【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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女神との出会い

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【 ユーリ・コンドラーの視点 】


早めに乗船して、他の乗客の乗船の様子を眺めていた。
しばらくすると 部屋の交換を頼んだ船員が令嬢に説明をしているようだった。

髪の色も聞いていた色と同じ。
いかにも貴族という身なりをしていないが船員の動きから他の乗客には向けない親しみと敬意が感じ取れた。

あのだ!


話しかけたいが特別室のある階へは、特別室のチケットがないと立ち入れなかった。
だが偶然はやってきた。

夜、外廊下で声がした。

『私は王族のだぞ。大人しく部屋に来い』

『放して!』

『どなたかは存じませんが、主人から手を放さなけらば海に落としますよ』

彼女が男に言い寄られていた。
部屋に来い!?
彼女は一夜の女にしていい人ではない!

私の護衛に合図を送り、割って入った。

『王族のだって?』

『誰だ!』

彼を掴んでいる男の指を捻り、強制的に放させた。

『で、王族と言っても広いんだけど。その感じじゃかなり血は薄いんじゃない?』

『不敬だぞ!』

『国王陛下から何等身なんだ?爵位は?』

『……』

『この船の中は ある意味治外法権のような特別な空間だ。署名して乗船した以上、問題を起こせば海に捨てられる。合法的にね。それが国王だろうが関係ない』

『あれは建前で、』

『建前な訳ないでしょう。
それで?国王陛下から何等身なんだ?身分を明かせ。其方から言い出した事だろう』

『じ…じゅ、』

『爵位は』

『…子爵……次男』

『もういい。私は国王陛下から5等身だが、王族の血筋だと言いながらか弱いレディに無理強いするような下衆な真似はしたことがない。大人になってもするつもりはない。

次期公爵の身としては、このような犯罪行為を見過ごしたくない』

『っ!!』

『無様過ぎるから二度と“王族のはとこ”とか言うな。十いくつか知らないが、もうそれは王族とは言えない。面汚しなだけだ。
どんな身分でも嫌がる女性を無理強いすれば犯罪者だ。

その頭でも頑張って理解しろ』

男は逃げていった。

『ありがとうございました。公子様』

『夜は他の客達に紛れて食堂を出るといい。
……乗船中は私が夕食の後の移動に同行しよう』

『ご迷惑になりますわ。部屋でとります』

『食堂の方が品数が多いし見て選べる。
遠慮しないで。船上では助け合いが大事だろう?』


ここからが肝心だ。警戒心を持たれてはならない。

旅仲間というていを崩さず、彼女が話題を振らない限り 旅や食べ物などの話題に徹した。
家名は尋ねず 特別室のあるフロアへの直通階段まで毎夜送った。

その間にも私はアイリーンに惹かれっぱなしだった。
結婚指輪もしていない。真偽を知りたい。


翌日はコンドラー港に到着予定だった。
ここで初めて家名を明かした。

『明日は私の領地に到着するんだ。
残念だけど明日お別れしなきゃ。
せっかく友達になれたのに。

もうすぐ学校が始まるし、卒業するまで船旅はできない。
今回は頼み込んでやっと許可してもらえたんだ。
もう会えないと思うと寂しいよ。
気さくに話せる女の子の友人はいないからね』

『コンドラー公爵令息?』

『そうなんだ。
昔 兄が船で行方不明になって今も戻らない。
この船で…兄が旅をしていたら…コンドラー家は悲しみに囚われ続けるなんてことは無かっただろう。

コンドラーもベロノワの様に、安全で豊かで家族が悲しみに暮れることもない港にしたかったが、私にはとても無理そうだ。

明日は両親に、私には無理だと伝えなければならない。
アイリーン様との楽しいひと時と友情を思い出に生きて行くよ。

今日までありがとう。
何処が目的地かは知らないけど気を付けてね。
夕食の後 船員に頼んで送ってもらって。心配だから。

セイビアン。ロザリーナ。世話になったね。
セイビアンはもう少し 噛んでから飲み込んだ方がいいよ。ロザリーナは女の子なんだから冷たい飲み物ばかり選んだら冷えちゃうよ。
身体に気を付けてね』

『………』


翌日、船はコンドラー港に停まった。
荷物を持ち下船するとアイリーン達も下船した。

『あれ?どうしたの?』

『コンドラーを観光しようと思って』

『本当!?嬉しいよ』

『お勧めの宿はありますか』

『水くさいな。うちにおいでよ。
両親も使用人達も喜ぶからさ。
姉2人が嫁に出ちゃって、男児の私だけだから華がないって母やメイド達が気落ちしているんだ。 

迷惑じゃなければ話し相手になってあげてよ』

『……突然見知らぬ私などが押しかけては失礼ですわ』

『一人先触れを出しに走らせるから、ゆっくり行こう。
こんな機会は二度とないから嬉しいよ。
兄が海路で行方不明になって 姉2人が嫁に行って、私には気の許せる令嬢の友達はいない。
アイリーン様を招待したら母上達がどれだけ喜ぶか』

『分かりましたわ』

『アイリーン様。私達は友達だ。敬語なんかよしてほしい。私もアイリーンと呼ぶから ユーリと呼んで。アイリーンとユーリ。友達だ』

『分かったわ、ユーリ』

やった!作戦は成功だ!

護衛の一人に“絶対にベロノワと聞いても騒がす冷静に。息子の友人扱いに徹してくれ”と伝言を預けて走らせた。


屋敷に到着すると母上が出てきてくれた。

『お帰りなさい ユーリ。お友達が一緒と聞いたわよ』

アイリーンを降ろして紹介した。

『アイリーン。母のヴァネッサ・コンドラーだ。
母上、彼女は友達のアイリーン……あれ?聞いたっけ?』

『アイリーン・ベロノワと申します。
突然の訪問をお許しください』

『何処かで聞いたような……』

『母上』

『ごめんなさい。疎くて。
こんなに可愛らしいお嬢さんが遊びに来てくださるなんて嬉しいわ。
お部屋に案内させるわね。
すぐにお茶にしましょう』

その後は皆 普通の令嬢が遊びに来たように振る舞った。

『可愛いわ。こんなに可愛いお友達を連れてくるなんて、ユーリもたまには役に立つのね』

『母上、酷いですよ』

『だって、令嬢を毛嫌いして寄り付かせないじゃない』

『穢れた心が顔に出ているからですよ』

『アイリーンちゃんは おいくつかしら』

『今年で18歳です』

『ユーリの2つ上なのね』

『ユーリ、学校はいつから?』

『サルフェトは入学時期を選べるんだよ。
16歳から18歳の間に入学して2年通うだけだ。
領地のことなどで忙しければ免除されるんだよ』

『お友達を作りに通いなさいって説得したのよ』

『でも』

『お父様もお元気だから焦らなくていいの。
いつかコンドラー港も良くなるわ。

それより、アイリーンちゃんの好きな食べ物は?
お夕食に出しましょうね』

『……』

もう少しだ。

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