【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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秘密

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お父様とお兄様がウィンター公爵に会いに行った。
離縁の手続きだ。話の通じない公爵が相手だけど大丈夫かなぁと想像しながらお庭を散歩していた。

外は思っていたより眩しくて、付き添いのエリスに帽子を取りに行かせた。

「アイリーン様」

「はい」

振り向くとソフィア様だった。

「おはようございます」

「おはようございます。
貴女、ちょっと外してくださる」

ソフィア様は自身の付き添いメイドを下がらせた。


「アイリーン様はもう少しオベール様やジュエル様との距離をお考えになった方がよろしいと思いますの」

「距離ですか?」

「もう成人して一度嫁に行った方が、いつまでも膝の上に乗ったり抱き付いたりしているのは はしたないですわ」

ほぼ お兄様達からなんだけどな。

「はい」

「次は出戻りのないようにして、ベロノワ家の役に立ってくださいね。これまで不自由なく育ててもらったのですから」

「はい?」

「ベロノワ家の皆様が優しくしてくださるからといって、養女ということを忘れてはいけませんよ」

「養女? 何のことでしょう」

「もしかして貴女、知らないのかしら」

「……」

「婚姻の時に見ましたの。貴女の名前の後に“養女”と書いてありましたわ」

「……」

「しかも家名の明記がありませんでしたから、捨て子か孤児院から引き取ったのか。とにかく平民なのは確かですわね」

「……」

「本来なら侯爵家の長女わたくしとは同じ場所にさえいられませんのよ。
毎回平民と同じテーブルで食事をとるだなんて考えられませんわ」

「……」

「これからは身の程を弁えてくださいませ」

「……はい」

そこにエリスが戻ってきた。

「失礼」

ソフィア様が立ち去った。

「どうなさいましたか!?
顔色が……どこか具合でも、」

「エリス、部屋に戻るわ。 少し目眩がするからしばらく部屋食にしてもらえるかしら」

「かしこまりました。お部屋へ戻りましょう」

その後、ジュエルやお母様が心配して様子を見に来たが、疲れが出てきたと言って誤魔化した。


翌早朝、ある部屋にきた。
倉庫のようになっていて、ここは大事な物をしまっておく部屋だ。
お父様達は毎年子供の肖像画を描かせていた。
それは0歳から16歳まで。 

オベール兄様は産まれてからの肖像画があった。
ジュエルも。

私のは……11枚。
最初のものに手を伸ばした。
1枚目は笑顔がない。

私はベロノワじゃなかった。

「ううっ……」


部屋に戻りそれからは誰とも会いたくないと言った。

「お嬢様、何か召し上がっていただけませんか」

「食欲がないの」

「お医者様をお呼びします」

「体の問題じゃなくて気分がすぐれないだけよ。
いろいろあったでしょう。思い出しちゃって。
ここに居ることで みんなが困るなら宿に移るわ」

「わ、分かりました。もう言いません。
ですが、スープだけでも飲んでください」

「分かったわ」


だけど お父様とお兄様が帰ってきて放ってはおいてもらえなかった。


「アイリーン。何があった」

「何もありません」

「私に嘘を吐いても無駄だと知っているだろう」

兄様は私を抱きしめようとした。私は腕を伸ばして突っぱねた。

「アイリーン?」

「お父様を呼んでください」

「アイリーン」

「お兄様は出て行ってください」

「……」


お兄様がお父様を呼びに行き、お父様が来てくれた。

「アイリーン。どうしたんだ?」

「私に縁談はありませんか」

「どうしたんだ」

「ベロノワ家にお役に立てるような縁談はありませんか」

「アイリーン。政略結婚をすると言っているのか?
そんな必要はない」

「私に価値がないからですか」

