夫婦のことに口を挟むな!」

「なら、挟める者に後を託そう。
神父様、お聞きになりましたね?
王都の教会に提出してある契約書を参照願います。
彼は教会で神の前で 神と妻に誓ったにも関わらず、それを破り 妻とはいえ女性をレイプしようとしたのです。

どうか神に叛き、神父様方を軽視した罪深き男を野放しにしないでください。
 
レジス王子殿下が何故 王太子の地位を剥奪されたのか、よく思い出してもらえると助かります。

公爵。同席してくださった三名のうち 彼はそちらの国の国境の教会で神の教えに従う神父様です。
お二人はこちらの国境管理の責任者と、そちらの国の国境管理の責任者です。
これで言い逃れもできませんね」

「夫婦の些細な揉め事に何を大袈裟な」

「……下衆が」

「おい!」

「公爵、帰りにこの金を持って帰るといい。半年分のアイリーンの予算の8割で、受け取っていた分だ。

金を払えば犯す権利があると言ったんだろう?」

カチャッ

国境警備兵が剣を抜こうとした。

「まあ、抑えてくれ。

いいか、公爵。次はここを通過させてやる。
だがな、その時はベロノワの領法に基づき処刑してやるからな」

「なっ!」

「いずれ、離縁手続きに父上か兄上が陛下を訪ねる。そのつもりで準備しておけよ。

アイリーンの荷物に手を触れるな。
あんたの以前の婚約破棄に費やした慰謝料の何十倍の慰謝料を請求するぞ」

「何を馬鹿な…」

「ベロノワ家の財力を知らないのか?」

「アイリーンは私の妻だ!愛してるんだ!」

「ふざけんな。
愛人を同じ屋敷に住まわせて、口で抜いてもらって、この間は愛人に種付けまでしたらしいじゃないか。穢らわしい。

皆様、お付き合いいただきありがとうございます。
正義がなされるよう願っております」

「待て!」


アイリーンの弟と向こう側の責任者は退室した。

「なんてことだ。国の恥晒しだ」

「ウィンター公爵家は地に落ちたな」

神父達は軽蔑の目を向けた。


俺はベロノワに監視されていることを知った。



王都の公爵邸に戻ると、一週間後に登城命令が届いた。

謁見の間に通されると領地にいたはずの母上が平伏していた。
そしてベロノワ伯爵と長男オベール殿もいた。

「母上!」

「ハロルド!」

パン!

母上は 近寄った俺に平手打ちをした。

「挨拶もないが、まあいい。

向こうの国王からの強い抗議文とベロノワ家から調査報告書を預かった。婚姻前日からの報告書だ」

陛下が報告書を投げた。
紙はヒラヒラと舞い、床に落ちた。

「ハロルド・ウィンター。其方が強いた契約内容なのに、勝手に破り閨事の強要?
教会は其方を破門にすることに決めたそうだ」

「破門!?」

「懲戒破門だ」

「どうか!どうかそれだけは!」

母が陛下に懇願した。

「何故です!」

「夫人の息子は言葉が通じないのは報告書通りだな。
先に離縁を言い渡す。この場を持って、ハロルド・ウィンターとアイリーン・ウィンターの婚姻関係を解消することを認める。

もう彼女は夫人ではない。アイリーン・ベロノワ伯爵令嬢だ。
慰謝料を求めない代わりに、今後国外への渡航禁止、及びアイリーン嬢への接近禁止を言い渡す」

「嫌です!」

「死ぬぞ?」

殺気立った声で囁いたのはオベール殿だった。


直ぐに婚姻式にいた司祭が入室した。
黒い帽子付きのマントを纏った男達を従えていた。

「国王陛下、ベロノワ伯爵。
只今から執行いたします」

黒いマントの男達が俺を押さえ付けた。

火鉢に差し入れていた棒を司祭が掴むと俺の右手の甲に押し付けた。

ジュッ

「ギャアアアアッ!」

「ハロルド!」

手の甲を見ると、懲戒破門という文字が焼き付けられていた。

「用は済んだ。夫人。息子を連れて帰ってくれ」

「し、失礼いたします」



屋敷に戻った後、手当を受けた。

「大奥様、先程、アイリーン様のお荷物を引き取りにベロノワ伯爵家の使いの方々がいらっしゃいました」

「そう。分かったわ。
ハロルドとアイリーン嬢は離縁したからそのつもりで。

トリシアを呼んでちょうだい」


直ぐにトリシアが連れてこられて俺の隣に座らせた。 

「ハロルド。公爵位を剥奪し除籍します。
多少のお金を持たせるから、トリシアと市井で働きながら生きていきなさい。

今から荷物を纏めなさい。
当然目的地までしか送らないから、持ちきれないほど詰めるのは止めた方がいいわよ」

「そんな!お義母様、ウィンター家の子を授かっているかもしれないのですよ!」

「貴女の胎から出てきた子など要らないわ」

「お義母様!」

「義母になったことは一度もないの。本来 平民の貴方は話しかけることさえ叶わないわ。
今週末いっぱいは滞在することを許します。その間に私物を現金化したり 住む町を決めなさい。
決まらなければ郊外の何処かに置き去りにしなくてはならないわ。

食事は部屋に運ばせます。
お風呂とトイレは使用人用のものを使いなさい」


そして数日後、俺たちはウィンター公爵邸から追い出された。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」 平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。 セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。 結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。 夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。 セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。 夫には愛人がいた。 愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される… 誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

処理中です...