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偵察
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【 ユーリ・コンドラーの視点 】
港を含んだ領地を持つコンドラー公爵家は、南に位置するサルフェト王国の中でも過ごしやすい。
8年程前か、他国の港町で大改革を始めたと噂を聞いた。しかも海図というものを作っていて、海を把握したものだとか。
調査員を向かわせて数ヶ月後に報告が届いた。
整備された美しい港町は活気にあふれていたようだ。ベロノワ伯爵家には美少女がいるのだとか。
だけど彼女は子爵家の令息と婚約していた。
『子爵家!?
ベロノワの令嬢を子爵家なんかに嫁がせるなんて馬鹿だ。コンドラーに迎えよう』
そう言って17歳の兄上は求婚しに海を渡ろうとしたが運悪く嵐に遭遇したようで船ごと行方不明だ大きくなってから聞いた。
今ではベロノワの出す船は大嵐に遭うか他の船が衝突でもしてこない限り沈まないと定評だ。
そしてベロノワ領の港は大変な賑わいで、何処も真似たいと視察して自領に持ち帰るが上手くいかない。コンドラーの港もそうだった。
渡航で長男を失った両親はずっと反対していたが、学園が始まったら卒業するまで渡航が困難なことと、ベロノワの船が途中でコンドラーの港にも寄る旅客船のチケットが売り出し開始になったので、往復の特別室をおさえた。
これまではベロノワは商船しか立ち寄らなかったが、大型の旅客船だ。両親は渋々首を縦に振った。
天候が悪ければ引き返したり別の港に避難したり、別の航路を選択することを優先する。
例え王族が文句を言おうとも船員は無視する。
チケットを買う前に同意書をとっているからだ。
“船長並びに船員の指示に従い秩序を乱さない。
他の乗客ともトラブルを起こさない。
身分などに関係なくベロノワ領法の船舶法で裁く。
場合によっては小さなボートに乗せて船員無しに下船させる”
などといだた内容だった。
行きに船員と親しく話す貴族に声をかけて話を聞いた。
『凄かったですよ。
前方に嵐の兆候が目視できて、間に合うか分からないけど航路を外すと船長が判断したら何処かの王女が航路を外れることは許さないと騒ぎだしましてね。
“私は王女なのよ!”とか“処刑してやる”とか騒いでいましたが、船員と他の乗客の連れていた護衛達が一丸となって王女とその護衛達を手漕ぎボートに乗せたんです。
ゆっくり着水させようとしたら懇願するので引き上げて客室に閉じ込めました。
本当に 湖に来た観光客が乗るような小さな手漕ぎボートなんですよ』
『よく、協力しましたね』
『当然でしょう。
全員死ぬ恐れがあるから嵐を回避しようとしているんです。
命懸けですからね。何処の国かもわからない我儘王女のために死にたくありませんよ』
『なるほど』
『その後がまた面白い。
嵐を回避した後に大食堂で宴会を開き、王女を褒め称えたんです。
“王女殿下のご英断が奇跡をもたらした”と。
乗客達も芝居に乗って、王女に“女神様!”と拝みました。
馬鹿な王女は気分を良くして全乗客の渡航費を負担すると言って大盤振る舞いしていました。
同行の従者は“芝居だろう”“のせられている”などと忠言できず青ざめていました。
貴族を中心に乗せるベロノワの大型豪華旅客船のチケットや食事代がどれほど高額か、王女は知らないのです。
船長まで話が届き、慌てて書類を作り王女と従者に署名させていましたよ』
『払ったんですかね』
『払ったみたいですよ。ベロノワの新聞に載っていましたから』
ベロノワ港に到着して港町を視察した。
このまま模せばいいのにと思うが何故失敗するのだろう。
1日目の夜、従者が貴重な情報を仕入れて来た。
『帰りの船にアイリーン・ベロノワの名がありました。ランクはBです』
『本当か!』
従者は、帰りのチケットが確かなものか確認をしに行った。当日に漏れがあっては困るからだ。
名簿を捲っていく途中で見えたらしい。
2日目、彼女の情報が入った。
『子爵令息は病死して、隣国の公爵家に嫁いでおりましたが、離縁してベロノワにいるようです』
『独身なんだな?』
『それが、既婚者だと言うんです。ベロノワだって。それ以上は教えてもらえませんでした』
帰りの乗船2時間前に乗船を管理する船員をつかまえた。
『サプライズをしたいんだ。
私は特別室のチケットを購入しているユーリ・コンドラーだ。
彼女のお父上に世話になっているのだが、なかなかお礼ができなくて。
どうやら偶然、彼女がBチケットで同じ船に乗りコンドラーを経由する旅に出ると聞いた。
そこでサプライズとして私のチケットを彼女に譲りたい。彼女達のBランクの部屋に私達を通してくれないか』
『よろしいのですか?』
『コンドラー公爵家に二言は無い。
キャンセルが出たと言って案内してあげて欲しい』
『お相手の方のお名前は』
『ベロノワ家のご令嬢アイリーン様だ』
『アイリーン様は受け取られるかどうか』
『知っているのか?』
『ベロノワ港で働く者は皆 アイリーン様のファンですから』
『そうか。夫婦喧嘩をしてキャンセルになり空いているとでも言ってくれ。特別室の方が安全だ』
『感謝いたします』
港を含んだ領地を持つコンドラー公爵家は、南に位置するサルフェト王国の中でも過ごしやすい。
8年程前か、他国の港町で大改革を始めたと噂を聞いた。しかも海図というものを作っていて、海を把握したものだとか。
調査員を向かわせて数ヶ月後に報告が届いた。
整備された美しい港町は活気にあふれていたようだ。ベロノワ伯爵家には美少女がいるのだとか。
だけど彼女は子爵家の令息と婚約していた。
『子爵家!?
