【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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一年後

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潮風に髪を靡かせながら港と船を渡すタラップの上を歩いた。

ベロノワの地に足を踏み入れるのは およそ1年ぶりだ。

「先に宿に行って荷物を預けましょう」


宿に荷物を預けた後、お菓子屋に行った。
ここを任せていた店長が夫の里帰りについて行かなければならず退職したいと願い出た。
後任を決めなくてはならない。

店長が言うには、腕が確かだけど対人関係が不器用な人と、接客を中心とした仕事を任せている人だった。

面談して、実際に店長になると何をしなければならないかを説明したら、菓子作りの人が 自分には無理だと辞退した。


解決したので、他に持ち店などを回り宿に戻った。
そこにはジュエルがいた。

「姉上!」

「ジュエル!」

抱きしめ合って喜んでいると お父様も登場して私を抱きしめた。

「頼りない父ですまなかった」

「お父様…」

そのままみんなで食事をして、2人は屋敷に戻った。

翌日の昼前にはお母様がやってきて泣かれた。

「私の育て方が悪かったから…オベールのお馬鹿がごめんね…ううっ」

「お母様…」

「飽きたんじゃなくて、フラれるのが怖かったらしいの。会う気になったら聞いてやって。

私達が散々罵っておいたから。ね?」

罵ったって…。

「いや もう、」

「まさか、異国の地で恋人が!?」

「いい人はいましたけど、そういうのはちょっと…。
だから断っています」

「そうなのね。私の可愛い天使ちゃん」

その後、昼食を一緒にとって 夕刻までお母様とお話をした。


夕食を食べ終わり、温泉に入って部屋に向かうと、部屋のドアの前にはオベール様が立っていた。

「アイリーン!」

力強く抱きしめられた。

「どうしてここに…」

「アイリーンへの気持ちは変わらない。飽きたりしていない!ただ拒絶されフラれるのが怖かっただけなんだ!」

「……」

「アイリーン」

仕方なく部屋に入れた。


「アイリーンは記憶が戻ったんだろう?
私のことを“ベル”と呼んだから分かった。

だけど記憶を失くす前、アイリーンに求婚して断られ アイリーンは走り去ってそのまま階段から落ちた。

記憶が戻ったから、離縁したいと言われると思って、耐えられなくて避けてしまった。 
飽きたわけでも愛していないわけでもなかったんだ。

私が悪かった」

「……」

「アイリーンがどうしても嫌なら、アイリーンの気持ちを受け入れる。だから帰ってきてくれ」

「私が嫌だと言ったら離縁するのですか」

「兄として尽くすと誓う」

「許せる気がしません」

「そうか」

「あの日、私はまだ幼くて、やっと普通の生活を送らせてくれる優しい一家の元に預けられたと安堵していたのです。

オベール様に求婚されて正直嬉しかった。
だけど跡取りのオベール様の手を取ることは、また別の場所に送られる要因になるのではと思って無理だと答えたのです。

泣きたくなって走ったら、うっかり階段で足を滑らせました」

「じゃあ、」

「だけど、婚姻式からずっと避けられて傷付きました」

「埋め合わせをするから帰って来てくれ」

「難しいです。

それに今 向こうの港を手直ししている最中ですから」

「まさか…この港みたいに!?」

「区画整理が終わりつつあって建物も立て直したり改修工事もかなり進んでいます。港町の皆さんは掌握したので、後は、」

「ちょっと待て。誰と組んでやっているんだ?」

「もちろん港を所有する領主です」

「名前は」

「コンドラー公爵領です」

「サルフェト王国か」

「はい」

「公爵家の家族構成は」

「家族構成?」

「公爵家の子供達だよ」

「長女、次女、次男です」

「長男は?」

「昔 海で行方不明になって発見されておりません」

「次男はいくつだ」

「ジュエルの一つ歳下です」

「求婚されなかったか!?」

「人妻だと知っています。

離縁の連絡が無かったので…あれ?私…独身ですか?」

「人妻に決まってるだろう。他には!」

「いくつかの貴族と王族と。
ですが、既婚者と答えたので」

「署名しなくて良かった~」

オベール様が顔を覆った。

そっとお酒を注いで飲もうとしたら手首を掴まれた。

「ちょっと待て」

「はい?」

「いつから酒など飲むようになった」

「サルフェトで注がれて…美味しいよって、」

「セイビアン!!ロザリーナ!!」

「ちょっと!煩いです!」

二人が入室した。

「何故アイリーンに酒を許したんだ?」

「主人が飲むと判断しましたので」

「主人がじっと見つめておりましたので」

「だから!許しちゃ駄目だろう!」

「オベール様だって飲むじゃないですか」

「主人は成人しています」

「アイリーンは女だぞ!襲われたらどうするんだ!」

「オベール様のように?」

「アイリーン……今はそこを突くな。
それに飲ませてなかっただろう」

「天使でした」

「可愛かったです」

「何がだ」

「一口飲んで美味しいと喜ぶお姿です」

「頬を染めてセイビアンに背負われるお姿です」

「酔っ払っているじゃないか!!」

「煩いですよ。そろそろ帰ってください」

「途中ということは また行く気なんだな?」

「はい。明後日の船で」

「どの宿に滞在しているんだ」

「公爵邸です」

「はあ!?」

「私が同室しております」

「ロザリーナが同じ部屋か」

「時々ユーリ様がお部屋に遊びにいらっしゃいますが、その時はセイビアンと交代します」

「次女?」

「ご子息です」

「部屋に入れちゃ駄目だろう!!」

「本当 煩いです。帰ってください。苦情がきちゃいますから」

「よく分かった。出直す」

「おやすみなさい」

オベール様を返して、疲れたので就寝した。

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