【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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不器用

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婚姻式前日、ロランに呼ばれて会いに行った。

「久しぶり」

「おめでとう、ロラン」

「アイリこそ おめでとう」

「今はめでたくないかな」

「え?」

「それよりお妃様はどんな方?」

「国が選んだ令嬢だよ。
侯爵家の長女でしっかりした人だ」

「そっか」

「友人契約を果たしたい」

「?」

「最後の項目」

「好きな人?」

ロランは深呼吸すると私の前に跪き手を取った。

「アイリーン。好きだ。
気が付いたのが遅かった。
多分アイリへの気持ちは消えないだろう。
だが明日封印する。

友人としてアイリの幸せを心から祈るよ」

「…ありがとう、ロラン。手紙を出すわ」

「待ってるよ」


そして翌日、最大な婚姻式が執り行われた。



後日、ベロノワ邸に戻り準備をした。
投資物件を管理している者に挨拶をし、銀行に行き、ベロノワの宝石商を卸している宝石商にも寄った。

最小限の荷物を詰めてベッドの下に隠した。

決行の早朝、お父様の書斎に封筒を置いた。
4人への手紙と貰った指輪と署名入りの離縁届けが入っている。

私の机にはエリス、ロザリーナ、セイビアン宛の手紙を置いた。ロープを使って荷物を窓から下ろして、外に出て厩舎に向かった。

「トニー。おはよう」

「おはようございます」

「朝早く悪いけど、港まで行きたいの。お店にトラブルが起きたみたいで」

「直ぐに準備いたします」

馬を連れに向かった隙に馬車に荷物を乗せた。

「アイリーン様」

セイビアンとロザリーナがいた。
普段着と荷物を持っていた。

「どうしたの?」

「お供します」

バレていたのね。

「駄目よ」

「辞表は出しました」

「職を失うなんて」

「アイリーン様もお金持ちです。十分我々を雇えます。それにあんなに危なっかしいレディを独りにできません」

セイビアンが見上げた方角を見ると窓からジュエルが手を振っていた。

ジュエルが二人に知らせたのね。

手を振り返した。

「ありがとう。でもチケットが」

「あります。船旅を知られたらジュエル様に追い回されますので内緒です」

ロザリーナはポケットから旅客船のチケットを取り出した。

「ふふっ」


御者のトニーが戻ってきて出発した。

港で馬車を帰した。不審がられたけど迎えがあるから大丈夫と言った。

馬車が見えなくなると船乗り場へ行き 船員にチケットを見せた。

「これはベロノワ家の皆様、ようこそマーガレット号へ」

「船旅は初めてなの。よろしくね」

「お供できて光栄です。こちらの案内係がお部屋までご案内いたします」


上から三番目のランクの部屋のチケットなのに特別室に案内された。

「駄目よ」

「今回キャンセルがあって空いているんです。ご安心ください。こちらなら部屋数がありますので従者の方の部屋も中にございます」

「感謝するわ」

「特別室担当のビリーとポレットです。
ご用の場合はこちらの紐をひいてください。
お飲み物をご用意いたします」

ビリーは念のためと酔い止めをくれた。
飲んでおいて正解だった。飲んでいても少し気持ち悪い。初めての船酔いだ。

「テラスに出て風に当たりましょう。食事は軽くにしてもらい、早めに薬で眠ってしまいましょう」

「それいいわね。夕焼けを見たらそうしましょう」




【 ジュエルの視点 】

夕飯時が過ぎても帰ってこない3人に慌てているのは兄上だけだ。
姉上の席には食器はセットされない。

父上の書斎の手紙は兄上にだけ渡されていない。
父上は早々に見つけて母と一緒に読んだ。

姉様の気持ちを伝えると母上はキレて、父上は静かになった。屋敷全体には直ぐに知らせた。

食事が終わると兄上は外に探しに行こうとした。

そんなに大事ならどうして姉上を傷付けたんだ!