ベロノワの令嬢を子爵家なんかに嫁がせるなんて馬鹿だ。コンドラーに迎えよう』
そう言って17歳の兄上は求婚しに海を渡ろうとしたが運悪く嵐に遭遇したようで船ごと行方不明だ大きくなってから聞いた。
今ではベロノワの出す船は大嵐に遭うか他の船が衝突でもしてこない限り沈まないと定評だ。
そしてベロノワ領の港は大変な賑わいで、何処も真似たいと視察して自領に持ち帰るが上手くいかない。コンドラーの港もそうだった。
渡航で長男を失った両親はずっと反対していたが、学園が始まったら卒業するまで渡航が困難なことと、ベロノワの船が途中でコンドラーの港にも寄る旅客船のチケットが売り出し開始になったので、往復の特別室をおさえた。
これまではベロノワは商船しか立ち寄らなかったが、大型の旅客船だ。両親は渋々首を縦に振った。
天候が悪ければ引き返したり別の港に避難したり、別の航路を選択することを優先する。
例え王族が文句を言おうとも船員は無視する。
チケットを買う前に同意書をとっているからだ。
“船長並びに船員の指示に従い秩序を乱さない。
他の乗客ともトラブルを起こさない。
身分などに関係なくベロノワ領法の船舶法で裁く。
場合によっては小さなボートに乗せて船員無しに下船させる”
などといだた内容だった。
行きに船員と親しく話す貴族に声をかけて話を聞いた。
『凄かったですよ。
前方に嵐の兆候が目視できて、間に合うか分からないけど航路を外すと船長が判断したら何処かの王女が航路を外れることは許さないと騒ぎだしましてね。
“私は王女なのよ!”とか“処刑してやる”とか騒いでいましたが、船員と他の乗客の連れていた護衛達が一丸となって王女とその護衛達を手漕ぎボートに乗せたんです。
ゆっくり着水させようとしたら懇願するので引き上げて客室に閉じ込めました。
本当に 湖に来た観光客が乗るような小さな手漕ぎボートなんですよ』
『よく、協力しましたね』
『当然でしょう。
全員死ぬ恐れがあるから嵐を回避しようとしているんです。
命懸けですからね。何処の国かもわからない我儘王女のために死にたくありませんよ』
『なるほど』
『その後がまた面白い。
嵐を回避した後に大食堂で宴会を開き、王女を褒め称えたんです。
“王女殿下のご英断が奇跡をもたらした”と。
乗客達も芝居に乗って、王女に“女神様!”と拝みました。
馬鹿な王女は気分を良くして全乗客の渡航費を負担すると言って大盤振る舞いしていました。
同行の従者は“芝居だろう”“のせられている”などと忠言できず青ざめていました。
貴族を中心に乗せるベロノワの大型豪華旅客船のチケットや食事代がどれほど高額か、王女は知らないのです。
船長まで話が届き、慌てて書類を作り王女と従者に署名させていましたよ』
『払ったんですかね』
『払ったみたいですよ。ベロノワの新聞に載っていましたから』
ベロノワ港に到着して港町を視察した。
このまま模せばいいのにと思うが何故失敗するのだろう。
1日目の夜、従者が貴重な情報を仕入れて来た。
『帰りの船にアイリーン・ベロノワの名がありました。ランクはBです』
『本当か!』
従者は、帰りのチケットが確かなものか確認をしに行った。当日に漏れがあっては困るからだ。
名簿を捲っていく途中で見えたらしい。
2日目、彼女の情報が入った。
『子爵令息は病死して、隣国の公爵家に嫁いでおりましたが、離縁してベロノワにいるようです』
『独身なんだな?』
『それが、既婚者だと言うんです。ベロノワだって。それ以上は教えてもらえませんでした』
帰りの乗船2時間前に乗船を管理する船員をつかまえた。
『サプライズをしたいんだ。
私は特別室のチケットを購入しているユーリ・コンドラーだ。
彼女のお父上に世話になっているのだが、なかなかお礼ができなくて。
どうやら偶然、彼女がBチケットで同じ船に乗りコンドラーを経由する旅に出ると聞いた。
そこでサプライズとして私のチケットを彼女に譲りたい。彼女達のBランクの部屋に私達を通してくれないか』
『よろしいのですか?』
『コンドラー公爵家に二言は無い。
キャンセルが出たと言って案内してあげて欲しい』
『お相手の方のお名前は』
『ベロノワ家のご令嬢アイリーン様だ』
『アイリーン様は受け取られるかどうか』
『知っているのか?』
『ベロノワ港で働く者は皆 アイリーン様のファンですから』
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『感謝いたします』
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