「アイリーン!」

「私は……独立します。
政略結婚も必要ないのでしたら独立します」

「どうしたんだ」

「セイビアンとロザリーナとエリスをお返しします」

「いったい何があったんだ」

「お願いします…ううっ」

耐えきれずに涙がポタポタと落ちていく。

お父様は廊下でメイドに何か指示をした。直ぐにメイドが薬湯を持ってきた。

「飲みなさい」

「……」

飲んでしばらくすると眠くなってきた。

「可愛いアイリーン。いい夢を」




【 モルガン・ベロノワ伯爵の視点 】


ウィンター公爵との離縁手続きを終えて帰国した。
だが、アイリーンが伏せっているという。
アイリーン専属のエリスが言うには、何かショックなことがあったのか、気落ちしていると。
そっとしておいて欲しいと言われたようだ。

オベールが居ても立っても居られずアイリーンの部屋に行ったが、少しして私を呼びに来た。

アイリーンが呼んでいるというので部屋に行くと、泣いた顔だと分かった。

政略結婚? 独立? セイビアン達を返す!?

そして泣き出した。

眠りにつかせる薬湯を飲ませ、寝たのを見届けると、ロザリーナに絶対に目を離すなと伝えて、エリスを連れて会議室に向かった。

「私の不在中のアイリーンの行動報告をくれ」

事細かにエリスは報告を上げたが、空白があった。

「帽子を?」

「はい。外に出る前は要らないと仰って、出てみたらやはり必要とのことで取りに行きました。
直ぐに戻りましたが…ソフィア様もおりました。
私が戻ると立ち去られたので何を話しておられたのかは分かりません。

アイリーン様の顔色が蒼白で、お支えしてお部屋へお連れしました」

ソフィアの専属を全員呼べ。


護衛のニード、侍女のメイリン、メイドのコリーとキムが集まった。

「朝の庭の散歩に付き添った者は?」

「はい」

キムが手を挙げた。

「アイリーンとソフィアは何を話していた」

「それが、離れるようにと命じられて、お姿は見える範囲で離れました。会話は聞き取れませんでした」

「どちらに命じられた」

「…ソフィア様です」

「キムとニード卿は残ってくれ。メイリン。ソフィアに直ぐに来るように伝えてくれ。コリー。オベールを呼んでくれ」

「かしこまりました」

3人が退室したのでキムに命じた。

「キム。一芝居打って欲しい。聞こえていたフリをしてくれ。ソフィアが来たら君を叱責する。
君はただ許してくれと懇願すればいい。手当ははずむ」

「……ですがソフィア様は次期ベロノワ夫人で、逆らうわけには」

「私の可愛いアイリーンを傷付けてベロノワ夫人にさせるとでも?」

「かしこまりました」


オベールが先に来て、その後ソフィアが入ってくると芝居を始めた。

「そんなことをソフィアが言っているのを聞いていたなら止めるべきだろう!」

「申し訳ございません!」

キムは跪いて祈るように手を組み、謝罪した。

ソフィアは青ざめた。

「父上どういうことですか」

「ソフィアがアイリーンに酷いことを言ったんだ。
この卑怯な女はキムに離れろと言ってアイリーンと二人になり傷付けた。
だがキムには聞こえていたんだ。

ソフィア!お前は何様なんだ!
私達のアイリーンに向かって!」

「私は本当のことを言っただけですわ。
いつまでもオベール様やジュエル様に抱き付いたり膝の上に乗ったり、成人した女が兄弟にとるスキンシップではありませんわ。
卑しい身分のくせにいつまでもいられたら堪りませんもの。しっかりとわからせないと」

「お前が決めることではない」

「彼女はベロノワ家の娘ではありません!
孤児院から引き取ったのか捨て子を拾ったのか存じ上げませんが、いつまでも甘えていないでベロノワ家の利になるようさっさと嫁ぎなさいと忠告したのです!

私は侯爵家の出身で血筋も確かです!
その私が卑しい血の彼女と同じテーブルで食事をして私より待遇が良くて、男に媚を売り色目を使って、」

「もういい。よく分かった」


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