父「オベール、座れ」

兄「探しに行かなくては!」

父「いいから座れ」

父上の冷たい眼差しに兄上は椅子に座った。

父「アイリーンからお前宛の手紙だ」

兄上は急いで封印のされていない封筒を開けた。

“オベール・ベロノワ様
今までありがとうございました。

何が原因でオベール様が私を避けるのかは
存じ上げません。
本来なら尋ねるべきところだとは思いますが、
もうその気力がありません。

クリスとの別離から始まり、多くの事が
私にのしかかりました。
やはりあの時、私は独立すべきでした。

同封の離縁届けを出してください。
婚姻したことは忘れて互いに再出発としませんか。

もう、貴方の妻としてお会いすることはないと
思います。
いつか顔を合わせることになったときには、
昔兄妹だった元妹アイリーン・カトリスとして
ご挨拶をさせていただきます。

全ては私が嘘をついて皆を動かしました。
私の決断を知る者はベロノワ邸におりません。

誰も責めることなく、新たな道にお進みください。

アイリーン”


そして父上が、アイリーンの残した離縁届と指輪を兄上に渡した。

父「署名しておけ」

兄「嫌です」

父「私が代わりに出すだけだ」

兄「父上!」

「だったら何で姉上を避けた!
アイリーンはずっと……

どうせ言ったところで分からないだろう?
アイリーンにこんな仕打ちをすると知っていたら、俺がアイリーンを妻にした!

兄上だけが好きだっただなんて思わないでくれよ。
俺より兄上の方がアイリーンを守って幸せにしてやれると思ったから引いたんだ!」

母「がっかりだわ。
簡単に手を出して 簡単に突き放すのね」

父「アイリーンを探すことは許さない。

傷が癒えたら素敵な男がアイリーンをとらえるだろう」

兄「アイリーンは記憶を取り戻していた…。
失う前に何があったのかも思い出したはずだ。

あの日、アイリーンに求婚した。だけど断られた。
アイリーンは走り去り、そのまま階段から落ちた。
この婚姻もアイリーンにとっては恋愛結婚じゃない。

だから、嫌だろうと避けた。
アイリーンの気持ちを受け止める前に 心の準備が必要だった。
別れて欲しいと言われたら応じてあげられるまで」

「姉上は、兄上が飽きたのだろうと言っていたよ」

兄「そんなはずがあるわけないだろう!!」

母「アイリーンは簡単に心変わりをする夫と別れたばかりだったのよ。
あなたを信じられなくてもおかしくないわ」

父「アイリーンは自国の城で厄介な存在だった。
知られてはならない存在だ。
アイリーンの母である王女は隔離された我が子にできる限りの教育を施した。

この国へ来た時も、隔離され城で教育を受けていた。

最後に来たのがベロノワだ。

アイリーンからすれば、厄介者が人から隠され たらい回しにされたと感じていたから なかなか馴染まず笑顔もほぼ見せなかった。

オベールが求婚しても戸惑っただろう。
厄介ごとを起こせば追い出されると思ったのかもしれない。

ここでは隔離もしないし私達は愛情を注いだから居心地は良かったはずだ。

アイリーンに求婚するのが早過ぎたんだ」

兄「アイリーンは可愛すぎる。もたもたしていたら別の男がアイリーンと婚約してしまうと思ったんです」

父「相談をすべきだったんだ」

兄「アイリーンを愛しているんです。
探しに行かせてください」

父「アイリーンは船旅に出かけたよ。行き先は外国だ。そこからさらに馬車でどこへでも行ける。

つまりアイリーンが見つかろうとしない限り、見つからない」

兄「信じられません…何故そんな危険な旅に行かせたのです」

母「貴方が背中を押したのよ。

セイビアン達も辞表を出して消えたからアイリーンを追いかけたのね。
彼らがついているし、また変なところに嫁ぐと言い出すよりマシよ」

兄「愛してるんです。私はアイリーンを待ちます」

父「跡継ぎの指名が変わってもか?」

兄「はい」

父「分かった。部屋に戻れ」


兄が退室した後、父上が溜息を吐いた。

「ジュエル。そういうことだ」

「後3年待ってください。
場合によっては僕が求婚します」

「そんなに経ったら、条件のいい令嬢がいなくなるぞ」

「ベロノワですよ? 大丈夫ですよ」

「だけどオベールがこんなに不器用だっただなんて」

「母上。兄上だってアイリーンが初恋で、ずっと好きだったんです。他に恋愛なんてしていないんですから器用なはずがありませんよ。
腹立たしいですけどね」


だけどアイリーンが再びベロノワの地に足を踏み入れるのに3年もかからなかった。



















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