【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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不義の子

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【 ソフィアの視点 】


医師が帰り1時間後ベロノワ伯爵と5人のメイドが入室した。

「荷物を全部纏めてくれ」

「かしこまりました」

「お義父様!」

「息子以外の種で孕んだ嫁など要らん。
侯爵家には不貞と不貞による妊娠のために離縁すると手紙を送った。

荷造りが済んだら出ていけ」

「私は署名いたしません!」

「侯爵がしてくれるだろう。ベロノワうちと揉めるのも不貞妊娠ソレが公になって醜聞になるのも嫌がるだろうからな」

「オベール様の可能性だってあります!
そうよ!嘘を吐いているのですわ!」

「いつもなら閨事の後にメイドが世話をしに入っただろう。先々月の閨の日以降 その様なことはないとメイド達が証言している。
侯爵家から連れてきたコリーも同じ証言をした。

オベールの部屋の外に立たせている兵士にも聞いたがオベールが夜にお前の部屋へ向かったことは先々月の閨の日以降から無いと証言した。

認めないのは勝手だが、不義の子は育っていくぞ?」

「絶対認めません!」


馬車に無理矢理乗せられて、出発した。

窓の外を見ると庭師がいた。
確か雇い入れたばかりだった。

顔や色は全く違うが背や肉付きやシルエットがオベール様と同じに見えた。

男が指で何かしている。

「コリー。あの庭師は何をしているの?指を動かして」

「っ!なんて下品な!」

「教えて」

「あれは……」

「教えなさい!」

「いくつか意味がございます。平民の下衆な表現です。
 
筒の様にした右手は女性器に見立て 左手の一本の指は男性器です…ああやって筒の中に指を抽送する動きは まさに最中の様子を表現しています。
“やりたい”“またやろう”“良かったか”“あばずれ”などの意味を持ちます。

誘うときに使ったり 交わった時のことを思い出させたいときに使ったり、ときには侮辱するために使います。
恋人や妻には使いません。娼婦やすぐに身体を許すような一晩の相手に使います」

「まさか…」

夜、カーテンが閉まり灯りも消えて真っ暗だった。

当然オベール様だと思っていた。
そういえば、オベール様のときはいつも薄灯の中でしていた。

本当に…腹の子はオベール様の子じゃない?


門を潜るときに一旦止まった馬車のドアが開いた。
ジュエル様だった。

「次にアイリーンの前に姿を表したら殺すぞ」

「っ!」

「ジャンが貴族の女を何度も抱けたと喜んでいたぞ」

「そ、それが本当なら犯罪だわ!」

「夜這いは抵抗せず受け入れたら合意だ。知ってるだろう。

男のアレを口にふくみ、上に乗って腰を振ったら強姦ではなく浮気だ。

注いでくれとジャンにお強請りしたそうじゃないか。ジャンはお前と寝る度に 男の使用人達の間で話題にしていたよ。
直ぐに濡れたとか 奉仕も腰の振り方も下手だとか 喘ぎ後が老婆の呻きの様だとか 乳首の色が濃いから自分で弄っているんだろうとか」

「止めて!」

「お前はアイリーンにもっと酷いことを言ったんだ。

言っておくがアイリーンは平民ではない」

「え?」

ジュエル様はドアを閉め 笑顔で手を振っていた。

彼の子犬の様な振る舞いはアイリーンの前でだけ。

「ううっ……」



2日後、実家に到着した。
出てきたのはお父様の侍従ひとり。

「旦那様がお呼びです」

書斎に行くと立たされたまま説明を促された。


「つまり、アイリーン様を妬み、政略結婚という立場を忘れて秘密をバラし、挙句庭師の子を孕んだのだな?」

「オベール様だと思って……何もかもあの女が悪いのです!卑しい平民のくせに!」

バチン! 

「いっ!」

お父様が初めて私の頬を叩いた。

「アイリーン様が平民だという理由はなんだ」

「養女と…養女と書いてあって家名の記載がありませんでした」

「家名が書いていないからといって平民とは限らない。命などを狙われた貴族だったり もっともっと高貴なお方だったりするときも家名を載せないことがあるんだ。

…いいか。アイリーン様は他国の王族の娘だ。
ある王女が他国の王子と婚約していたのに、別の国から訪れた王子に惚れて交わった。
王女はまだ14歳だった。そして妊娠が分かった。

5歳まで手元に置いて育てたが、婚姻とともに母娘が別れる時がきた。

だが、迎えにきた婚約者の遣いが 子を見かけて疑いを持ってしまった。

国外に出すしかなかった。

国王…つまりアイリーンのご祖父様にあたる方と うちの陛下は友人で、陛下が預かることになった。だけど王城は目立つ。
偶然にも、顔がベロノワ伯爵一家と似ていた。そこで陛下は預かって数ヶ月後に ベロノワ伯爵夫妻に頼んだ。

夫妻はアイリーン様を一目見て気に入った。
夫妻は娘が欲しかったが、次男のジュエル殿を産んだ後、夫人はもう子を産むのは危険だと医師からストップがかかったから諦めていた。
そこによく似たアイリーンが現れた。

ベロノワ伯爵夫妻は目の中に入れても痛くないかのように可愛がったがアイリーン様の心は開かなかった。
だがある時、アイリーン様が階段から落ちて昏睡した。目覚めたら記憶がなかった。

だから養女にして実の娘として愛し育てた」

王族同士の子!? アイリーンが!?

「お前は何てことをしてくれたんだ」

「どうして教えてくださらなかったのですか」

「宰相として知り得た事実を漏らせると思うのか?」

「っ!」

「離縁状は署名して直ぐに送り届ける」

「嫌です!」

「うちを没落させるつもりか!」

「お父様!」

「アイリーン様の実父は、現在は大国の王太子だ。
アイリーン様がショックで自らを傷付けたり行方不明になったりしたらこの国はどうなると思う!

お前は領地で幽閉だ!」

「お父様!!」



9ヶ月後、領地内の小さな家で産み落とした。

「男の子です」

僅かな希望が崩れ去った。
オベール様に似ていたら返り咲けると思っていた。

「おぎゃあ」

濃い茶色の髪に 赤に近い茶色の目。
離れた大きな目に丸い鼻 大きな口……あの若い庭師にそっくりだった。

「何処かへやって」

「なりません。侯爵様が己の手で育てろと命じられたのをお忘れですか」

「側に置いたら殺してしまいそうなのよ」


二週間後 お父様がいらした。

「育てられないと言ったそうだな」

「はい」

「コリー。ソフィアの髪を短く切れ」

「かしこまりました」

「嫌!」

兵士が私を押さえ付けて コリーが私の髪を切り落とした。

拘束が解かれ頭を触ると部分的にチクチクした。

普通、短くっていったら肩甲骨辺りの長さじゃないの!?
これじゃ男達よりも短いじゃない!!

「コリー。長い間 苦労をかけた。特別な手当を出す。屋敷に戻るぞ」

「ありがとうございます」

え! 帰れるの!?

「ソフィア。お前を解放する。
今日付けで除籍するからお前は平民だ。
ここにある好きな物を持ち去り金に変えて生活資金にしろ」

「お父様!?」
 
「もう父ではない」

「お願いです!除籍は…せめてこのままここでコリーと、」

「産まれた子を孤児院に預けるのに金がかかる。
もうお前を養う無駄な金はない。
コリーの人生をお前の失態に巻き込むな」

「お願い…します」

「家名を使ったら逮捕されるからな」

そう言い残してコリーと赤ちゃんを連れて去っていった。
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