【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

嫉妬

【 ソフィア・ベロノワの視点 】


 ずっと気に入らなかった。

ベロノワ家の中心にはいつもアイリーンがいた。
少し可愛い見た目だからって、誰もが優先する。

オベール様は用がなければ私に話しかけない。
なのにアイリーンには“私の天使”などといい過度なスキンシップをとり“可愛い”“愛してる”と囁く。

偶然婚姻手続きのときに知った。アイリーンが養女だと。

そして初夜、オベール様は達する時、小声だったけど確かに言った。“アイリーン”と。

用が済むとオベール様は自室に戻った。
この私を何処の娘かわからない平民に見立てて抱いたというの！？

悔しくてその夜は涙を流した。


やっとアイリーンを厄介払いできたというのに、彼らは監視を付けてアイリーンの状況を把握していた。

たった半年後には出戻ってきてしまった。
お義母様はドレスだアクセサリーだとアイリーンに散財するのに私には声もかけてくれない。

お義父様とオベール様はアイリーンの離縁の手続きに隣国へ行ってしまった。

この生活を続けるのは耐えられそうにない。
お義父様達が不在でジュエル様は朝の鍛錬後のシャワーを浴びていた。アイリーンが一人になったので、我慢していたことをぶちまけた。

蒼白になるアイリーンを見てスッとした。その後食堂に姿を現さなくなってせいせいした。

だけどキムに聞こえていたのは誤算だった。


「もういい。よく分かった」

お義父様はキムに口止めをして退出させた。

「ソフィア。婚姻前の契約を覚えているか」

「え？ はい」

「お前はベロノワ家に不利益をもたらした」

「お義父様、今は毒されていて順応できていない様ですが その内 目が覚めますわ。
その時は私に感謝なさるでしょう」

「ベロノワ領は元々豊かな土地で昔から統治されてきたが、ここ１０年で驚異的な発展を遂げている。
それはアイリーンの影響だ。

あの子は幼いながらにしっかりと教育を受けていた。ベロノワ領に馴染むと次々と改革を口にした。
潮の流れを実験で確かめさせたのも 海図を作らせて航路を定めさせたのもアイリーンの閃きだ。

港に、海に携わる男達向けの店 その家族や店で働く者達向けの店 観光客向けの店とターゲットを搾りエリア分けを閃いたのもアイリーンだ。

ダイヤなどに施すベロノワカットを閃いたのもアイリーンだ。

アイリーンのおかげでベロノワは何倍にも発展した。アイリーンを“ベロノワの宝”、“天使”と呼ぶのはそれもあるからだ。

政略結婚など必要ない。アイリーンはこの領地で価値を証明しているからだ。

侯爵家の長女？
そのお前がどのようにベロノワに富をもたらしたと言うんだ」

「だとしても、確かな貴族の血は重要で、」

「この国の貴族で平民の血が混じっていない純度１００%の貴族がどれほど少ないか知っているか？
お前自体、先祖を遡れば平民の血が入っているかもしれない。

優秀だったり見目のいい平民を養子に迎えたり、妾などにして男児を産ませたり、恋に落ちたりすることもある。
それは貴族に関わらず王族もだ。

建国以降、平民のメイドにお手付きをして王子や王女が産まれたことも一度や二度ではない。

今から王族に“卑しい血が混じっている”と指摘しに行くか？」

「それは…」

「お前はクビだ」

「え？」

「ベロノワに必要ない。害虫と同じだ」

「お義父様！」

「オベールからも話がある」

「ソフィア。お前とは離縁する」

「オベール様！」

「私はずっとアイリーンを愛してきた。
だが男としてアイリーンを求めるとアイリーンの出生の秘密がバレてしまう。
アイリーンを傷付けたくなくて兄として踏みとどまることにした。

だが、ある時を境に愛を告げることを父上に許されていた。ある意味お前のおかげだな」

「どういう…」

「アイリーンが養女だと知った時 もしくは思い出した時、男として愛を囁き求婚していいと父上から言われていたんだよ」

「嘘…」

「アイリーンを慰めて愛を囁き 妻に迎えることができる」

「オベール様！」

「婚約後、自分が選ばれた高貴な人間だと勘違いした女だと分かったときは 丁重に扱う必要はないと判断した。
利益はないが 政略結婚なら実家への支援が要らないだけマシ程度に思った。

お前なんか抱きたくもなかった。
お前に触れるのも お前のナカに入るのも嫌で仕方なかった。

アイリーンが戻ってきてからはもう無理だった」

何を言ってるの？
むしろ増えたじゃない。
月に二回から週に二回になったじゃない。

「事後に避妊薬を飲ませておいて良かったよ」

え？
月のモノが来てないのに！？

「オベール様、閨事はあったではありませんか」

「先々月の閨の日以降、お前の部屋に行ったこともない」

「だって…私を週に２～３度お求めに私の部屋へいらしたじゃないですか」

下腹部に手を添えた。

「なるほど。私だと勘違いして夜這いを受け入れたのか」

「え？」

「お前の相手をしたのは私ではない。避妊薬は飲んだのか？」

「そんなはずが…あるわけが…」

「もし妊娠していたら私の子ではない」

「言い逃れをなさっているのですね」

「顔は見たのか？」

「……」

「突っ込まれてるモノが違うと分からないとはな」

「っ！」

「抱き方だって違うだろうに」

顔…見てない…

「医者を呼べ」


そして

「月のモノが来ていないようですね。不順ということもございます。まだ時期は早くて確定できませんが 妊娠なさっている可能性は十分あります」

心臓が重い。
ドクン ドクンと大きくゆっくり聞こえてくる。

なんなの…夢？悪夢を見ているんだわ。